<プロローグ> 繰り返される悪夢
“……って、待って…行かないで……っ!”
“ごめんね、お姉ちゃん。……さよなら。”
“ユナっ、待って―――……”
寒くて、痛くて、怖い。目の前の景色が歪んで、崩れていく。
―――………どうして。
「ユナっ!!」
勢いよく上半身を起こすと、“バサッ”と何かが落ちる音が耳を掠める。それと同時に、体が冷ややかな外気に触れた。
不格好に伸ばされたまま固まっている手。その先には、見慣れたいつも通りの真っ暗な寝室に、ベッドから落ちた掛布団が広がっている。
“夢を見た”
自分の置かれているその状況を理解した途端に、ツゥ……っと冷たい汗が背中を伝う。恐怖心を表すその感覚に、“ハッ”と乾いた笑みが口から零れた。静かな寝室に小さく響いたその音は、まるで自分自身を嘲笑っているように聞こえる。
「………懲りないな、私も」
そっと独りでに呟いて、上半身の力を抜くと、その勢いで2,3回弾んだ体は、そのままベッドに収まった。暗闇に慣れてきた目で、天井をじっと眺める。
“あの日”から、何度この夢を見ただろう。幾度となく繰り返される“悪夢”は、二年が過ぎてもなお、鮮明に脳裏に焼き付いて離れないこの記憶の所為。
そっと、目を閉じる。
こうすれば、まるで昨日のことのようにあの時の景色がよみがえる。私からすべてを奪い、私のすべてを変え、私がすべてを知り―――……。“今の私”を作り上げた、“あの日”の景色が。
最初の方は思い切りシリアスですが、徐々にコメディーへと変化していくのでどうか今しばらくお待ちください。