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中国語の方言は方言というレベルではない

 「方言」というと日本人は大阪弁を思い浮かべるかもしれないが、少なくとも大阪弁は日本語であり通じることは通じるだろう。

 しかし中国語の方言というのはそんなレベルのものではない。中国には何千何百という方言があり、しかもそれぞれの差異が大きすぎて全く通じない。

 たとえば北京からほんのちょっと離れただけの天津にも天津話があるし、上海の上海語はもはや別言語である。上海語は発音があんまりにも違うので、中国人の耳には日本語のように聞こえると聞いたことすらある。

 中国で「普通話」と呼ばれる標準語が制定されたのはこうした事情によるものだ。しかし地方では方言が強いので、地元民の会話は若い人でも方言と標準語を混ぜたものになる。

 中国語の方言は大体七つに分類される。粤語(広東語など)、北方語(北方方言、東北方言など)、呉語(上海語など)、贛語、湘語、閩語(台湾語など)、客家語である。この中でとりあえず粤方言の広東語をとりあげて普通話と比較してみようと思う。


①発音が違う


你好 你好

ni3hao3 → nei5hou2


 ニーハオではなくネイホウである。おまけに声調が違う(普通話では二つとも三声だが、広東語では五声と二声)。

 広東語の声調は六つである。入声も含めるなら九つで、中国語の諸方言の中でも多い部類になる。


詩 si1

史 si2

試 si3

時 si4

市 si5

事 si6


色 sik1(7)

あまり使われない sik2(8)

食 sik3(9)


 ここで注目していただきたいのは、広東語はただ声調が多いだけではなく末子音があることである。

 普通話には末子音はnとngの二種類しかない。しかし広東語はこれにm、k、t、pを追加した六種類である。例えば「三」は普通話ならsan1だが、広東語ではsaam1で末子音はmである。かつて古い中国語にはこうした末子音が存在していたが失われた。日本語も多少の名残があって、「三位一体」を「さんみ」と読むのはもともと「三」の末子音を反映したものであった。

 他にも日本語で音読みが「チ」「ツ」で終わるものは「-t」になるのは、末子音の名残である。例 「一 イチ → yat1」「失 シツ → sat1」など

 そんなわけで「食」は「ショク」と読む通り、広東語でも「sik6」になる。


 他にも広東語にはrはそり舌音がなかったり、母音が多かったりと普通話とかなり発音が違う部分がたくさなる。

「時間 シーカーン」「簡單 カーンターン」とか聞いてると日本語にじゃっかん近い部分もあるように感じる。普通話ならshi2jian1 シージエン jian3dan1 ジエンダン


②文字が違う


 香港・台湾限定ではあるが繁体字を使っているので文字が違う。「台湾」も「臺灣」になる。


③語彙が違う


 広東語には口へんの漢字が多い。普通話にない漢字を書き表すために、たくさん字を作ったからだ。例えば「的」は「嘅」になる。


我的 → 我嘅 私の

wo3de0 ngo5ge3


◎「我」は広東語だと鼻濁音のngoという発音になるが、よくngが落ちてoになったりしている。


「我们」は「我哋」、「这个」は「呢個」だし、「那个」は「嗰個」で全く違う。言い回しも違って「几点(何時)」が「幾時」になったり、「喝 飲む」「吃」はそれぞれ「飲」「食」になって逆に日本語に近かったりする。


④文法が違う


 普通話では「食べている」という継続のアスペクトを表したい時、「在」を使うと言った。しかし「在吃」は広東語では「食緊」になって動詞の後ろに「緊」という字が来る。

 また広東語で「畀」は普通話における「给」とにて「あげる」というような意味になるのだが、「给我钱 私にお金をくれる 给+私+お金」は「畀錢我 畀+お金+私」になって語順が違う。


***


 こんな感じで広東語は普通話とかなり違う。では広東省では普通話は通じないのかというと、実は彼らは本を読んだり書類を書いたりするときは書記言語として普通話を使用しているので、若い世代はほとんど問題なく普通話ができると言っていい。

 しかし残念ながら彼らが話しているのは「広東語訛りの普通話」である。それはそれで普通話と違う部分もあって普通話しかできない人は聞き取れないかもしれない。


広東語訛りの普通話の特徴


Ⅰ 一部の発音の消滅


 まずそり舌音が消滅するので、zh ch sh rはなくなってしまう。


知道 zhi1dao0 → zi1dao4

是 shi4 → si4


 広東人もrが発音できないので儿化音もない。erもeになってしまう。(地域によってまた違う)


有点儿 一点儿 → 有点 一点

二十 er4shi2 → e4si2

人 ren2 → ひどいとyan(広東語でyanと読む)


 軽声も消滅する。


东西 dong1xi0(もの) → dong1xi1(東西と同じ発音になる)

 

 前鼻音・後鼻音の違いもなくなって、san shan sang shangが全部sanになったりする。


Ⅱ 語彙が違う


 香港人の友人によれば「手机」を「手提」、「笔记本电脑」を「手提電腦」ないし「notebook」と言うらしい。


Ⅲ 文法が違う


 「你先走」を「你走先」と言うなど、語順が入れ替わることがある。


***


 こういうものは広東省にとどまらず中国各地に存在する。中国語を勉強するときは基本的には普通話を学ぶべきではあるが、結局どこかの都市に行くときはその都市の方言について多少なりとも学んだ方がいいかもしれない。

 正直、方言というよりはドイツ語とフランス語ぐらい違う別言語である。広東省には広東語にとどまらず、客家語や潮州語など様々な方言がある。


 訂正:「入声」はp t k(方言によってはhも)のみを指すので不適切でした。「末子音」に訂正します。

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