中国語発音攻略 声調編
さて、今までずっと文法の話ばかりしてきたがとうとう発音についてとりあげようと思う。
中国語の発音はおそろしく難しい。おそらく世界中の様々な言語の中で最も発音が難しい部類に入ると思われる。
その原因は何といっても声調である。声調というのは一つの音節の中で発生する音の上がり下がりのことで、北京語は全部で四つある(軽声を加えるなら五つである)。
1 高く平らに ā a1
2 上がる。「ええ?」と驚いて聞き返すように á a2
3 低く抑える。日本語にない ǎ a3
4 下がる。「まぁ!」と驚いたように à a4
0 軽声 a a0
広東語やベトナム語、ミャオ語といった言語では声調がもっともっとたくさんあるので、北京語はこれでもまだ楽な方である。
しかし非声調言語母語話者にとって、声調を習得することはそう容易くいかない。日本人が中国語の声調を勉強するときに何が問題になるのか、筆者なりに整理してみようと思う。
①声調の言い分けができない
実は北京語の一声・二声・四声はほとんどの言語に存在する。しかしほとんどの言語ではこれらの音の上がり下がりはただのイントネーションとしてとらえられており、意味上の違いを生み出さない。
例えば英語のアルファベットの「A」の発音で比較してみよう。
Aだけで発音する場合 四声
A, B, C, .. 一声
A? 二声
英語ではある単語をそこで言い切る時、たとえば「This is A./A.」という場合、下がるイントネーションになる。そして何かと並列する場合平らなイントネーションになって、疑問調になると上がる。
こうやって見ると別に英語にも声調と似たものはあるのだが、問題は意味の上で違いがあるわけではないということだ。
たとえば「A.」を「A?」と発音したところで意味は変わらない。英語におけるそれはイントネーションであり、その単語が文のどこに来ているかということを示しているだけだからだ。
しかし中国語の場合、「是 shi4」を「十 shi2」と言ってしまえば意味が変わってしまう。「是」を疑問調で発音しようがどうしようが絶対「shi4」は「shi4」である。日本語(標準語)で「雨」を何度どのように発音しても「飴」にならないのと同じである。
しかし非声調言語母語話者が中国語を喋ると、疑問文になると勝手に声調を二声に変えてしまったり、「高く平ら」であるはずの一声を勝手に下げて四声みたく読んでしまったりする。
これは慣れるまではどうしようもなく、まず「声調自体の言い分け」が最初の関門であると言える。
△おまけ
じゃあ中国人はどうやって単語を疑問調で発音するのか? とおっしゃる方もいるかもしれない。
結論からいうともともとの声調を強く読めばいいのである。
たとえば「吃 chi1」を「吃?」にしたら、同じ一声であるが「吃?」の方が高い。英語と違い、イントネーションは変化しないがピッチが変化する。
②三声ができない
第三声は非声調言語の多くに存在しない。
簡単に言えば低く抑えてそこから少し上がるというものであるが、よく聞くと声がきしんでいるように聞こえる。強調して発音した時この特徴はかなり明確に出るので、なんだこいつ声潰れてんじゃねと思ったら三声である。
よく二声と三声と混同してしまう学習者が多いが、二声はただ上がっているだけなのに対し、三声はかなり低いところでとどまってから微妙に少し上がっているだけである。
三声こそ中国語らしい発音を生み出している声調であるといえ、似たような声調は他の多くの声調言語に見られる。
③二音節以上の声調の組み合わせを言い間違える
さて、これも大きな問題である。というのも二字以上の声調の組み合わせになると変調する声調が出てくるからである。
代表格は三声+三声、そして二声+二声の二つである。
・三声+三声
你好! ni3hao3
ある程度上級になると「はい、ni2hao3ですね」と分かるのだが、どの教科書を見てもni3hao3と書いてあるわけだ。まあ実際中国人はこの変調に気づいておらず習慣的にやっているだけなので、書くときはあくまでもni3hao3と書くわけであるが実際の発音はni2で前の声調が二声になる。
・二声+二声
はっきり読むときは両方とも二声で読むのだが、会話だと後ろの二声が死んでしまって軽声ないし一声のように読む人が多い。上級者はこれも知っておいた方がいいかもしれない。
・三声+その他の声調
三声はどこまでいっても曲者で、言い間違える人が非常に多い。例えば「改天 gai3tian1」「改革 gai3ge2」「改变 gai3bian4」を発音する時、gai3はほとんどただの低い音になるのだが、二声に引きずられてgai2のように読んでしまう人が多い。
よほど強調して読まない限りは、後ろに三声以外の声調が続く三声はただ低く読めばいい。例えば「改天 gai3tian1」はちょうど日本語(標準語)で「犬」とか「山」と言うとき、「いぬ 低高」「やま 低高」という感じでOKである。
・不+四声変調
先日数量の一は変調するという話をしたが、他にもこういう現象がある。
不对bu2dui4とか不是bu2shi4と言うときは「不」はbu4からbu2に変調するのだが、割と上級者でも間違えるので気をつけたい。
・軽声
軽声は北方的な声調弱化現象であるが、普通話の発音の一部であるので習得することが望ましい。
簡単に言うと、二音節以上になった時最後の音節の声調がなくなってしまうことである。なくなる、と言っても前の声調に引きずられるので全部同じ音というわけではない。
一声+軽声 知道 zhi1dao0 低く短く
二声+軽声 回来 hui2lai0 明白 ming2bai0 弱い四声のように、高いところから少し下げる
三声+軽声 喜欢 xi3huan0 弱い一声のように、高く短く
四声+軽声 钥匙 yao4shi0 低く短く
こういう感じでもともとのその漢字の声調とは関係なく読むので、いちいちひとつ一つ覚えなければならない。軽声のあるなしで意味の違いが発生することもある(精神 jing1shen2は精神の意味だが、jing1shen0だと活力、元気の意味になる)。
ちなみに文法要素になる「了」や「的」といったものは大体軽声になる。
④声調を自然に読むことが難しい
これこそまさに一番難しいところである。声調がある程度正しく発音できるようになっても、外国人学習者にはこの「自然さ」の問題がつきまとう。
中国語の声調において音の高い低いというのはあくまで相対的なものであって、絶対的なものではない。
つまり、中国語の発音練習CDとかで「ハイソレジャ一声ノ発音練習シマショ。『アー』」とか言って読んだ時の音の高さで読まなければならないとかそういうものではない。あくまで平らに読んでいれば一声になる。
日本語のアクセントで「プロミネンス」という用語があるが、この「プロミネンス」のようなものを意識して中国語を喋るとより自然に聞こえるかもしれない。
例えば「私は昨日友達と一緒に学校に行きました」という文を読むとき、「私」「昨日」「友達」「学校」のどれを強調するかによって、イントネーションに変化が出る。
中国語でもそれは同じで、文中で強調するべき単語というのは文の主役になる要素で、他は短くさっと読めばいいのである。例えば「他是我的一个同学」というとき、「是」は文の中心的役割を果たすものではないので、(よほど強調して発音する場合を除き)いちいち中国語の発音練習CDみたいに「是!shi4 はい、思いっきり下げて!」みたいに読まない。
声調もイントネーションに左右されるので、ある程度上級になったら文全体として声調が自然に聞こえるような発音練習をしてみるといいかと思う。
声調の組み合わせが苦手な人が多いので、声調を単独で練習するのではなく二音節以上の組み合わせで(一声+二声、二声+一声)練習することも大切。