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頑張れ火錬ちゃん!

 更に二時間が経過して。

 屈辱的なことに、火錬の服がペイント弾の粘液でぐっちょぐっちょのどろどろにまで成り果てた頃には、ようやくアウトレンジ戦闘も様になってきていた。

 桐継が言ったような、向き・目線・タイミングで銃弾を避ける事は出来なかったが、それでも勘が鋭くなり始めたのか、桐継が撃ってくる弾の内の半分は避けられるようになっている。

「………………」

 理屈ではなく勘とセンスで戦闘能力を引き上げていく存在。

 確かに彼女は天才なのだろう、と桐継も息を呑む。

 勿論、本人の前では言わないが。

 黒鋼火錬が幼い頃から武術を学んでいたら果たしてどうなっていたのか。

 恵をも凌ぐ使い手になっていたかもしれない。

 そんな予感をさせるほど、火錬の成長はめざましいものがあった。

 もちろん、今現在は未熟者に変わりはないのだが。

「ちょ、休憩……休憩させて……」

 体力の限界がきたのか、火錬はべちょべちょのまま床へと倒れ込んだ。一歩たりとも動きたくないらしい。

 ぐで~、と大の字になる。

「火錬ちゃん。今すっげぇエロいぞ」

「うるさいなぁ。もう反論する気力もないから好きに言って……」

「ホントに? じゃあ好きに言わせて貰おうかな。卑猥ワード攻撃で火錬ちゃんをいたぶりつくそう!」

「……ごめん。やっぱりやめて」

「……ちぇ」

 つまらなそうに舌打ちする恵。

「まあ大分マシになったことは確かだな。二回戦くらいならまだ勝ち抜けるんじゃないか」

 桐継の方は銃をホルスターにしまい込んで、軽く息を整える。火錬と較べて運動量が少ないのもあるが、やはり桐継の方も体力的に化け物クラスらしい。

「二回戦の賞金……せめて二百万はあるといいんだけど……」

「五百万って言ってたぞ」

「やった!」

 へとへとになりながらも嬉しそうに拳を握る火錬。当分生活できるだけの金額についついはしゃいでしまったらしい。

「一人頭百六十六万ってところだな。残りはまた打ち上げにするか」

「二万あったら焼き肉でもいいかもね~」

「焼き肉か。霜降り和牛がいいな」

 三人の夢は膨らむ一方だ。

 もう勝つつもりでいるらしい。

 強気なのはいいことだ。

「しかし、随分と汚しちまったな……。掃除が大変そうだ」

 桐継がぼやく。

「そうだな。火錬ちゃんはまだしもペイントそのものは結構染みになって残るんじゃないかな……やばいかも……」

「あうう~。誰か私の心配もしてええぇぇぇぇ」

 ペイント塗れになっている、見た目●●塗れになっている火錬としては、ここからどうやって帰るのかが問題だ。こんなことになるとは思っていなかったので着替えも用意していない。

 そしてそんな火錬を無視しつつ恵が携帯電話を取り出す。どこかに連絡するようだ。

 しばらくコール音が鳴った後、目的の相手が出た。

「もしもし、塔宮さん? 直純です」

『ああ。珍しいね、恵くんの方から連絡をくれるなんて。どうした?』

「いや……言いにくいんですけど、塔宮さんに借りていた修行用の道場、ちょっと汚し過ぎちゃって……。きちんと掃除はしますが、完全には綺麗にならないかもしれません」

『ん? ああ、構わないよ。元々そこは来月取り壊し予定の場所なんだ。汚しても壊しても構わない修行場所として貸してあげたんだから気にしなくてもいい』

「安心しました。じゃあ軽く掃除だけしておきますね」

『そうしてくれ。火錬ちゃんの成果は?』

「まだまだですが、二回戦くらいまでは使い物になると思います」

『それは何よりだ。セクハラもほどほどにしておくんだよ』

「その内オレにおっぱい揉まれないと落ち着かないとまで言わせて見せますので大丈夫です」

「言わないよ! 絶対言わないよそんなこと!」

 そこで火錬が割り込んで叫ぶ。

 黙って聞いていられる内容ではないので当然だろう。

『ははは! うまくやってるようじゃないか。まあ若者同士のことにおじさんが口を出しても仕方がない。ゲームに影響しない程度に乳繰りあってくれたまえ』

「乳繰りあいもしません!」

 再び火錬が抗議。

「乳突きなら沢山しました」

「言うな!」

『はははは! いいね、私も混ざりたいくらいだ。……第二戦の場所は追って連絡する。恐らくは二日後になるだろうから準備しておいてくれ』

「了解しました」

 そして電話を切る。

 恵はポケットに携帯電話をしまいこんで、べたついた火錬の顔に手を添える。

「二日後だってさ、火錬ちゃん」

「ん~。がんばるぅ」

 べたっと手を付けて、離す。

「?」

 何をしているのだろうと首を傾げると、顔に着いていた白いねばねばを親指と人さし指を動かして糸を引いて見せた。

 火錬の目の前で、ねば~、べと~、と繰り返す。

「ちょっ! 師匠それやめて! エロい! エロいから!」

 あくまでもペイント弾の付着なのだが、色と材質がアレなのでアレにしか見えない。

「エロいだなんて心外だなぁ火錬ちゃん。火錬ちゃんの顔はコレ塗れなのに~。つまり火錬ちゃんの顔はものっそいエロエロになってるってことだよね~」

「言うなぁぁぁぁっ!!」

「……デジカメはないが、携帯写真という手もあるぞ」

「撮ったら壊す!」

 ボソリとした桐継の提案に、断固拒否の姿勢を貫く火錬。

 火錬の修行ライフはこんな感じで過ぎていくのだった。


火錬ちゃんってば不憫すぎる……

とか言うと思ったか!

いいぞもっとやれー!

とか言っちゃう鬼畜な水月ですが、これでも可愛がってるつもりです。

ちゃんと、可愛がってるよ?

本当だよ?

本当だってば!

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