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それぞれの事情 火錬の場合

「うぅぅぅ……あのセクハラ師匠ズ、もう少しどうにかならないかなぁ」

 恵と桐継と別れてから一人家路に着く火錬。

 恵の強さを嫌と言うほど理解している火錬にとって、これからどれだけ自分のおっぱいが犠牲になってしまうのかが簡単に想像できてしまう。想像して、何とも恐ろしい気持ちになってしまうのだった。

 しかしここでリタイアするわけにもいかない。

 火錬には火錬の理由があるのだ。

 生きるために必要な、切実な理由が。


 黒鋼火錬は一人暮らしである。

 十六歳の少女が親元を離れて一人暮らしをしている、という意味ではなく、頼る相手の居ない意味での一人暮らしである。

 元々母子家庭で育ったため、裕福な暮らしとは無縁だった火錬だが、三ヶ月前に交通事故で母親を亡くしてからは明日の暮らしにも困るような状況に陥ってしまった。

 ギリギリの暮らしをしていた二人なので、勿論遺産などはない。辛うじてあった貯蓄も、家賃の支払いなどでほとんど尽きかけている。

 高校も中退した。

 授業料が無償化されても、学生というだけで何かと金の掛かることがあるのだ。さすがにこの状況で悠長に学校になど通っていられない。

 まずは働かなければと職探しに励むが、ど不況の世の中でそう簡単に仕事など見つかるはずもなく、日雇いのバイトでなんとか食いつなぐ三ヶ月だった。

 しかし家賃、光熱費などの支払いも貯まっていく中、それだけで食べていける筈もなく、火錬はほとほと困り果てていた。

 いっそ身体でも売るか! と実に後ろ向きな決意をしたとき、SGの噂を耳にした。

 賭けバトル。

 賞金。

 命の危険はない。

 それは、追い詰められた火錬にとって天啓のような話だった。

 多少危険なことはあるかもしれない。

 怪我くらいはするかもしれない。

 だけど、生きていくにはお金が必要だ。

 身体を犠牲にする、という意味ではどちらも変わらないように思う。

 だったら、挑戦してみるのも悪くない。

 幸い、運動神経には自信がある。動体視力も悪くないと思っている。練習試合限定だが、剣道部の助っ人になったこともあるくらいだから、荒事になっても多少は大丈夫だという自負がある。

 火錬はそう思い立ち、さっそく参加者を募集している企業を探し始めた。


 そうして応募先として目をつけたのが『塔宮グループ』だった。

 塔宮グループを選んだ理由は特にない。

 ただ、よく聞く名前だ、有名なんだろう、じゃあ金払いも間違いないだろう、というちょー適当な三段論法で選んだだけだ。

 そうして会長である塔宮悊人と会うことになり、『アウトロー・ヘヴン』の仲間になる直純恵と草薙桐継に引き合わされたのだった。

 五人チーム戦なので一人で参加するのは無謀だし、誰かと組まされることは予想していたが、まさかここまで遠慮ないセクハラ二人組だとは思わなかった。

 ……いや、最初はそうでもなかったのだ。

 むしろ『火錬ちゃんの戦闘スタイルは未熟すぎる。このままゲームに参加しても足を引っ張られるだけだからオレが鍛えることにするよ。文句はないよね?』などと不安が残っていた火錬に対して修行を提案してくれたくらい頼りになる印象だったのだ。

 実際、手合わせしてみるとまるで歯が立たなかった。

 剣道の全国大会選手を相手にしても一本取ったことのある火錬としては、さすがに悔しい思いもしたのだが、それ以上に恵の強さに感服していた。

 恵の動きはとにかく綺麗なのだ。

 無駄がなく、洗練されている。

 舞うように、というのは正にこういう人のことを言うのだろうと火錬は思ったくらいだ。


「まあ、師匠についていれば間違いなく強くなれるし……我慢するしかないのかな……」

 何だかんだ言って今日も火錬の事を守ってくれた二人だ。

 セクハラ一つで賞金が手に入るのなら、それは割り切るべき問題なのかもしれない。

 ……一つで済むかどうかも怪しいところだが。

 身体を売る覚悟、だ。

 胸くらい揉ませてやる覚悟が出来なくてどうする!

「……覚悟の方向性がかなりずれてきている気もするけど」

 がっくりと肩を落としながら、火錬は溜め息をつく。

「頑張る。やれるところまで頑張るしかないんだから」

 そして顔を上げて拳を握る。

 黒鋼火錬の戦いは、まだまだ続くのだから。

 さしあたっての戦いは、セクハラ攻防になるだろうが……


ドジッ子貧乏火錬ちゃん。

金の亡者には亡者なりの理由があるのです。

そんなに金がないんだったらぱんつのプレゼント受け取ればいいのにね。下着って高いよ?


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