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長い一日

「あ……」

 火錬は腹部に熱い痛みを感じてその場に倒れた。

「あ……」

 急に足が消えたみたいな感覚。

 下半身に力が全く入らない。

 逃げないと。

 置いていかれる。

 待って。

 置いていかないで。

 私は、いつも足を引っ張ってばかりで、こんなときまで……

「わた……し……」

 火錬は痛みよりも悔しさで涙を滲ませながら手を伸ばす。

「火錬ちゃん!」

 その手を掴んだのは、他でもない恵だった。

 このまま逃げないと手遅れになるのに、恵は火錬を抱き起こしながら必死で呼びかける。

「しっかりしろ火錬ちゃん! 火錬ちゃんっ!」

「恵! 火錬を担げ! このままだと四人とも囲まれる!」

「っ!」

 恵は迷わず火錬を担ぎ上げる。そしてそのまま走り出した。

「うっ……」

 強烈な震動に傷口が痛む。

「ごめん! 今だけ我慢してくれ! すぐに病院に連れて行くからっ!」

「う……ん……」

 火錬はそう答えるのがやっとだった。

「恵。火錬がその状態だと逃げ切れない。賭けになるが近くの倉庫に隠れるぞ」

「分かった」

 桐継は敵のいない倉庫を即座に見抜いてから駆け込む。

 ひとまず四人はそこに隠れてやり過ごすことにした。

「火錬ちゃん。しっかりしろ!」

 恵は火錬を横にしてから止血を開始する。

 布を巻いた途端に血がじわりと滲んでくる。

「……このままだと不味いな。傷口の場所からして内臓を傷つけているかもしれない。うかつに動かすのは危険だ」

 桐継が火錬の状態を確認してから言う。

「かれんお姉ちゃん……」

 満月が泣きそうな顔で火錬を覗き込む。

「だ……大丈夫……だから……満月……ちゃん……泣かないで……ね?」

 火錬が途切れ途切れの声で言う。

「死にたくなかったら今は喋るな。無駄な体力を使えばその分命を縮めるぞ」

「………………」

 桐継の言葉は容赦がなかったが、それでも火錬を心配していることだけは伝わったので大人しく黙る。

「……畜生」

「こうなっては動くことも出来ないな。あとは塔宮さんの援軍がいつ来るかが勝負か……」

 最後の最後で他人を当てにしてしまう状況に舌打ちしながら、桐継は携帯電話を確認する。

 悊人があと四時間と言った時間から三時間が経過している。

 なるべく急ぐと言っていたから運が良ければもうすぐ駆けつけてきてくれるかもしれない。

「それまで火錬ちゃんが保つかどうか……」

 恵は不安そうに火錬を見るが、火錬は力なく笑った。

「ご……めん…ね。また……足手まとい……で…」

「………………」

 確かにその通りなのだが、この状況でそれを責める気にはなれない。

 火錬が悪いわけではないし、誰が撃たれていてもおかしくはなかった。

 身体が小さな満月ではなかっただけマシだと考える事も出来る。

 もしも満月が同じように撃たれていたら、火錬よりも更に命の危険が大きかっただろう。

 小さな身体は体力も血液も少ないのだから。

「……恵。まずいぞ」

 窓から様子を窺っていた桐継が焦った声で言う。

「血の跡を辿られた。もうすぐ奴らが攻め込んでくる」

「………………」

 火錬を担いで逃げた際に落とした血の跡を辿られたらしい。

 こればかりはどうしようもない。隠す余裕も時間もなかったのだから。

「……どうする?」

「時間を稼ぐしかないな。もうすぐ塔宮さんの援軍が来てくれるはずだ。それまでは何としてでも二人を守らないと」

「………………」

「オレが出る。桐継は援護射撃を頼む」

「……それしかないか。俺が出て行くよりも適任ではあるが……」

 桐継は防護服の上着を脱いで恵へと渡す。

「?」

 恵も防護服を着用しているので桐継の意図が掴めず首を傾げる。

「頭に巻いておけ。視界だけは確保できるように。少なくともそれでほぼ全身をカバーできるはずだ」

 今の状態なら頭部を撃たれてお終いだが、そこを防護服でガードすれば攻撃時間を長くとる事が出来る。

「サンキュー」

 その分桐継が危なくなるのだが、後衛で援護に回る桐継は建物を防壁に回せる分まだマシだ。

 恵はありがたく受け取ってから上着を頭部に巻きつける。首までカバーして視界を確保できるよう調整する。

 敵はすぐ傍に迫っていた。

「じゃあ、行ってくる」

「ああ。援護は任せておけ」

 桐継は恵が外に飛び出すと同時に短機関銃で制圧射撃を行う。

 パパパパパン、と渇いた銃声が立て続けに辺りを蹂躙していく。

 人間も含めて蹂躙していく。

 その中で恵は手加減無しで暴れ回る。

 貫手で急所を抉り抜き、蹴りで骨を破壊する。

 今回ばかりは相手の命など勘定に入れていない。

 瞬時に戦闘能力を奪わなければこちらがやられてしまう。

 何発か銃弾を受けているのだが、防護服がうまく防いでくれている。衝撃はかなりのものだが、それでもダメージにはなっていない。

 まだ動けるし、まだ殺せる。

 恵はひたすらに動き回り、暴れ回る。

 体力の続く限り攻撃を加え続ける。

 銃やナイフを振り回すだけの連中など、本気になった直純恵の敵ではない。接近戦に持ち込めば尚更だ。


 そうやって桐継と恵の連携により二十人ばかり地面に沈めた頃、今度は人間ではなく車とバイクが襲いかかってきた。

「なっ!?」

 人間相手では不利だと判断したのだろう。

 圧倒的質量で襲いかかってくる車とバイクが相手では、さすがの恵も逃げるしかない。

 恵は避け続けるが車もバイクも止まらない。ひたすらに恵を追いかけ続け、攻め続ける。

「くそ……!」

 どんどん体力が削られていく恵は息切れしながら、それでも避ける。

 車を避けた先にバイクが襲いかかってきて、更に避ける。

 避けた先に再び車が襲いかかってくる。そしてバイク。

 その繰り返しを体力の限界まで続けさせられる。

「この……!」

 桐継が短機関銃で運転手を狙い撃とうとするが、激しく動き回る両者に狙いを定めきれずにいる。下手に撃つと恵に当たる危険がある。

「恵!」

 しかしその迷いが仇になった。

 体力の尽きた恵がバイクに撥ねられて宙を舞った。

「っ!」

 力なく地面へと投げ出される恵。そのままぴくりとも動かなくなる。

「くそっ!」

 反射的に桐継が飛び出そうとするが、すんでのところで堪える。

 今桐継が飛び出したら火錬と満月が無防備になる。

 恵に二人のことを任されている以上、それは出来ない。

 しかしこのままだと恵が殺される。

「駄目か……!」

 絶体絶命かと桐継が諦めかけたとき、空から轟音が響いた。

「………………」

 ヘリの音だ。

 その直後に上空から銃弾の雨が降り注ぐ。

 もちろん、恵を避けて。

 恵を取り囲んでいた車もバイクも、そして敵達も等しく蹴散らされ、破壊され、倒される。

 その直後に装甲車が突っ込んできて、そこから悊人が降りてくる。

 PMCと一緒に駆けつけてきてくれたらしい。

「ギリギリ間に合ったみたいだな。早く恵君を病院に運ぼう」

 倒れている恵を見て悊人が言う。

 しかし桐継は首を振った。

「先に火錬をお願いします。どちらも重傷ですが火錬は一刻を争う。恵はうまく受け身を取っていますからまだ大丈夫です」

 恵が撥ねられてから地面に投げ出されるまでを確認していた桐継がそんな風に言う。

「火錬ちゃん……」

 二人は乗せられない。

 優先順位は火錬の方が上だ。

 悊人は迷うことなく火錬を車の中に運び入れて病院への搬送命令を出す。

「すぐにもう一台手配する。もう少しだけ待っていて欲しい」

「お願いします」

 その間にも悊人が連れてきたPMC達は敵を掃討していく。

 さすがに専門家なだけあって、烏合の衆であるマフィア連中などあっという間に無力化していく。

 その際、倒れた恵も桐継達のいる倉庫に運び込まれていく。

 意識を失ってはいるが目立った傷もなく、命に別状はなさそうだ。

「……よかった」

 桐継は安心したように表情を緩めてから悊人に礼を言った。

「ありがとうございます。あと少し遅れていたら俺達全員の命はなかったかもしれません」

「もう少し早く到着できていればと悔やんでいるくらいだ。恵君も、火錬ちゃんも無傷なのがベストだった」

 悊人は悔やむように返す。

 やがてもう一台の車が到着した。

 今度は恵だけでなく桐継と満月も一緒に乗せていく。

 悊人だけは現場に残って後始末をしていくらしい。

 車は出発して病院へと向かった。


 こうして、長い一日がようやく終わってくれた。


火錬ちゃんは実力不足というよりも単純に運が悪いだけのような気がしますねぇ。

結局足を引っ張るわけですが、全部が全部本人の所為というわけでもない、みたいな?

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