セクハラ師匠お断り!
その様子をモニター越しに見つめていた男が一人。
『アウトロー・ヘヴン』のチームマスター、塔宮悊人である。
あらゆる企業や政治家に影響力を持つ巨大企業である塔宮グループの現会長であり、資本金は年々着実に増えているという敏腕実業家であもる。
SG主催者は必ず一つはチームを持たなければならないというルールがある。
そしてそのチームを駒としてゲームを進めていく主催者はチームマスター、またはマスターと呼ばれることになる。
悊人は皮張りのソファーに寄り掛かりながら、モニター越しに自らが作り上げたチーム『アウトロー・ヘヴン』の戦果を確認する。
「ああ、見事だ」
そして、呟いた。とても満足そうに。
それは賭けに勝利して儲かったという笑みではなく、むしろ三人が怪我一つなく戦闘を終えてくれたことへの安堵だった。
SG主催者の一人として、どうしてもチームマスターになる必要があったのだが、しかし若者をこのような場に引きずり込むのは実のところあまり気分がよくない。
しかし下手な人間を引き込んだ場合、どんなトラブルが舞い込んでくるか分からない。
結局、人選を重ねた結果、あの三人になってしまった。
あの三人にはそれぞれSGに参加するだけの理由がある。
その中でもっとも切実な理由を抱えているのは黒鋼火錬のみだが、残りの二人もそれなりに複雑な事情を抱えている。
悊人は直純恵、草薙桐継、黒鋼火錬を選んだ。
彼らを信頼して、無事を願った。
そして彼らはその信頼に応えてくれた。
「……まあ、多少悪ふざけが過ぎる部分もあったが」
あの羞恥プレイはさすがに注意しておかなければなるまい。
鑑賞者があの二人だけならまだしも(!?)、戦闘領域には多数の監視カメラが設置してあるのだ。もちろん、悊人もしっかりと火錬のパンツを見てしまった。
四十代になろうともまだ枯れている訳ではない悊人も、実はちゃっかり儲かった気分くらいにはなっている。……なっているのだが、だからと言ってそれを推奨しようというのはあまりにも火錬が気の毒だろう。
「まだ不安は残るが」
特に火錬の不手際は問題だ。しかしもともと実戦経験のない火錬にあまり無茶な要求も出来ない。嵌り過ぎてこちらの世界に来られても困る。
火錬についてはまだまだ成長が見込めるだろうし、その間くらいなら恵と桐嗣が守ってくれるだろう。あの二人の実力に関しては悊人も高い信頼を置いている。特に恵はプロフェッショナルとして活躍できる実力を備えている。アマチュアから女の子一人守るくらいの事はやってくれるだろう。
……セクハラも込みな守り方かもしれないが、そこはまあ、目を瞑ってもらおう。
「あの三人がどこまで勝ち抜けるか、正直ちょっと楽しみだな」
悊人はこのSGに対してあまり乗り気ではない。
しかしあの可愛らしい三人がどこまでやってくれるのかというのは、ちょっと楽しみでもある。
最初は適当なところで負けてくれても構わないと思っていたが、あの戦いぶりを見てから考えが変わった。
見届けたい、というのが本音なのかもしれない。
それぞれの理由の果てに、何を得て、何を失うのか。
悊人はかつて自分が通り過ぎた無軌道な若者の時代を、あの三人に見ているのかもしれない。
懐かしいような、くすぐったいような、微笑ましい気分になってくるのだ。
悊人が心配したり懐かしい気分になったりしながら見守っていた三人が今どうしているかというと、
「かんぱーい♪」
……酒盛りをしていた。
個室のある大衆居酒屋で三人そろって乾杯していた。
恵は生ビール、桐継はロック、火錬はりんご酢チューハイのグラスを軽くぶつける。
テーブルにはから揚げや串など、様々なつまみが並べられている。
SG第一戦の勝利祝いだった。
『宝』であるアタッシュケースの中には、きっかり百万円入っていた。
で、三人で山分けするにしてもまさか路上で分配する訳にもいかず、だからと言って誰かの家に行くほど親しい間柄でもないので、とりあえず勝利祝いを兼ねて個室のある居酒屋で分配しようという話になったのだ。
分配金額は一人あたま三十三万円。
残った一万円はここの飲み代となるということで意見が一致した。
「金はいいけどこのアタッシュケースどうする? 塔宮さんにでも返しておけばいいのかな?」
恵が空っぽになったアタッシュケースを眺めながら言う。
「どっちでもいいんじゃないか? 見たところ新品同然だし、けっこうモノもいいだろうし、売ればもう一回軽く食べたりもできるだろうし」
「あー! じゃあ私がもらいたい!」
金になる、と聞いた瞬間、火錬が元気よく手を挙げた。
「さすが金の亡者」
恵が容赦なく突っ込む。
「やかましーです師匠。亡者だろうとなんだろうと生きていくにはお金が必要なの! 余裕のある師匠たちは可愛い後輩に譲ってくれればそれでいいの!」
火錬がふくれっ面で返す。
「余裕はあるがこれを売れば下着の一枚くらいは買えるんじゃないか? 可愛い後輩に紅いぱんつプレゼント計画に役立たせてもらうというのはどうだ?」
「名案だな桐継!」
「却下よっ!」
思い出したくないパンツ晒し事件に頭を抱えた火錬が強引にアタッシュケースを奪い取る。
「これは私がもらう! ぱんつなんかに変えられてたまるもんですかっ!」
「じゃあ自腹でプレゼントするか?」
「いや、ぱんつだけというのもアレだし、せっかくだから上下セットで」
「絶対に受け取らないからね!!」
男二人がランジェリーショップで自分の下着を選んでプレゼントする光景を想像して、火錬はぞっとした。もちろん断固拒否である。
「しかし今回の稼ぎは三十三万か。俺は相場を知らないからなんとも言えないが、こんなものかな?」
「私としてはもうちょっと欲しいところだけどね」
「大丈夫だろう。塔宮さんが言ってたけど、最初はこんなものらしい。勝ち進んでいくたびに賞金が上がっていくシステムだから、最終的には億になるとか言ってた」
「億っ!?」
予想外の金額に目を見開く火錬。
「そこまで勝ち進めるかどうかは分からないが、まああと二、三回勝ち抜けばそれなりに稼げるんじゃないか? 塔宮さんも勝ち負けにはあまりこだわってないみたいだし、オレ達はオレ達で気楽にやればいいと思う」
恵はビールのおかわりを注文しながら言う。すでにジョッキ一杯空けてしまったらしい。
「勝つ! 絶対勝つ! 優勝すれば将来的に安泰間違いなし! 私頑張るから」
「と言われてもなぁ。多分、一番足を引っ張るのは火錬ちゃんだと思うぞ?」
「うぐっ! そ、そこは師匠の修行に期待するということで!」
「修行ね。まあいいけど」
火錬の半端な戦闘能力を幾分か矯正するために、恵は師匠を買って出ている。といっても正規の手順で教えているわけではなく、至ってシンプルな方法なのだが。
とにかく戦い続けること。
短期間で理屈を身体に覚え込ませることは難しい。
ならば体力の限界まで恵と火錬が戦い続け、その中で何かを掴み取るしかない。
恵は素手のまま、火錬は棒を武器に戦う。
その状態でも火錬は恵に一撃すら入れられない。
二人の実力にはそれだけの開きがある。
しかし、それは火錬が弱い訳ではない。恵が強過ぎるのだ。むしろ今まで武道経験がないことを鑑みれば天才と言えるほどの力量を持っている。きちんとした修行をすれば間違いなく達人レベルになるだろう、と恵は密かに考えている。
恵が火錬にしてやれることは唯一つ。
実戦を繰り返させて戦闘感覚を磨き上げること。
危機に対する感覚が鋭敏になれば、今日のような無様は確実に減るはずだ。
「オレの修行は厳しいぜ! ついてこれるか弟子一号!」
空になったビールジョッキを片手に掲げて発破を掛ける恵。
「おうともさ! どんな厳しい修行でもどんとこい! 生活がかかってるから泣き言なんていわないよ!」
「よく言った! じゃあ明日からオレが一本取る度におっぱいを揉ませてもらうからな!」
「なんですと――っ!!」
突然のセクハラ発言に飛び上がりそうになる火錬。
「本気で嫌なイベントが待ち構えている方が必死になれるだろう?」
「嫌過ぎるよ! セクハラ師匠なんてお断りだよ!」
「いいなぁそれ。俺もまざろうかな」
「やめてー! キリ先輩までセクハラしないでぇぇぇぇっ!」
「そうは言うけど棒装備で桐継から一本取れないようじゃオレからセクハラを凌ぐなんて絶対に無理だぞ?」
「そうだな。恵の力量は俺のおよそ二倍だ。俺に敵わないようじゃ話にならないぞ」
「マジっすか!?」
「同じ流派だけど修行した期間が違うからなぁ。まあそのあたりは仕方ない」
「うぐぐぐ……」
「と、言うわけで時々は俺も混ざる事にする。恵がおっぱいなら俺は尻でも揉ませて貰うかな」
「やめてぇぇぇぇぇっ!!」
「嫌なら必死で強くなるんだな。ハンデとして三回までは猶予をあげよう。つまり四回目にヘマをしたら……ふふふふふ……」
ぺろりと舌なめずりする恵。
さっそくどうやって揉みしだこうかを考えているらしい。
「……し、師匠の人選間違えたかも……」
ぱんつのことと言い、修行のペナルティといい、どうにも被害者属性が定着しつつある『アウトロー・ヘヴン』の紅一点だった。
真面目にやる気あるんですかね、こいつら。
とか突っ込みたくなりますが、多分大真面目ですね。
大真面目にセクハラ目指してます。
火錬ちゃんはきっと近い内におっぱいが大きくなることでしょう。
悊人氏はゲスト出演ですが、意外と活躍するかも?
多作品からキャラを引っ張ってくるのは意外と楽しいですにゃん。