勝利!
「……化け物がもう一人、か。厄介な」
恵と対峙していた男が桐継の方を見て舌打ちする。自分一人で全員を下すのは無理だと判断したのだろう。
「安心しろよ。オレに勝ったら中身の確認だけはさせてやる」
桐継達を当てにしていると思われるのも癪なので恵はそんな風に返す。
「ほう……それはありがたいな」
男はニヤリと笑ってから最速の動きで右ストレートを繰り出した。
「っ!」
恵はギリギリの位置で避けてからその腕を絡め捕る。先ほどの桐継のように折ってしまうつもりなのだろう。
「甘い!」
しかし男の方も簡単に折らせてはくれない。腕をつかまえさせたままもう一方の腕で恵の太ももを掴み上げ、そのまま投げ技に入る。頭から地面に叩きつけるつもりだ。
「ちぃっ!」
恵はすぐさま腕を外し、叩きつけられる寸前に掴まれていない方の足で男を蹴り飛ばす。その反動で叩きつけられる前に身体が離れた。
すぐに受け身を取って回転しながら起き上がる。
「おっさん、マジで強いな」
「君もな。さっきので決められると思っていたんだが」
「そりゃあオレを甘く見すぎだ」
「……名前を訊いてもいいかな?」
「おっさんが先に名乗るならな」
「……それが礼儀か。俺は草場千景という」
「直純恵だ」
「……なるほど。直純の技を継ぐものか」
「やっぱり知ってるんだな」
「君の家は君が思っている以上に有名なんだよ」
「へぇ」
「ならばもう一人の彼も直純流の使い手ということか?」
「まあな」
「やれやれ。厄介な仕事だ」
草場は再び溜め息をつきながら構える。
「そう思うんなら手を引けばいいだろう?」
「生憎と全額前払いの仕事でね。報酬を受け取っている以上半端なことで投げ出すわけにも行かないんだ」
「そりゃあご苦労なことで」
今度は恵の方から仕掛けた。動作を小さくしてから左ストレート。
「ちっ!」
予想以上のスピードで攻め込まれた草場は頬を掠らせながらも辛うじて避ける。
更に右の拳が鳩尾目掛けて撃ち込まれようとする。両腕でガードするが、防いだ腕の方にかなりのダメージがある。
「このっ!」
草場が前蹴りを繰り出す。しかし恵の方も同様の前蹴りを繰り出して相殺させる。しかし体格の差で恵の方が体勢を崩してしまう。後に倒れかけた恵はバク転のように片手で身体を反転させ、斜め逆立ちのような状態から左の足で蹴りを繰り出す。
「がっ!」
草場は胸の辺りに喰らってしまうが、そのまま恵の足をつかまえて肩で固定する。そのまま折るつもりだったが、もう少しのところで恵の右足が首に直撃する。つかまえられて固定された左足を利用して逆に攻撃へと 転じた恵にある種の寒気を覚える草場。
呼吸器を一時的に潰された草場はその場にしゃがみ込んで咳き込む。
「……オレの勝ちだな」
「悔しいがその通りだ。しかし君はとんでもないな。折られるかもしれない足を逆に利用するか? 普通」
「どのみち折るつもりだっただろう? 攻撃は最大の防御って奴を実践しただけだ」
「……なるほど」
「満月ちゃん。こっちも縛り上げてくれ」
「うん!」
決着がついたので今度はしばらく無力化するために拘束を頼む恵。気絶させてもいいのだが、勝負の付いた相手にこれ以上危害を加えるのも気分が悪いので拘束だけに留めておく。
「これで草場さんはオレ達を追いたくても追えないだろう? 依頼人にもそれなりの言い訳が立つんじゃないのか?」
「……気を遣わせてしまったようだな」
「恩を感じてくれてるんなら依頼人をゲロってくれてもいいぜ?」
「それは出来ない」
「だろうな。じゃあ俺達はもう行くから。またやり合う機会があればお互い楽しもうぜ」
「……君とは二度と戦いたくないな。あれで手加減していただろう?」
「あれ? バレてる?」
「バレてるも何も、一度も殺人技を使わなかったじゃないか」
「………………」
直純流は殺人術。
その事も知っているらしい。
「そう簡単に人殺しになるつもりはないよ」
「………………」
恵はそれだけ言うと草場から視線を外して踵を返す。
こうして、SG本戦第五ゲームの勝者は『アウトロー・ヘヴン』に確定したのだった。
火錬ちゃん出番ないね。
満月ちゃんかいがいしいね!
そしていよいよきな臭い展開になってきたね!
さあこれからどうなる!?




