桐継の戦い
一方、恵の方へと向かわなかったもう二人は桐継が相手をしていた。
アタッシュケースを持っている火錬を狙っていた一人目に素早く立ちはだかった桐継はそのまま前蹴りを顎に喰らわせた。
もう一人はゴム弾で動きを牽制する。
更に蹴り上げた足をそのまま降ろしてかかと落としへと繋げる。
「っ!」
二秒も満たない間に下顎と頭部に強烈なダメージを受けた一人目はそのまま昏倒する。
「貴様!」
ゴム弾のダメージを堪えた二人目が桐継へと突っ込んでくる。
ローキックを食らわせようとするが、桐継は相手の蹴り足を右手で掴んで、そのまま正拳突きを繰り出す。
「甘いっ!」
しかし相手は右拳を繰り出して桐継の正拳突きを弾く。
弾かれた衝撃で桐継の右手が足から離れた敵は、体勢を立て直してから左の拳を振り下ろしてくる。
「お前こそ甘く見るな」
桐継は冷静な口調のまま、右拳を繰り出す。
ただし今度は正拳突きではなく、絡み付くような右フック。
「っ!?」
ミシッ、と骨の折れる音がした。
桐継は右フックを相手の関節を決めるように繰り出し、その勢いで腕を折ったのだ。
「ぐっ!」
たまらず左腕を押さえる敵。
だが桐継は止まらない。
折れた左腕を容赦なく掴んで、そのまま敵を投げ飛ばした。
折れた腕を軸にしたため、聞くに堪えない悲鳴が上がったが、そんな事を斟酌するような性格ではないのでお構いなしに投げた後の身体を踏みつける。
「満月ちゃん。悪いけどこの二人、動けないように拘束しておいてくれ」
「あ……うん……」
満月は言われた通りに二人の拘束を開始する。糸をぐるぐるに巻きつけてから鋏で切る。
恵が倒した一人も一緒に拘束しておく。
「……キリ先輩。何も折れた腕をとって投げなくてもいいのに……」
聞くだけで痛覚が伝わってきそうな悲鳴を受けた火錬が顔をしかめながらそう言った。
「アマチュアならもう少し手加減出来たんだがな。だがこいつらはプロだ。少しでも隙を見せれば容赦なく潰しにかかってくる。こうするのが確実なんだよ」
火錬の非難にも動じた様子もなく返答する桐継。
「プロって……?」
「だから、荒事専門ってことだ。きちんとした戦闘訓練を受けた人間だろうな。動きが素人のものじゃなかった」
「………………」
「恵が戦ってる奴もプロだろうが、あいつは別格らしいな。珍しく苦戦している」
「師匠が……苦戦……?」
信じられないような表情で恵の方を見る。
「……苦戦というより、楽しそうなんだけど」
その表情は生き生きとしていた。とても苦戦しているようには見えない。
「それはそうだろう。恵は根っからのバトルマニアだ。強い奴と戦えるなら大喜びで熱中するだろうよ」
「それもどうかと思うけど……」
「とにかくあっちは恵に任せよう。せっかくのお楽しみを邪魔することもないしな」
「お楽しみって……」
呆れたように恵を見る火錬。
満月の方はちょうど三人目の拘束が終わったようだ。
「ごくろうさん、満月ちゃん。あとは恵に任せて観戦していようか」
「えっと……いいの……?」
「いいんだよ。恵は楽しそうだしな」
「あっちはどうする?」
火錬は震えている一人を指さす。
明らかに役立たずな『風林火山』のリーダーだった。
「……放っておいても構わないんだが、下手に動かれても面倒だな」
桐継は火錬から棒を取り上げる。
「ちょっと、何するつもり?」
「こうするんだよ!」
投げ槍のように棒をリーダーへと飛ばす。
「っ!?」
棒の先端はリーダーの頭部に命中し、そのまま昏倒する。恐らくは気絶したのだろう。
「満月ちゃん。もう一仕事頼む」
「う、うん!」
満月はリーダーのところに駆け寄ってから再びぐるぐる巻きに拘束する。
これで五人中四人を完全無力化したことになる。
「出番が……」
全く活躍の機会が無かった火錬は地味に凹んだ。とぼとぼとリーダーの傍に転がる棒を回収する。
「このまま領域外に退散してもいいんだが、とりあえず恵が片づけるのを待つことにするか」
「え? でも勝利が確定したら戦闘は止められるんじゃないの?」
「……いや。多分あの男はこちらが逃げたら間違いなく追いかけてくる。そうなるとお楽しみに水を差された 恵がむくれるだろうからな。大人しく見守ろう」
「……考えたくないけど、師匠が負けた場合は?」
「俺が仕留める。もしくは満月ちゃんに背後から拘束して貰う。恵が勝てない相手であっても恵と戦った後に俺達三人を相手取ることは無理だろうからな」
「なるほど」
しっかり保険も考えている辺りぬかりない。
それならばと火錬も恵の戦いを見守ることにした。
たまには師匠の全力を見ておくのも悪くないと考えたのかもしれない。
桐継たん大活躍!
でもきっと桐継たんは恵たん以上に容赦がないはずです。
平気で腕をぶち折るわ、折れた腕を取って投げ技繰り出すわ、どんだけドSなんだ!みたいな?




