バトル開始!
ゲーム開始時間が過ぎ、恵と桐継はあたりを警戒する。
「恵。今回は刀を使うな。直純流の技を使えとまでは言わないが不測の事態に備えてある程度全力で動けるようにしておいたほうがいい」
いつも通りに刀で戦おうとする恵に桐継が注意を促す。
「……そうだな。相手のレベルがまだどれほどなのか分からないし、その方がいいか」
そう言って恵は刀を地面に放り投げた。
「俺も今回は素手メインで戦う。銃は一応装備しておくがな」
桐継も恵と同じように素手で戦う方が実力を発揮できるのだが、それでもいざというときのために遠隔攻撃手段を持っていた方がいい。二挺拳銃の方はホルスターに装備したままだ。
二人が全力モードで探索を続ける中、
「あ……」
満月がふと頭を上げた。
「どうしたの? 満月ちゃん」
「あれ」
満月が公園内で一番大きな樹の枝を指さす。そこにはアタッシュケースが引っ掛けられていた。
「ちょっと、あれってまさか」
「だと思う」
戦闘が始まる前にあっさりと『宝』が見つかってしまう。
「師匠! キリ先輩!」
「分かってる。そっちは任せる。満月ちゃん、糸で確保できるか?」
本来ならば木登りで取りに行かねばならない位置だが、満月なら糸を操ることで確保できる。木登り中や足場の悪い枝の上で攻撃を受けたらたまったものではないので満月にそう提案する。
「出来るよ。ちょっと待ってて」
満月は糸を操ってからアタッシュケースの持ち手を引っ掛けていた枝を輪切りにする。そのまま落下していくアタッシュケースを器用に巻きつけてから恵の方へと放った。
「よし。満月ちゃんお手柄だ!」
空中でアタッシュケースをキャッチした恵はそのまま火錬に渡す。
「火錬ちゃんはこいつを守ってな」
「なんで私?」
「オレと桐継は片手を塞がれたくない。満月ちゃんも糸遣いだから片手が塞がると戦力にならない。となると消去法で火錬ちゃんが荷物持ちとなるわけだ。了解?」
「……了解だけど、なんか腹の立つ言い方ね」
火錬はアタッシュケースを受け取ってから左手に持ち替える。
「『宝』を確保できた以上、公園を抜ければ俺たちの勝利だが、やはりそう簡単にはいかないな」
ガタイのいい四人組が恵達の退路を塞ぐように出てきた。
リーダーである筈の少年は彼らの後ろでがたがたと震えている。よほど怖い目にでも遭わされたのだろうか。とにかく今の彼にチームの主導権はないようだ。
「ご苦労だったな。そいつをこちらに渡して貰おうか」
四人のうちの一人が言う。
「冗談だろう? こいつはオレ達が見つけたんだぞ。ゲームのルールは知ってるんだろ?だったら力ずくで奪えばいいじゃないか」
恵がわざと挑発するように右手の人さし指をクイクイさせる。かかってこいという意味だろう。
「………………」
四人の男達は忌々しげに舌打ちしてから恵達に襲いかかってきた。
四人は真っ先にアタッシュケースを持っている火錬を狙おうとしたのだが、恵と桐継が間に入って阻止する。
「どけっ!」
一人が恵に対して右ストレートを繰り出してくる。
「どくかよっ!」
恵は避けると同時に相手の懐に入り込み、一旦しゃがんでからバネのように身体をしならせコマのように半回転しながら回し蹴りを頭部に喰らわせた。
「がっ!」
二メートルほど吹き飛ぶ一人目。
すかさず二人目が恵に襲いかかる。
体勢を崩しかけた恵の頭部を素早く掴み、膝蹴りを喰らわせる。
「ちっ!」
恵は咄嗟に右肘で防ぐが、
「なにっ!?」
防いだはずの膝がそのまま鞭のようにしなる回し蹴りになって襲いかかる。
「くぅっ!」
たまらず恵は後ろにジャンプして避ける。
二人目は感心したように恵を見た。
「ほう、やるじゃないか」
「あんたもな……このゲームでこんなお楽しみがあるとは思わなかった。嬉しいぜ」
恵は本心からそう言う。
「こちらは厄介なことになったと舌打ちしたい気分だ。ガキの遊びだと聞いていたのにまさか君のような化け物がいるとはね。大人しくアタッシュケースを渡してもらえないか? どうしても納得がいかないというのなら中身を確認させてもらえるだけでもいい。勝利は君達に譲ろう」
「……その様子だと塔宮さんが言っていた厄介事っていうのはマジみたいだな。ったくとんでもねえことに巻き込まれた気分だぜ」
「君と戦うとこちらも損害が大きくなりそうだ。ここは取引に応じてもらえないだろうか?」
「そうするべきなんだろうが、生憎とオレはもう熱くなっちまったからな。あんたと決着をつけたい。だからやっぱり力ずくで奪えとしか言えないね」
「………………」
男は溜め息をつきながら恵を睨んだ。
「仕方がない。こちらも仕事だ。手加減は出来ないが大怪我をさせたら済まないとだけ言っておこう」
「こっちもな。あんたほどの手練れが相手だと油断して殺しかねない。出来るだけ死なないでくれ」
「ふっ」
傲慢極まりない物言いに男はむしろ楽しそうに笑った。
恵たんノリノリであります。
結局のところバトルマニアなんだよね~。
でもバトルシーン苦手だからあんまり暴れないでぇと言いたくなる水月であります。




