暗雲
後日。
恵と桐継の二人は塔宮グループの社長室へと呼ばれていた。
「急に呼び出して悪かったね。どうしても直接話したいことがあったんだ」
悊人は革張りのソファに座って恵達と向かい合っている。秘書に出されたお茶を飲みながら、真面目な表情で恵達を見た。
「それは構いませんけど。どうしたんですか?」
「……ああ。言いにくいことなんだが」
「?」
「何ですか?」
「君達、次のゲームを降りる気はないかい?」
「………………」
「………………」
チームマスターらしくない発言に二人とも沈黙する。
SGのチームマスターは、SGの主催者でもある。主催者自らがゲームのリタイアを勧めるなど、通常は有り得ない。そんな事をすれば不戦敗として悊人自身も少なくない損害を被るはずなのだ。
「理由を訊いても構いませんか?」
恵が言う。
「実は、次の対戦チームである『風林火山』のメンバーがほとんどすげ替えられた」
「すげ替えられた……?」
「リーダー以外の四人の首がすげ替えられたんだ」
「……前回の対戦で負傷したんですか?」
負傷によるメンバー補充はルール上認められている。だが四人というのはあまりにも不自然だ。
「負傷したのは確かだが、それはゲームによるものじゃない。ゲーム終了後、四人ともほぼ同じタイミングで交通事故に遭っている。そのどれもが轢き逃げだそうだ」
「………………」
「………………」
「そして次の日には四人のメンバー補充が完了していた。これはどう考えてもおかしい。不自然すぎる」
「確かに、おかしいですね。その四人が同じ犯人……いえ、タイミングが同じなら同一組織によって危害を加えられたと考えるのが妥当ですね」
「しかしこんな素人バトルのゲームにわざわざ轢き逃げのリスクまで背負って介入しようとする理由が分からないな」
恵と桐継はそれぞれ考え込む。
「理由は分からないが、これは明らかにSGに介入するつもりで行われている行動だ。となると次の対戦相手である君達がその理由に巻き込まれる危険が大きい。恵君や桐継君がそう簡単に倒されるとは思わないが、こんな訳の分からないことに火錬ちゃんや満月ちゃんを巻き込むのは気が進まない」
「目的がオレ達とは限らないんじゃないですか? SGへの介入ならSGそのものに対する何らかの目的があるかもしれませんし」
「そうかもしれないが、それが何か分からないから困っているんだ。対処のしようがない状況に君達を巻き込むわけにはいかない」
「……言いたいことは分かります。ですが満月ちゃんはともかく火錬はそれで納得するとは思えません。彼女は今後のために金銭を必要としています。十分な賞金は得ていますが、それでも負けてもいない状況で引き下がるとは思えません。説得に応じるような性格でもありませんしね」
「……やっぱりそこが難点かな。リタイアさせた分の補償はすると言っても、多分聞いてくれないだろうな」
「無理ですよ。火錬ちゃんは施しって奴が大嫌いですからね。弱っちい癖にプライドだけは三人前ですから」
「うーん……そうか……難しいか」
困ったように呻く悊人。
「それに満月ちゃんもオレ達に恩義みたいなものを感じてるみたいなんで、危険だって言われたら余計に首を突っ込んできそうですよ。あの子の一途さはこういう時に厄介ですよね」
「ああ、それもそうだった……」
更に困った表情になる悊人。
「更に救えないことに、オレは今ちょっと面白くなってきたとか考えちゃってるんですよね」
「………………」
「不謹慎なのは分かってますよ。火錬ちゃん達を巻き込むべきじゃないってことも。ただ、オレはもともとそういうのを求めてSGに参加してましたから。機会が向こうからやって来てくれるかもしれないって考えるとどうしてもね」
「塔宮さんの気遣いには感謝しますが、それでも俺たちがリタイアするのは無理だと思います。仮に俺と恵、そして満月ちゃんがリタイアしたとしても、火錬一人で参加する可能性が高い。そうなると火錬一人がその危険を引き受けることになるかもしれない。ですからここはやはり通常通り全員で参加するのがベストだと思います。俺と恵、そして満月ちゃんが揃えば大抵の厄介事には対応できるはずです。……まあ火錬もヘマをしなければ足を引っ張らない程度には強くなっていますしね」
「だからここは事情を説明しないまま、火錬ちゃん達にはいつも通りに参加して貰うのが一番いいと思いますよ。下手に説明すると気負いが生じていつも通りに戦えないかもしれないですし」
「……君達の言うことも一理あるな」
難しい表情のまま悊人も頷く。
「分かった。では通常通りの参加で頼みたい。ただし何か問題が起こった場合の報告だけは徹底して欲しい」
「了解しました」
恵と桐継も頷く。
こうして、娯楽であるはずのSGに微かな暗雲が立ち込めるのだった。
轢き逃げって怖いなー。
チーム名を考えるのに毎回難儀してたりします。
今のところ一番のお気に入りは微乳同……いえいえなんでもないです。ええ何でもないデスとも!




