義理の息子は女装美少女!
「やあやあ、待たせたね君達! お待ちかねの血液提供者を連れてきたよ!」
「………………」
「………………」
「………………」
待ちに待った待望の上の待望のシスAB型の血液提供者は、なんと悊人に担がれてやってきた。
それだけならまだ許容できる光景なのだが、
「~~っ! ふがふが~~っ! むご~~っ!!」
その担がれた人間が縄でぐるぐる巻きにされた上に猿轡までされていては一体何事かと三人が絶句するのは無理もないだろう。
しかも見た目がかなりの美少女だったのだから無理もない。
傍から見れば美少女を無理矢理に誘拐してきた風にしか映らない。
「はいはいちょっと落ち着こうか棗生くん。今外してあげるからね~」
悊人は手早く縄を解いてから猿轡を外してやる。
「何のつもりだ!」
開口第一声、美少女は悊人を怒鳴りつける。
……まあ、無理もない。
「人助けだよ、棗生くん。ちょっと血を分けて欲しいんだ」
「はあ!? 血を!?」
男のような喋り方をする美少女。
「棗生くん、確かシスAB型だっただろう? あの子の母親が緊急手術を控えているんだが血液が足りなくてね。君と同じ血液型なんだ。助けてあげてくれないかな?」
「………………」
美少女は怪訝そうな目で満月を見る。
睨まれたように感じた満月はびくびくしながら、それでも美少女に近づいていく。
「あ……あの……おねがいします。お母さんを、助けて……ください」
「………………」
「ほらほら。こんな可愛い子が涙目でお願いしているのにまさか断るなんてことはないよね、棗生くん?」
「……そりゃ構わないけど、だったら最初からそう言えよ。別に断るほどのことでもねえんだから言ってくれれば大人しくついてきたのに」
「それは悪かったね。棗生くんを連行するとなるとやっぱり誘拐風にした方が雰囲気出るかなと思って気を遣ってみたんだが」
「どんな気の遣い方だ!」
憤慨する美少女。
もっともな反応だ。
「紹介するよ。彼は塔宮棗生くん。私の可愛い息子だよ」
にこやかに美少女、棗生を紹介する悊人。
「む、息子!?」
「娘じゃなくて!?」
「というか貴方は息子の女装を許容しているのか……」
「ええと、お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんなの……?」
恵、火錬、桐継、満月の順番でそれぞれの反応を返す。
「いやあ、趣味で人を差別するのはどうかと思うしね。ここは父親として度量の広いところを見せてあげないと。ね、棗生くん!」
ばん、と棗生の肩を叩いてから呼びかける悊人。
「ざけんな! 俺の趣味じゃねえ! あんたが無理矢理にやらせてるんだろうが!」
「それはそうだがこんなところでバラさなくてもいいじゃないか。パパへの愛が足りないぞ、棗生くん」
「やかましい! とっとと連れて行きやがれ! さっさと提供して俺は帰る!」
憤慨しながら医師についていく棗生。
その背中を唖然として見送りながら、四人は悊人を見る。
「満月ちゃんはお母さんのところに戻った方がいい。きっともう大丈夫だから」
「うん。ありがとう!」
満月はぺこりと頭を下げてICUに戻る。
「……塔宮さん。貴方、息子の女装を許容してるんじゃなくて強要しているんですか……」
半ば軽蔑の眼差しを送る恵。
「……でも、恐ろしく似合っていたことは確かだけどね」
棗生の美少女っぷりを見てそんな事を言う火錬。
「確かに。男だと言われなければまずバレないだろうな。どこからどう見ても完璧な美少女だった。喋り方は論外だが」
桐継も同意する。
「まあこちらにも色々と事情があってね。棗生くんは養子なんだ。彼の女装は彼の趣味でも私の趣味でもない。必要に迫られて頼んでいることでね。その辺りはこちらの事情だから追求しないでもらえると助かる」
「はあ。まあ、オレ達には関係ないことなんで追求はしませんが」
「それにしても助かりました。感謝します」
まさか社員ではなく身内にシスAB型が居たとは予想外だったが、お陰で最速で駆けつけることが出来た。そこは素直に感謝したいところだった。
「それはお互い様だ。満月ちゃんや朔さんのことが判明したのはこちらとしても助かる。棗生くんにもしもの時があったときに最優先で協力を依頼できるからね。今回恩を売っておけばそれは確実なものになる」
「なるほど。そういう打算もあるわけですか」
恵が感心したように言う。
悊人はニヤリと口元を吊り上げるだけで返した。
数時間後、朔の手術は無事に完了したと知らせを受ける。
うれし泣きする満月を火錬が宥めながら、改めて血液提供をしてくれた棗生にお礼を言う。
「うう……気分悪い……」
血を抜かれすぎた棗生は調子悪そうにソファーに寝転がっていた。
「ご苦労様だったね、棗生くん。レバーでも用意しようか?」
「勘弁してくれ。どうせならうまいもんがいい」
「何が食べたい?」
「……寿司」
「ははは。じゃあ久し振りに十兵衛のところへ行くかい?」
「ああ……いいなそれも。……となるとまだ女装してないといけないのか」
げんなりしながら棗生が言う。
「そうだね。包丁を投げつけられたくなかったら女装のままで行った方が賢明だろうね」
「………………」
一体どんな寿司屋だ、と三人は内心だけで突っ込む。
「なつきお兄ちゃん。ほんとうにありがとう」
棗生の傍に寄ってお礼を言う満月。
「……ああ。お母さん助かって良かったな」
棗生は気怠そうに満月の頭を撫でてやる。
「うん!」
嬉しそうに笑う満月。
満月の後ろ姿を眺めながら、三人は複雑な心境になる。
「……今回のゲームで手術代くらいは稼げてるはずだよな?」
恵が言う。
「ああ。一人あたり千二百五十万。十分すぎるだろうな」
桐継が続け、
「やっぱり、ここで降りて貰った方が満月ちゃんの為かな……」
朔の手術代と、その後の生活費を稼ぐためにSGへと参加していた満月。
だが今回の賞金でその目的は果たされたし、朔の方も回復の兆しを見せている。
ならば朔に余計な心配をかけない為にも、満月にはここでリタイアしてもらった方がいいのかもしれない。
三人はそう考えるのだが……
「けいお兄ちゃん、きりつぐお兄ちゃん、かれんお姉ちゃん、とうぐうさん。ほんとうにありがとうございました。わたし、最後までちゃんとがんばるね!」
「「「………………」」」
健気にもそんな事を言う満月に対して、リタイアしろとはどうにも言いづらい恵達だった。
とゆーわけでゲストは棗生たんでしたー!
やっぱりこっちでも誘拐されてきちゃってるのさ棗生たん!
君は誘拐属性確定なのだよ!




