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十万人に一人の血液型

「え……? お母さんが……?」

 満月の声が震える。

 勝利祝い&分配を始めようと思っていた矢先の出来事だった。

 帰り道、母親名義で購入して連絡用に満月に預けられているプリペイド携帯に着信があった。

 どうやら満月の母親の容態が急変したらしい。

「あ……あ……」

 満月は震えながら携帯電話を握り締める。

「代わって」

 桐継が電話を取り上げて代わりに対応する。

「病院はどこですか? すぐに満月ちゃんと一緒に向かいます」

 桐継は必要なことを訊いてから、すぐに携帯電話を切った。

「満月ちゃん」

 携帯電話を満月に返してから、呼びかける。

「お母さん……」

「満月ちゃん!」

 自失状態にあった満月にもう一度強く呼びかける。

「っ!」

 びくっとなりながら桐継を見上げる満月。

「そこで怖がっていても始まらない。満月ちゃんに今できることは?」

 満月の傍にしゃがみ込んで、その小さな両肩に手を置く。

 満月は顔を上げてから、桐継を見据える。

「……お母さんのところに行くこと!」

「その通り。分かったらさっさと向かうぞ」

「う、うん!」

 すぐにタクシーをつかまえて四人で病院へと向かう。

 この状態の満月を一人にしておくことなどできなかった。


 病院に到着すると、満月の母親である夜乃朔よるのさくはICUへ入れられていた。

 満月だけが面会を済ませてきてから、廊下へと出て来る。

「……ちょっと、手術が出来ないってどういうことですか!?」

 朔の状態は緊急を要するのだが、治療のための手術が出来ない状態にあるらしい。今すぐに始めないと命に関わるかもしれないのに、と火錬が医師につっかかる。

「あなた方は?」

 医師は不審そうに火錬たちを見る。

 満月とかなり年齢が離れているため、友達にも見えないだろう。怪しむのは当然だ。

「満月ちゃんの友達です。差し支えなければ手術が出来ない事情を教えてもらえませんか? 先進医療と窺っていますが、まさか執刀医が現在ここにいないとか?」

 特殊な技量を持つ人間は限られている。全ての医師が同じ技量で治療を行えるとは限らない。そういう事情なのかと桐継は問いかけるのだが、

「いや……そうじゃない」

 医師は首を横に振った。

 そして静かに言う。

「血液が、足りないんだ」

「血液? ああ輸血用ね。血液型は? 俺たちで一致するようなら協力しますが」

「……君達の血液型は?」

 医師が桐継達を見て問いかける。

「私はO型だけど」

「オレはAB型だ」

「……B型。朔さんがA型でなければ対応できます。どうですか?」

「……残念ながら、無理だ」

 医師は再び首を横に振る。

「A型なんですか?」

「そうじゃない。夜乃さんの血液型はAB型だ。ただし、彼女はシスAB型だ。通常のトランスAB型ではない。稀血なんだ」

「っ!」

 その意味を瞬時に理解した桐継の表情が強張る。

 稀血。

 輸血の際に支障をきたすような 極めて発現率の低い血液型を言う。稀な血液型の血液の医療需要に応えるために国際的協力体制が取られたり、更に登録制の充実によっていざという時のための相互援助を図っている。

 また、稀な血液型の血液は冷凍することにより長い期間の保存をする場合がある。日本の人口に占める献血者の割合が約五パーセントであることから考えて、現在見つかっている血液型以外にも稀な血液型が潜在していると言われている。

 その中でもシスAB型は十万人に一人と言われている稀血だ。

 稀血というには若干数が多いが、それでも集まりにくい血液であることに変わりはない。

「……ボンベイやパラボンベイに較べたらまだマシかもしれないが、それでも今この病院にはシスAB型の輸血用血液は無いんだ。手配するよう頼んでいるが、それも間に合うかどうか……」

「わたしお母さんと同じ血液型だよ! わたしの血じゃだめなの!?」

 満月が医師に縋りつきながら言う。

「……残念ながら、君の小さな身体では手術時の輸血に足りるだけの血液を提供して貰うわけには行かない」

「そんな……!」

 満月の表情が絶望に染まる。

 しかし桐継はすぐに携帯電話で連絡を取った。

「桐継? どこに電話するつもりだ? まさか知り合いに同じ血液型がいるのか?」

「いや。そんな貴重な知り合いはいない。だが、やらないよりはマシな心当たりがある」

「?」

 桐継はボタンを押して連絡を取る。

 コール三回で相手が出た。

『どうした? 恵くんじゃなくて桐継くんが私のところに連絡してくるなど、珍しいな』

「塔宮さん。緊急事態です。塔宮グループの社員にシスAB型の方はいませんか? いれば輸血協力をお願いしたいのですが」

「あ、そっか! 塔宮グループなら確かにいるかもしれない!」

「だな! さすが桐継だ!」

 塔宮グループは連結従業員数二十万人を超える巨大企業だ。十万人に一人と言われているシスAB型の社員だって確率で言えば二人は存在する。

 桐継はすぐにその事に思い至ったのだろう。

『……話が見えない。状況の説明をしてくれ』

 そう言われて、桐継が端的に説明をする。

 とにかく夜乃朔の為にシスAB型の血液が必要なこと。

 病院には今現在ストックが存在せず、手術に踏み切れないこと。

 今は生命維持を最優先で行っているが、それもいつまで保つか分からないこと。

「お願いします。社員データから血液型を調べてもらえませんか? 一刻を争うんです」

『……事情は解ったが急に言われても困る。第一間に合う位置にいるとも限らない』

「それはそうですが……」

『……いや、待て。シスAB型だったな!?』

 悊人が急に思い至ったように声を荒げる。

「……ええ。そうです間違いなくシスAB型です」

『分かった! 一人だけ心当たりがある。すぐに連れて行くから満月ちゃんにそう伝えてくれ』

 悊人はそれ以上時間を無駄にせず、すぐに電話を切った。

「喜べ満月ちゃん。一人だけ心当たりがあるそうだ。きっと塔宮さんがなんとかしてくれる」

「ほんとうに……?」

「本当だ」

 あの調子ならすぐに連れてきてくれるだろう。

 満月は朔の所に戻り、恵達は悊人の到着を待つことにする。

 そして悊人はそれから三十分後に血液提供者を連れてきてくれた。


次回、ゲスト出演二人目登場であります!

さあて、一体誰でしょう~(^o^)

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