微乳同盟の信念!
で、開始一分もしないうちから戦闘になった。
「………………」
「………………」
「………………」
三つの絶句は『微乳同盟』のもの。
「び、びっくりしたぁ~」
糸を操っていきなり襲いかかってきた三人を瞬時に拘束したのは満月だった。
「すげえな」
「ああ。火錬とは大違いだ。こりゃあとんでもない戦力だぞ」
「いちいち私を引き合いに出さないでよ!」
微乳同盟は素手格闘の面々だったらしく、武器を持たないまま満月に捕縛されている。
「えっと、てかげん、てかげん……」
満月の方は三人を必要以上に痛めつけないように、糸の締めつけ具合に気を遣っている。
……余裕過ぎる。
「び……微乳にやられるなら……」
「く……悔い無し……」
「出来ればもうちょっと近づいて欲しいくらい……」
やられた面々も痛めつけられないまま捕縛されたため、発言に若干の余裕がある。……内容はともかくとして。
「満月ちゃん。とりあえずそいつら動けないように縛っといて」
恵が的確に指示を出す。
「う、うん」
満月が三人に近づいてから糸の縛りを重ねようとすると、
「近づかないままで出来る?」
桐継がそっと満月の肩を掴んで止める。
「えっと、できると思う」
「じゃあ離れたままでやって」
「うん」
素直に従う満月。
微乳同盟の面々が『ちっ』と舌打ちをしたのを、恵と火錬は確かに聞いていた。
「……こんなのが四回戦まで勝ち残ってるのって、どう思う?」
心底嫌そうな表情で火錬が訊く。
「それを言うなら恵だってそうとうなものじゃないか?」
ボソリと桐継が返答。
「あ、それもそうだね」
「納得すんな!」
そして恵が憤慨。
分かり易い三人だった。
「おわったよ~」
三人を傷つけないように丁寧に拘束を終えた満月がとてとてと桐継の傍にやってくる。
「よしよし。えらいぞ満月ちゃん」
「えへへ~」
桐継になでなでされながら満月は嬉しそうに笑う。
「……なんか、えらくキリ先輩に懐いてるね。満月ちゃん」
「ああ。引き抜きの説得をしたのも、初日に一晩過ごしたのも桐継だからな。心細いときに優しくしてやったもんだから刷り込みみたいなものなんじゃないか?」
「なるほどね」
言われてみれば納得の火錬だった。
一瞬だけ桐継のロリコン趣味を疑ったりもしたが、よく見るとそんな雰囲気でもない。どちらかというと妹に接するような感じだった。
「残り二人くらいは火錬ちゃんが仕留めてみたら? 小学生に手柄取られっぱなしっていうのもしまらないだろ?」
「うー。頑張ってみるけどね」
火錬が棒を構えながら唸った。
四人で病室やナースステーションを探っていく。
「『宝』が先に見つかれば早いんだけどな」
恵がそう言うと反対方向から足音が近づいてきた。
「あっ!」
火錬が先頭にいた微乳同盟の敵を指さす。
「げっ!」
敵というよりもアタッシュケースを指さしていた。
『宝』を先に見つけられたのだ。
「火錬ちゃん!」
「任せて!」
火錬が走り出す。
戦闘領域外に逃げられる前に取り返さなくてはこちらの負けになってしまう。
「待てこのぉ!」
火錬の姿を見て慌てて逃げ出す二人に、そのままびゅん、と棒を投げつけてやる。
「ぎゃっ!」
棒は一人に命中したが、『宝』を持っている方には当たってくれなかった。無傷の敵はこけた仲間を見捨てて走り続ける。
四人がやられても一人が『宝』を戦闘領域外に持ち出せばその時点で『微乳同盟』の勝利が確定するのだから、その行動は正しい。
「ちっ!」
桐継が『宝』の持ち手を狙って拳銃を撃った。
「ぐっ!」
一発目は根性で耐えきったが、さすがに二発目は耐えきれなかったらしく『宝』を取り落としてしまう。
「はあっ!」
そこを棒を拾った火錬がすばやく攻め込む。
「えいっ!」
そして満月がぬかりなく糸で『宝』を回収。
「はい、けいお兄ちゃん」
そのまま恵に引き渡す。
「おー。満月ちゃんほんっと役立つな! 火錬ちゃんよりよっぽど大活躍だ」
なでなでなでなで、と満月の頭を撫でてやる恵。
「あうあう~」
頭ごとがくがくゆさぶられて戸惑う満月。
「だからいちいち私と較べないでよっ!」
最後の敵に棒を振りかざしながら怒鳴りつける火錬。
「せいっ!」
しかし敵も最後の一人なだけあってなかなか手強い。
転けさせた一人は恵が手際よく気絶させているので戦力外だが、残り一人はかなりの使い手であることは間違いないらしい。
火錬の右肩を狙ってきた回し蹴りを棒で受けとめる。
「ぐぅっ!」
動きは見切っていたし、しっかりと受けとめたにもかかわらず、火錬の身体が宙に浮いてしまう。
「っつ~。重たいなぁ、この人の攻撃」
すぐに接地してから火錬は棒を構え直す。
「火錬ちゃん。『宝』はゲットしたから撤退でもいいよ」
恵が後ろからそう言うが、火錬は首を横に振った。
「師匠達先に行っていいよ。私はこいつと決着を付けるから」
「……結構気にしてる?」
「追い詰めた張本人がわざわざ言うか!」
「あはは~。ムキにならなくてもいいじゃんか」
「とにかく、最後までやらせて」
「まあいいけどね」
「じゃあ俺たちは見学かな」
「いいの?」
「いいからいいから。これはこれで火錬ちゃんの修行になる」
四人で袋叩きにすれば手っ取り早いのだが、三人は傍観するようだ。……満月だけは心配そうに火錬を見ているが、余計な手出しをしないように恵と桐継が言い含める。
「じゃあ、やろうか」
「……そうだな。『宝』を取り返せる見込みは薄いが、このまま引き下がるのも微乳同盟の沽券にかかわる」
「……どういう沽券なんだか」
火錬が呆れ混じりに返す。
その瞬間、敵が動いた。
「!」
火錬にローキックを繰り出そうとする。
火錬は棒で防ごうとする。今度は身体ごと浮かされないようにしっかりと踏ん張ってから受けとめた。
「なっ!?」
しかし棒にぶつかった反動で今度はその足がハイキックへと変化した。
「くっ!」
避けきれないと判断した火錬はそのまま敵へと踏み込んで敵の顎を棒で弾き上げた。
「ぐがっ!」
「つっ!」
敵は顎を、火錬は内側に踏み込んだ分威力の弱まったハイキックのダメージを肩に受ける。
後に倒れかけた敵はそのままジャンプして身体を浮かせ、その状態で左回し蹴りを火錬に喰らわせようとする。
「ごめん!」
火錬は反射的にその攻撃を封じる行動に出るが、その行動があまりに酷いものだという自覚があるため、とりあえず謝っておく。
火錬はさらに踏み込み棒でその回し蹴りを受けとめて、そのまま棒を突き出した。
「●×△□☆γβα∞~っ!!」
「いや、ほんっとごめん……!」
その棒の突いた先は、敵の股間部だった。
出来るだけ威力を抑えたつもりだが、それでも咄嗟の行動だったのでかなりの威力になったはずだ。
敵は股間部を両手で押さえながらごろごろとリノリウムの床でのたうちまわる。
勝利したが、どうにも後味の悪い結果だった。
「火錬ちゃん、えっぐいな~」
見ているだけで痛かったのか、恵は自らの股間部を隠しながら火錬を非難した。
「………………あれは、痛そうだ」
桐継の方も目を逸らしながら顔をしかめる。
「いたいの?」
満月だけは不思議そうに二人を眺めている。
「ものすごぉく、痛い」
「ふうん」
恵が心の底から痛そうな表情を作ってから満月に答える。
「ぐおぉぉぉぉ……! お前、何てことしてくれるんだ……!」
呻きながら最後の敵が火錬を睨み上げる。かなりの涙目になっているのが哀れだ。
「いや、だからごめんって言ったじゃん?」
さすがに申し訳なく思っている火錬は居心地悪そうに返す。
「……つ、使い物にならなくなったら……どうしてくれるんだ……」
「……いや、そんな事言われてもね……」
返答に困る台詞だった。
「畜生……二度と微乳っ娘を抱けなくなったら呪ってやるぞ……」
「……やっぱり念入りに潰した方がいいかなぁ」
火錬は再び棒を構えて股間部へと向ける。
今の発言がお気に召さなかったらしい。
「どうどう火錬ちゃん。チーム名通りの信念ってことで大目に見てやってよ」
同じ男としてさすがに見過ごせなかったのか、恵が仲裁に入る。
「むぅ」
怪我人に止めを刺すような真似は好みではないので、火錬も大人しく引き下がる。
こうして、本戦第四ゲームも勝利を収めた『アウトロー・ヘヴン』だった。
今回はメインキャラにロリコンが存在しないので敵方に登場させてみました。
……登場させる必要、あった?あったよね?あったはず!
微乳同盟ファイト!




