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勝利よりも重要なものとは……

 SG本戦第三回。

『アウトロー・ヘヴン』VS『M・L・A』。

 戦闘領域はなんと、寺だった。

 なんという罰当たりな、と思ったが実際は何年も前に廃寺になってしまっている場所らしい。

 安心しつつもせめて本堂くらいは傷つけないように気を付けようなどと殊勝なことを考えながら、恵は辺りの様子を窺っていた。

 今回は恵と桐継、そして火錬は固まって行動していた。

 始まった瞬間から遠隔射撃が行われたからだ。

 すぐに物陰に隠れて様子を窺う三人。

「今回の相手は射撃特化型みたいだな」

 誰一人姿を現さず、確認しただけで四方向からの射撃が行われている。

 五人チームだという情報だからあと一人がどこか別の場所にいるのか、それとも射撃型ではなく近接戦闘型なのか。

 それを見極めるまでは迂闊に動きたくない。

 少なくとも四人はアウトレンジ専門だ。

 こちらの位置を確認して、じわじわと追い詰めていくのが狙いだろう。

「……まいったな。向こうは少なくとも大型狙撃銃装備だぞ。拳銃じゃ話にならん」

 桐継が二挺拳銃を構えながら難しい表情で言う。

「無理か?」

 そんな桐継に恵が確認する。

「無理だ。ゴム弾だぞ。辛うじて当てられたところでこの距離だとダメージは期待できない」

「……となると、無理にでも距離を詰めるしかないか」

「それも難しい。ここは遮蔽物が少なすぎる。移動すればいい的だぞ」

「むう……どうすればいいものか……」

 打開策が見つからず唸る恵。

「どこから撃ってきてるかって言うのは分かる?」

 火錬が桐継に問いかける。

「大体はな。射撃は専門じゃないからはっきりしたことは言えないが、向こうも多分素人だ。同じ素人考えなら隠れられそうな場所は見当が付く」

 桐継は弾が飛んできた方向と、この位置を確認できる隠れ場所を照合して、屋根上と樹の上、墓に潜んでいるのと室内から撃ってきているだろうと当たりを付けた。

「正確な位置までは分からない。ただ隠れたまま狙えそうな場所はその四つくらいしか思いつかないだけだ。専門家ならもっとうまくやるだろうが、所詮こいつはゲームだからな。プロが参加するとは考えにくい」

「そいつはオレも同感。今まで戦った奴らはみんなアマチュアもいいところだからな。精々がガンマニアとかガス銃オタクとか、その辺りじゃないのか?」

「うわあ……ありえそうで痛々しいね、それ……」

「オレ達の装備だとどうやっても先制攻撃は不可能だ。桐継、なにか隠し武器とかないか?遠距離攻撃が出来そうな奴」

「……生憎と俺の暗器は近距離専門でな。閃光弾や飛礫が精々だ」

「だよなぁ」

「あ……」

 思い出したように桐継が懐を探る。

「どうした?」

「発煙弾もあった」

「それだ!」

 さすが用意周到。持つべき者は四次元ポケットの仲間である。


 作戦は至って単純。

 大型狙撃銃を扱っている以上、移動は困難なはず。

 ならば潜伏場所まで距離を詰めれば勝負が付く。

 四人中三人までしか対応出来ないが、それはこの際妥協する。

 まずは発煙弾を使って自分たちの動きを隠し、それぞれが散開する。

 敵の潜伏場所まで接近して、倒す。

 残り一人は手が空いた人間が倒しに行く。

「適当極まりない作戦だけど、今のところコレしか思いつかない。異論は?」

「ない」

「私もない」

「よし。じゃあ作戦開始だ。オレ達の服は多少のゴム弾ならやせ我慢できる性能がある。頭部に当てられない限りは根性で動き続けろ」

「師匠~。私は脚もむき出しだよ。やっぱり防護服は女子もズボン仕様にするべきだと思う。脚を撃たれたら動けないよ~」

 火錬がさりげに今後の防護服改善について要求した。

「却下。生足チラリズムは時に勝敗よりも重要だと主張する」

「………………」

 どうやら無駄な会話だったらしい。

 今度は塔宮さんに直談判しようと固く決意する火錬だった。


「じゃあ、行くぞ」

 桐継が発煙弾を転がす。

 十分に煙が辺りを覆ったのを確認してから、それぞれが動き出す。

 見えなくなって焦ったのか、敵の射撃手はとにかく撃ちまくってきた。

「いった!」

 何発か被弾したが、やはりゴム弾なのでやせ我慢できるダメージレベルだ。火錬はお構いなしに目的地へと進む。


 桐継が予想した通りの場所に狙撃手は居た。

 火錬が向かったのは墓場。墓石に隠れて大きな狙撃銃を構えている馬鹿が一人。先ほどの煙幕で火錬達を見 失った狙撃手は、未だに煙が残る正門付近を探っている。

 火錬はこっそりと近付き、

「えいっ!」

 狙撃手の後頭部をかなり強めに殴っておいた。

「………………」

 火錬に殴られた狙撃手は倒れる前に墓石の角でも頭をぶつけてしまう。きっと起きたときには瘤が二つになっているだろう。

 念のために狙撃銃は遠くへと放り投げておく。これで意識が回復した後もまずは銃を探さなければならないはずだ。本当なら分解して使い物にならなくしてやりたかったのだが、生憎と火錬にはその知識がない。

「キリ先輩と師匠も今頃仕留めたかな?」

 あの二人がしくじるとは思えないので、火錬は安心して歩き出そうとした。

 歩き出そうとした瞬間……

「え? え? うわ……嘘……!?」

 見えない何かに身体を拘束されてしまう。

「し、信じられない……私ってば本気で足手まといだわ……」

 自分が何で拘束されているのかも分からないまま、火錬は動けずに唸る。

 少しでも動けば火錬を拘束しているモノが火錬の身体を容赦なく締め上げることが分かっているので迂闊に動くことも出来なかった。

 恵達が助けに来てくれると信じてはいるものの、毎度毎度足を引っ張っている自分に、いい加減嫌気が差してしまう火錬だった。


……火錬ちゃんが格好良く颯爽に活躍できる日は果たしてやってくるのでしょうか?

多分、来ないだろうなぁ。

この子のデフォルト機能に『ドジッ子』って設定がきっとあるんだ。うん。そうに違いない。何故なら作者がそう決めたから!

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