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ワインのひみちゅ!

 恵が『宝』であるアタッシュケースを見つけたのは、それから四十分後のことだった。

 本当にのんびりと探していたらしい。

「ん……あれ……?」

 恵がアタッシュケースを持ってくる頃には、火錬もようやく目を醒ましたらしく、ぼんやりと辺りを見回している。

「お、起きたな火錬ちゃん」

「あれ? 師匠?」

「お宝はここにあるぞ。なんとびっくり、音楽室のグランドピアノの上に鎮座してやがったよ。ある意味分かり易すぎだよね~」

「………………」

「私、もしかしてやられてた?」

気まずそうに問いかける火錬に対して、恵はにっこりと満面の笑みを浮かべる。

「うん。この上なく無様にやられてたね~」

「あうっ!」

「大体、桐継が不意打ちを食らった敵に無策で突っ込むなんて本気で馬鹿じゃないの? 少しは警戒心ってものを持とうよ。ねえお馬鹿な火錬ちゃん?」

「うぅ~~~」

「まあ、不意打ちでやられかけた俺があまり強くは言えないが、確かに馬鹿だな」

「いやいや。桐継はそれでも反撃したし、オレ達に場所を教えてくれたじゃないか。立派立派。それに較べて火錬ちゃんってば一発でノックアウトだもんな~。ぶっざま~♪」

「ごごごごごめん! まじでごめん!」

「ま、次から気をつけてくれればいいけどね」

「ちなみに、私なにでやられたの? 何だかいきなりでよく分からなかったんだけど……」

「………………」

「………………」

 馬鹿を見るような視線を向ける恵と桐継。

 背後からならまだしも正面から自分がやられた状況を理解していないのだから当然だろう。

「睡眠スプレーだよ」

「え? もしかしてあの防犯グッズのアレ?」

「そう。またの名を犯罪グッズ」

「うわ~! 格好わる! そんなものでやられたの!?」

「そうだよ。だから無様って言ってるじゃないか」

「あんまり言わないでぇぇぇぇぇ」

「まあ二人は倒したんだし、今回は火錬ちゃんもそれなりによくやったと思うよ」

「ほんと!?」

「最後がマイナス一万点だけどね」

「減点多いよ! せめて五十点くらいにしようよ!」

「回復したならさっさと出よう。『宝』を持って戦闘領域から出ない限りは勝利判定が下されないんだからな」

「あ、そっか」

 火錬は慌てて立ち上がる。

 桐継の方も黙って立ち上がった。

「今回は道場で分配しようか。さすがにそこまで汚れた格好だと店には入れないし。打ち上げは明日でいいかなって思うんだけど」

 恵がそんな提案をする。

 焼き肉を食べに行こうとしていたのだが、確かにこんな汚れた格好では行けない。

「そうだな。正直まだ気分が悪い。ああいうのはしばらく気持ち悪さが抜けないからな。今焼き肉を食べに行くのは非常に勿体ない」

 桐継も同意する。

 体調不良の時に焼き肉を食べるなど言語道断だ。

「そうだね。私もちょっと調子悪い。明日にしよう明日」

「じゃあ道場に向かうか」

「さんせーい」


 こうして、SG本戦第二戦の勝利は『アウトロー・ヘヴン』に確定したのだった。


 その後、道場での分配中の出来事――

「………………」

「………………」

「………………」

 アタッシュケースを開けると、そこには五百万円が入っていた。

 それはいい。

 それはいいのだが、入っていたのは五百万円だけではなかった。

「……えっと、これ、お酒?」

 入っていたのは黒い瓶。

 白いラベルが貼り付けられたワインだった。

「打ち上げ代わりに飲めってことか?」

 桐継が首を傾げつつ、銘柄を確かめる。

「ロマネ・コンティ。……一九九〇年ものか」

「………………!」

 銘柄を聞いた恵が弾かれたように顔を上げる。

「なんだ? 好きなのか。だったらこいつはお前がもらっておけ。俺は日本酒派だからな。ワインは好みじゃない」

「いいのか?」

「火錬は? まあ未成年だが飲みたいのなら二人で飲めばいいと思うんだが」

「というか、キリ先輩たちもまだ未成年じゃんか。でもお酒はあんまり好きじゃないからいいや。師匠が飲みたいっていうんならそれでいいんじゃない? その代わりアタッシュケースは私にちょうだいね。この前リサイクルショップに持っていったら結構いい値段になったからさ~」

「そりゃ構わないけど……」

 確かに恵はワインもいける。かなり好きな方だが、しかし恵がビックリしたのはむしろワインそのものの価値なのだ。

 ロマネ・コンティ・一九九〇。

 ……確かメーカー希望小売価格二五〇万円の最高級ワインだったはずだ。

 賞金の半額。

 誰だこんなもの紛れ込ませたのは。

 恵が一人で首を傾げていると、携帯電話にメールが入ってきた。

「………………」

 差出人は悊人だった。

 そしてどうやらワインの犯人は悊人らしい。今回の賞金提供者は悊人なので、ちょっとしたオマケというか悪ふざけのつもりらしい。

『ワイン好きって聞いたからオマケしておいたよ。たまにはこういう銘柄も悪くないだろう?』などなど。

「あはは……」

 実質賞金七五〇万円。

 うーん。火錬ちゃんには言えないなぁ。

 絶対怒るだろうなぁ。

 でも飲んでみたいな~。

 ……などという事を考えつつ、結局このワインの秘密(値段)は言わないでおくことにした。後で桐継だけにこっそり教えておこう。

 次回からもたまに賞金以外にこういうオマケがあるかもしれない。

 などと思うとちょっぴり楽しみな恵だった。



ワインゲットな恵たん。

きっとお家で一人美味しく飲んでいることでしょう!


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