9 敵。もしくはご飯。(3)
『ねえララ。そろそろ帰ろうよ』
「ちょっと待って。もうちょっと味見させて」
呼び寄せたモンスターたちが帰ってしまった広場で、ララとオコジョは地面に座り込んで宝石の山とにらめっこをしていた。
ララは宝石の山を崩し、一つ一つ手にとっては少し齧って味見する。
「うーん。ねとねとしてる」
『へえ』
「でもおいしい。――なんなんだろう?」
冒険者達から集めて宝石の中には、ララでも知らない物が幾つかあった。
それらは北嶺山脈では採掘できないもので、当然ララが口にするのは初めて。そんな宝石類に興奮して一つ一つ調べているのである。
「これは……良い石英に似てるなあ。割と美味しいや。でもピカピカ黒く光ってるのは初めて見た」
『ボクは似たヤツみたことあるけどなあ。ララにはただの石に見えたんじゃない?』
「そうかも。なんか、こう――人間が持ってる宝石は、どこか違うよね。美味しそうっていうか、キラキラしてて混じりものが少ない」
冒険者たちの持っていた宝石は、宝飾品の形をしているため様々に加工されていた。そしてララが食べるのはほとんどが宝石の原石だ。綺麗にカットされた宝石を目にすることは少ない。
黒水晶と呼ばれる水晶についても、ララはその原石を見つけても不純物が多く混じった石英だと判断して捨てていた。
『わかんないよ』
オコジョがため息をつきながら言う。
『ねえ、本当に帰ろうよー。もう日が暮れて来たよ。早く帰らないと、小屋に着くのは夜になっちゃうよ』
「もうちょっとだけ待ってよ」
おざなりに答えて、ララは宝石に向かいあう。
『ここで食べなくてもいいじゃんかー。小屋に持って帰って、ゆっくり食べたほうが絶対おいしいって』
「が、我慢できない」
『ララはそれでいいよ。でもボク、3日も何も食べてないんだよ』
たしかに、オコジョは3日間ララの傍にいてまともにご飯を食べていない。
それは付近に大量のモンスターがいたからで、そんな中食料調達に行けば間違いなく死ぬと感じたからだ。
ララもそれはわかっていたのだが、だからと言って味見をやめる気にはなれなかった。
なにせ久しぶりのしっかりとした食事なのだ。
「じゃ、一人で帰りな」
『小動物を甘く見ないでよね。こんなところを一人歩きしたら、絶対殺られる』
さきほどモンスター達を帰したばかりだ。まだまだ辺りをうろついている者が多いだろう。オコジョはそれを心配しているらしい。
「なら、これ上げる」
そう言って、ララは蔦袋から石英を取り出しオコジョの目の前に置いた。
『食べれない……』
「宝石はあげられない」
『そういうことじゃないんだ……』
ララとオコジョがそんな会話をしている時、
「見つけたぞ。モンスターめ!!」
背後で叫び声が上がった。