8 敵。もしくはご飯。(2)
3日3晩、ララは集まったモンスター達に命じて冒険者の死体を捜索させた。
特に以前冒険者の死体をあげた連中(ララが覚えている範囲で)には絶対持ってくるように脅し、あとは適当にお願いして探索させる。
モンスターたちを送り出すと、ララは広場をブラブラと歩きまわった。
やがて近くを流れる川の川底にしゃがみ込んで石英探しをし始める。空腹を紛らわすためになんでもいいから口に入れたかった。
本当なら、不純物が多く混じった石英は食べたくない。味が雑だしジャリジャリとしていて不味いからだ。しかし食べ物といえば食べ物だし、今では貴重な食料だ。
今回ララが探した川は比較的に大粒な石英が沢山あった。もしかしたら水晶が見つかるかも知れないと思ったララは石英集めに熱中し、3日経つ頃には蔦袋がいっぱいになるまで集めた。
水晶こそ一つも見つからなかったが、ただ幸運にも、ララは不味い石英で食いつなぐことはせずに済んだ。
『いっぱい集まったねえ』
やや呆れたようにオコジョが言った。
「ふふふ――あははは! すごい! 笑いが止まらない!」
ララの目の前には、宝石がこんもりと山になっている。
水晶、紫水晶、黄水晶、赤鋼玉に青鋼玉、さらに宝石偏食家のララでさえも数度しか口にしたことのない二色電気石まである。
そのどれもが、純度の高い結晶を綺麗に加工したものだ。
これだけの宝石なら希少さは相当なもので、ララでも滅多に見かけない。そして量もかなりある。
そこに秘められたマナはララが数カ月は食べていけるほどの量で、いままでずっとひもじい思いをしていただけに、このご馳走に笑いが止まらなかった。
「すごいぃぃ! 二色電気石で、しかもウォーターメロンだよぅ!」
『西瓜?』
「ほら、緑と桃色でしょ。人間が食べるウォーターメロンってヤツに似てるんだってさ」
宝石をオコジョに見せつけて説明する。
電気石はいくつかの鉱物の総称だが、そのどれもがララの好みに適う。
特に二色電気石は一つの結晶に二つの色が混在しているという、見た目も豪華なご馳走だ。
『ふぅん。美味しいの?』
「これは、とんでもないご馳走だよ! 勿体ないから、とっとこう!」
ララはごそごそと電気石をしまいこみ、そして足元の山からいくつか宝石を選んで口に放り込んだ。
「甘い! 甘いなあ!」
ぽりぽり。
『あーあ。口にいっぱい詰め込んじゃって、栗鼠みたい』
「あまぁーーい!」
『口に食べ物(?)入ったまましゃべらないでよ』
オコジョがララを嗜めた。
『ララ……。』
ララがパクパクと宝石を食べていると、鎧を着た熊がやってきて言った。
『ララ。これ。どうする』
そう言って示したのは、宝石をはぎ取られた大量の冒険者の死体だ。
大半が白骨化していて、さらにモンスターによって食い散らかされたものだったのでほとんどのパーツが足りていない。
白骨でこれだけの量なら、元はどれほどの数だったのか。ララの住む北嶺山脈が人間に恐れられているのも頷けるというものだ。
「それいらない。どっか捨ててきてよ」
『でも。集める。ララ。言った』
「もういらない。捨ててきてよ」
ワキワキとララの触手がうごめいた。
食事を邪魔され、不機嫌だ。
『わかった』
アサルトベアがそれを察知して頷く。
ちなみに彼はララの友人ではなく、ララを恐れて恭順しているタイプだ。脅されてすごすごと引き下がった。
『おい。これ。運ぶぞ』
アサルトベアは他のモンスターたちに声を掛けて、死体を片付け始める。
『ねえララ。お礼くらい言ったら? わざわざ来てくれたんでしょ?』
オコジョはララの頭に乗っかってしばらくモンスターたちを眺めていたが、やがて尻尾を揺すりながらララに言った。
「……。言っても意味ないと思うけどねえ」
もともと脅して探させたのだし、お礼は今さらだろう。
しかしララは宝石を握りしめながらモンスターたちを振り返った。
『みんなーっ。ありがとー!』
『『『Oooohhhh!!』』』
ララの大声に驚いたモンスターたちは蜘蛛の子を散らしたように逃げた。
ララとオコジョ、それとララの友人のモンスターだけが広場に残る。
「ね」
『日ごろの行い、なのかなあ……』
オコジョが呟いた。
▽
そのころ。
北嶺山脈山中ではララにとって良いことが起きていた。
ララが呼び寄せたモンスターは、そのほとんどがララの生活圏内にいるモンスターたちだ。数でこそ山全体の2割ほどだが、ララの住処付近のモンスターは残らず招集をかけられたと言っていい。そしてララの生活圏は山の中腹にある小屋からローグ村にまでおよび、その間にはモンスターの空白地帯が出来あがっていた。
これに喜んだのは、現在北嶺山脈攻略中の冒険者一行だ。
モンスターたちとの遭遇率が目に見えて下がったおかげでかなりのハイペースで山を登っている。
それに加え、ごく稀に冒険者たちがモンスターに遭遇したとしてもそれらは冒険者たちに見向きもせずに辺りを散策し、やがてある方向へと向かっていく。モンスター達の向かう方向に『親玉』がいると推測した冒険者たちは密かにモンスターを尾行し、猛烈な勢いでララに接近しつつあった。