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7/21

7 敵。もしくはご飯。(1)

「到着!」


 ララとオコジョは北嶺山脈にある自分たちの住処へと戻った。

 ララの住処は、古びてはいるが立派な家屋だ。

 オコジョを飼うずっと前に飼っていた人間が建てたもので、彼が伴侶を得るときにリュンナの前任者の助言もあって建てた。

 人間が死んでしまったときに本当なら放っておかれるはずだったのだが、ララにも人間の友人が幾らか出来ていたので、なんとなく手入れをしつつ残している。


 ちなみに。


 ララは以前一緒に住んでいた人間のことはすっかり忘れてしまった。

 ララの感覚から言えば一緒に住んでいたのは一瞬の出来事だったし、以前は抱いていた愛情や母性といったモノは人間が成長し、段々と独立していくにつれて失くして行った。

 家に対しても愛着はほとんどなく、今はただ、ララの数少ない友人達のためだけに存在している。



『ここまでは、冒険者は見かけなかったねえ』


 首の定位置にいるオコジョが言った。


「荷物を置いて、早速探しに行こう。もしかしたら、前倒した冒険者の死体とかも見つけられるかもしれない」

『リュンナの言ってたことはいいの? ララの怒りを買った人だけ、って言ってたじゃん』

「ワタシはねえ、怒ってるよ。すぐそこに宝石があるはずなのに腹ペコだもん」

『……冒険者も災難だなぁ。こんな時じゃなかったら、生きて帰れたろうに』


 実際、ララが冒険者を倒すというのは年に何度かある程度だった。

 冒険者はララの居る所まで来ることはめったにない。たまにモンスターや動物に助けを求められて出向き、それを追い払う時に偶然殺してしまうくらいだ。


「殺さないよ。逃がせばまた来るでしょ。――きゃっつ……キャッツアイじゃないヤツ。キャッツ・アン何とか」

『キャッチ・アンド・リリース?』

「うわ。かしこーい」


 上機嫌で、ララは山を下る。




 ▽



  

『いないねえ』

「もっと下の方かな」


 ララ達は山を彷徨い歩いているが、冒険者は一向に見つからない。

 登るときにも見かけなかったので、ララ達とは別のルートで山を登ったのだろう。



 そもそもララは最短ルートで山を上り下りしているので、多少ララよりも早く登った冒険者たちはようやく山のの麓の樹海に入ったあたりだ。 


 自分の庭であるララはともかく、冒険者たちにとって北嶺山脈攻略は至難の業だ。


 山にはララリウムのほかにも無数のモンスターがいて、その進行を妨げる。また、肝心のララリウムの居場所すら冒険者たちにはわからない。野営を繰り返しながら山を登ったり降りたりして少しずつ探索するわけなのだが、その途中で力尽きたり諦めたりする者も多く、自身の力を良く理解している熟練者ほどその傾向が強い。

 ララと遭遇するのはよほど運が悪いか、意地になって下山しなかった愚か者くらいだった。

 

「あ、石英クォーツ見っけ」


 足元に大きな石英クォーツの塊を見つけ、ララはしゃがみ込んだ。

 手に取り持参していた蔦袋にしまいこむ。


『良かったね』

「家から離れた場所だから、まだ残ってたんだ。もっと遠くに行けば、まだまだ見つかるかも知れない」

『でも、そうやって見つかるのは食べ残した石英くらいなんでしょ。やっぱり、冒険者を見つけて大物を狙いたいよね』


 のんびりオコジョが言った。

 オコジョにすれば人ごとなので、ララへの応援もどこか気楽なものだ。

 もっとも、動物は自分本位な考えしか出来ないことが多い。そう考えるとオコジョの振る舞いとか言動というのはどこか他の動物とは違う。


「どこにいるんだろう。――ここら辺に、誰か知り合いいる?」


 ララはオコジョに尋ねた。


『うーん。どうだったかな』


 オコジョは髭を揺らしながら考える。


『心当たりないなあ。ララこそいないの?』

「呼べば来るとは思うけど。でも、モンスターは人間見かけると殺しちゃうからね。今回は呼びたくないなあ」


 モンスター間に人間でいうところの主従関係はほとんどない。あるのは単純な弱肉強食のヒエラルキーで、ララが呼べば来ると言うのは過去に面識があってララのことを恐れているモンスターか、個人的に付き合いのある友人くらいだ。

 数で言えば、山に生息モンスター全体の2割くらいだろう。


『なら、生きてる冒険者探すのは諦めて、冒険者の死体を探そうよ。死体にだって宝石はあるんでしょ?』


 オコジョが言うと、ララは頷いた。


「そうしよう。死体相手なら、安心してモンスターを呼べるし。――よーし、いっぱい呼ぶぞー」


 そう言って、ララは空へと手を掲げた。

 掲げた手から白い光が溢れ、それはどんどん広がっていく。波のように揺らめきながら木々を伝わり、やがて山全体を覆った。


 ララが得意な『転移魔法』の一種だ。

 出現させた白い光の大きさと光量に応じて、転移できる物体の体積と質量が決まる。淡く薄く広げてしまうと大したものは転移させられなかったが、声くらいなら問題なく移動させることが出来た。


『えー……。山にいる暇なモンスターは、ワタシのところに集合してください。忙しいヤツは無理して来なくていいです。暇なのに来ないヤツはあとで殺します』


 ララが光に声を乗せると、


『『『OOohhhhhhh……!!!』』』


 山全体が震えた。


ララが言ってるのは、キャッツアイ効果のことですね。

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