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4 麓の出来事。(1)


 『リンドウムの故事』と言うのがある。


 かつて栄華を誇ったリンドウム国が一夜にして滅んだことを言っているもので、一般には「盛者必衰」を訓戒するものとして知られている。

 

 ただ、別の見方もある。

 

 古い記録によれば、北嶺山脈の北、現在の王国がある場所にはかつて無数の国があったという。帝国側の記録なのでその詳細は伝わっていないが、その国々の中にはララによって滅ぼされた国がいくつかあり、そのなかにリンドウムも含まれていた。

 永遠の繫栄と言われたほど栄えたリンドウムだったが、ある王がララリウムが住む『天壁ブリッグズ』へと兵を侵攻させ、その討伐を命じた。

 理由はよくわかっていない。

 その当時から恐れられていたララリウムを討伐することによって国力を示そうとしたとか、帝国への侵攻作戦だったとか諸説がある。

 中でも北嶺山脈に眠る地下資源、特に希少金属を狙っていたのだという説が有力で、この場合に『リンドウムの故事』は『強欲は身を滅ぼす』という意味に取れる。


 リンドウムは、ララによって滅ぼされた。

 

 一晩で。



 ララ研究をしているリュンナは当然リンドウム国のことも知っていて、「地下資源説」が有力どころか真実であることを、ララ本人から聞いていた。

 だからリュンナがララから「宝石が無くなった」と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、ララが帝都を灰燼に帰す光景だった。




 ▽




「ど、どうしましょう――ララ様は、どうするおつもりなんです?」

 

 ララの話を聞き終わると、リュンナはそう言った。 


「とりあえず、リュンナは宝石持ってない?」


 ララは訊いた。


「私は、持っていません。教会には儀式用の装飾品がいくつかありますが」

「それ頂戴」

「……」


 リュンナは黙り込む。

 しばらくすると黙ったまま立ち上がり、やがて儀式に使ういくつかの品物を持ってきた。


「ここにあるのは、これで全てです」


 リュンナはいくつかの儀式道具と、そして自身が首からかけていた黄玉トパズのクロスを差し出した。

 儀式道具にはめ込まれた宝石も綺麗に加工された結晶だが、リュンナのクロスはそれ自体が黄玉トパズを加工したものだ。

 純度と量からみて、かなりのマナを溜めているのは間違いない。


 ララは差し出された儀式道具には目もくれず、喜々としてリュンナのクロスを食べ始めた。


「おいしーい。黄玉トパーズ久しぶりに食べたあ」

「……時間を頂けるなら、寄付を募ってみましょう」


 と言いつつも、リュンナはそれが何の解決にもならないことを知っていた。

 ララは「山に宝石がない」と言ったのだ。

 いつものように寄付を募って宝石を集めようと、帝国国教会本部に掛け合って宝石を調達しようと、どれも一時しのぎに過ぎないだろう。なにせララは毎日宝石を食べる。一食あたりが少なくても、それを長期間にわたって支えることはできない。

 なにか根本的な解決が必要だった。


「これからどうするおつもりですか? 私を訪ねたのは、なにか理由があってでしょう」

 

 宝石を食べるララを見ながら、リュンナは訊いた。


 ララはポリポリと宝石を食べている。

 その軽快な音や、ララのニコニコとした表情を見ていると、リュンナはさっき手渡したのは本当に宝石だったろうかと思ってしまう。しかしリュンナがどう思おうとも宝石には違いなくて、それを美味しそうに食べていることからもララにとって宝石は必要不可欠なのだ。

 やはり解決策を考えなくてはならなかった。


「宝石を沢山持っている人間って、どういう人間?」


 宝石を一通り食べ終えたララがリュンナに訊いた。


「……なぜです?」

「どこにいるかなー?」

「まさか、訪ねるおつもりですか?」


 最悪を予測しながら、リュンナは訊いた。

 ララのことだから、宝石を持っていると知ったら王侯貴族だろうと教会だろうと訪ね歩くだろう。彼らは当然差し出すだろうが、もちろん、良い気はしないはずだ。ララは恨みを買うことになり、リュンナはそれがどういう結末になるか容易に予測できた。


 つまり、貴族の反抗とララの暴走、そして帝国の崩壊。


「それは、やめてください」


 リュンナは強く言った。


「やだ」

「やだって……リュンナがお願いしているのですよ? ララ様はいつも聞いてくださるではないですか」

「でもやだ。こればっかりは聞けない」

「なにか、良い方法を考えます。お願いですから、歩き回るようなことはしないでくださいな」


 そう言って、リュンナは頭を下げた。


「――ううう」


 ララは不機嫌に唸った。

 ララにすれば食事を邪魔された気分で、リュンナの言うことはかなり不快だ。いっそ殺してしまおうかとも思ったがそれでは誰が宝石を持っているかわからない。

 わからないと言えば、ララはなぜリュンナが止めるのかもわからなかった。

 ララがリュンナの頼みごとを聞くように、リュンナもララの頼みなら何でも聞いてくれたのだ。

 なのになぜか、今回は聞いてくれない。


「絶対行く。リュンナ、教えな」

「ね、ララ様。もっといい方法があります。私も一緒に考えますから、どうか出歩くようなことは――」


 リュンナは諭すようにララに言った。


「……」


 思うように行かないので、ララはイライラしてきた。

 暴れようかとも思ったが、


「宝石が食べたいんだよ。ワタシは宝石が食べたいの! 宝石宝石宝石宝石宝石――」


 結局、リュンナに八つ当たりすることで気を紛らわす。

 

「ララ様――」


 リュンナはそっとララの手を握った。


「さっわんな!」

「――ララ様、宝石はこのリュンナが何とかします。ですからどうか、短気を起こさないでください」

「うっさいうっさい。誰が宝石持ってるんだよー。それ言えよー」


 バサバサと、触手を暴れさせる。


「あああ……。どうしましょう」


 リュンナはララの様子に途方に暮れた。


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