18 モンスターの仕事。(4)
『王国』にある砦をいくつか通り過ぎ、ララ達は大きな街に降りた。
狩りのためだ。
ポポは人間ならなんでも良いというわけではなく、それなりに好みがある。
まず、兵士は全部嫌い。鎧とか剣とかが口に刺さって不快だ。
一般人でも老人は男女とも駄目。大抵が骨ばっか。
子供も食べない。これはララが食べることを禁じていた。
そんな好みがあるので、ポポのために選んだのは成人した人間が多くいる『普通の』大きな街だった。
▽
あちこちで人間が地面に倒れ、家屋が崩れて出来あがった広場。
広場の中央にあったひと際大きな家はポポの着陸によって破壊され、道の石畳はひどく捲れて散らばっている。あちこちで火が上がっているのは、ララがポポの吐いた炎を転移魔法で拡散させたからだ。
その凄惨な光景の中で、ララとポポは2人仲良く地べたに座っていた。
「ポポ。おいしい?」
『普通』
ポポはひたすら人間を咀嚼し、ララはポポのためにせっせと捕えた人間の服を剥いている。
服ごと食べれなくもないのだが、そこはこだわりたいらしい。
しかしポポの大きな爪では服を上手く剥けないし面倒くさい。
ララもいちいち服を剥くのは面倒なのだが、多数の触手を一斉に動かせば実は大した手間でもない。久しぶりにポポに会って上機嫌なことも手伝って、ララが代わりに人間の服を剥いでいる。
「口あけな」
『うん』
ポポが口を大きく開けたのを見て、ララはそこに裸の人間を何人か放り込んだ。
彼らは何事かを叫んでいたが、ポポが2,3回噛むと静かになった。
『あ、今のは美味しかった。当たりだ』
「良かったねえ」
当たりというのは、つまり魔力を多く持った人間ということだ。
複数マナで構成されているポポはララほど偏食しなくとも魔力を補給できる。そのなかで特に好物といえば、魔力を多く持った生物なのだ。
「この街、当たり多い?」
『うーん。そんなに多くない、かな』
「やっぱ魔法使いとかいうヤツじゃないとダメなのかな」
魔法を行使する魔法使いならそれなりの魔力を保有している。
しかし、ララは彼らがどこにいるのかがわからない。
手当たり次第に人間を捕まえていくしかないだろう。
『そういえば、北の方では魔力持った人間をたくさん食べたなあ』
「ふうん。魔法使いってそっちにいっぱいいるの?」
『そういうわけではないと思う。軍隊と戦ったんだ』
「? いつ?」
『レーヴァティンを応援しに行った時。軍隊の中には、魔力を多く持った人間が沢山いるんだ。レーヴァティンはそいつらを捕まえてて、応援に来た連中にご馳走したんだよ』
へえ、とララは驚いた。
レーバがそんなことをするとは。
行けば宝石をくれるだろうか。
「ねえ、ワタシも――」
いや、無理だな。
ずっと前もそうやって騙されて宝石の鉱床を海に沈められたんだった。
あの時の恨みはさすがに忘れられない。
そもそもあいつは死ねばいいし。
『なに?』
「ううん。なんでもない」
ララは首を振り、それから広場へと目をやった。
「もう人間いないねえ。――どうする? どっか他の街行く?」
『いいよ。お腹いっぱい。ララの家に行ってゆっくりしたい』
「じゃ、帰ろっか」
そう言ってララが立ち上がった時、
「――! ――!」
何か、聞こえた。
途切れ途切れに聞こえたのは泣き声の様であり、それを聞いた途端にララの体が硬直する。
『ララ?』
「しっ!」
『なになに?』
「……」
『なになに? なんなの?』
「うるさい!」
ララは興味深々に近寄って来たポポを殴る。
轟音をあげてポポは倒れた。
『――痛い……。血が……。血が出てる……』
「しゃべんな!」
ララが一喝し、ポポは身を竦ませた。
同じ『原種』でもポポよりララの方がずっと格上。なによりポポはララの使い魔でもある。
『――ララ。なんなの?』
すっかり委縮してしまったポポが小声で尋ねた。
「泣き声がする……」
呆然とした様子で、ララが言った。
「泣き声がする! それも――あ、赤ん坊だよ!」