17 モンスターの仕事。(3)
ララは今、ポポに乗り空を移動中だ。
ポポの背中のあちこちに触手を伸ばして捕まっていて、空いた両手で宝石をつまんでいる。宝石は神殿あった無数の死体から手に入れた。
「へえ。じゃ、ポポはずっと北の方を旅してたの?」
ララはポポの背中に乗りながら話しかけた。
かなりの高度をとんでもない速度で飛んでいるので風がびゅうびゅうと突き刺さる。
その騒音のなかで、不思議と2人の間には会話が成立していた。
『そう。あっちには今、竜姫の世継ぎ問題で竜が集まってんだ』
「へえ。リュウヒメって言ったら、アレだよね。たしか……竜だもんね」
ララは一度、『竜姫』プラトー――人間は『神代竜』と呼んでいる――に会ったことがある。
竜の『原種』の血を強く引く竜で、女だったはずだ。
竜種は血統を重んじていて、原種に近いプラトーは女性でありながら絶大な力とカリスマを持っていた。
竜に限らず生命はその『原種』に近いほど存在の格が上がる。
格が高いということはその個体の能力も高いということであり、現在人間勢力に危険視されているのはどれも『原種』か、その二世がほとんどだ。
中でも制空権をもつ竜種は恐れられていて、竜種の中でもプラトーの一族が一番強い。
『ララは竜姫のことを知ってるのか?』
「えー、と。どうだったかな……」
ララはずっと昔に会ったプラトーのことを、あんまり覚えていない。
ポポの話で盛り上がったなあ、という思い出がかすかにあるだけだ。
ぼんやりと空を見つめるララに、ポポは「なんだそれ」と笑った。
『まあ、世継ぎ問題はおいて置くにしても、あっちは、結構大変。人間の王国がイケイケで』
「ふうん? 竜の住処が無くなっちゃったとか?」
『それはないけど。レーヴァティンが保っていた北海の一部で、人間に制海権を奪われた』
「うわ。あいつまだ生きてたんだ」
『水精霊獣王』レーヴァティンとララは、かつて海と陸地に分かれてケンカした仲だ。
勝敗こそつかなかったもののララは散々泣かされ、以来山に引き籠ってしまった。
割と、仲が悪い。
かなり嫌い。
『ちょっと応援に行ったりしてた』
「レーバを? いいよいいよ、あんな奴。ほっておけばいいんだ。そんで死んだらいいんだ」
『そんな単純なことでもないけどな』
ポポは喉を鳴らして笑い、ララは大きく息を吐いた。
「いろいろあるんだねえ。知らないことばっかりだよ」
『ララも旅をしてみれば? 楽しいことがいっぱいある』
「今更出ていくってのもねえ。外にはもう、知り合いはほとんどいないしさ」
ララは宝石を一つつまんだ。
「てか、めんどくさい」
『おばあちゃんみたい』
とポポが笑ったものだから、ララはポポの背中を強く殴った。
おばあちゃんて。
子供すらいないのに。
「ポポもあんまりふらふらしてないで、さっさとお嫁さん見つけな」
と、話を逸らすララ。
ララはポポの旅の目的の一つがそれであること知っている。
「棲む所なら、ワタシのとこに山がいっぱいあるからさ。どれでもあげるよ」
『……まあ、頑張る』
ポポはうなだれた。
実は仲間探しも花嫁探しも、あまり上手くいっていないのだ。
特にプラトーの一族とは仲が悪く、見つかるたびに多数の雄竜に追いかけまわされる。
仲間に入れてもらいたいポポにとっては辛いことだ。
「頑張れよー。見てるヤツは見てるんだから」
『うん……』
「プラトーとかいいじゃん。でかくて見栄えもするし」
『殺されかねない』
「殺されないよう頑張るんだろー」
『いや。好かれるよう、頑張るべきだと思うんだけど』
その言葉を聞き、ララは「にひひ」と笑った。
「じゃ、プラトーに決まりね。好かれるように頑張るんだよ」
『えぇ!?』
「大丈夫。絶対いけるって!」
実は、プラトーはポポに気があるのだ。
気があるだけでなく『原種』であるポポの血を一族のために欲しがってもいる。
そのことを知っているララは、楽天的かつ無責任に応援した。