16 モンスターの仕事。(2)
『うわ……結構散らかってるね。枯葉とか、誰も掃除しないもんなあ』
山を越えて王国側の神殿に着くなり、オコジョがそう言った。
ブリッグズ神殿と呼ばれるこの神殿は、王国側でララリウム信仰が禁止されてから廃れること甚だしい。かつては無数の大理石で作られた荘厳な神殿だったのだが、今ではあちこちが風化して山の風景に埋もれていた。
「これは……人間の服だね」
ララは枯葉に埋もれていた布切れを拾い上げて言った。
なんでこんなものが落ちてるんだろう?
よく見るとあちこちに白骨が散乱している。
「モンスターでも棲みついたかな」
『すごい数の死体だよ。きっとたくさん棲みついてるんだ』
「あ、宝石見っけ」
ララは小さな水晶が付いたペンダントを見つけた。
「ぽりぽり――ついでに大掃除でもするかな」
『それよりは、棲んでるモンスターに宝石を探させたらいいんじゃない? これだけの死体を一つ一つ調べるのは疲れるよ』
「かしこーい」
オコジョを褒めつつ、ララはぷらぷらと神殿の入口へと歩いていく。
その時――
『GYAAaaaaaaa!』
空気を震わせるほどの大音量で、竜の咆哮が響いた。
叫び声は、神殿の中から。
『ちょ……! 棲みついたの、よりにもよって竜なの!? これじゃさすがにララでも……』
「違うよ!」
怯えるオコジョの言葉を遮って、ララは走り出した。
「この声は、ポポだ!」
▽
「ポポー! 久しぶりー!」
『あれ……? ララ? なんで、こんなとこにいる?』
神殿に入るなり、ララはホールの奥に横に寝そべっている大きな竜を見つけた。
硬く滑らかな鱗と、まるで金属のような光沢を放つ尻尾。
そして巨体は闇に良く馴染む黒。
割と最強系な竜型モンスターのポポカリスだ。
「でっかくなっちゃってー!」
『いや。前からこの大きさだよ』
とポポは言うが、実は違う。
ポポはララが以前飼っていた栗鼠が魔力過多と原型改変を起こして突然変異したものだ。
今は、ララの元を離れて暮らしている。
厳密に言えばもはや栗鼠でもまして竜でもないポポは、自分を受け入れてくれる仲間を求め大陸中を旅していた。
ララはポポに走り寄って、鼻先の冷たい鱗に抱きついた。
「久しぶりじゃーん!」
『一年位前にも、会ったよな? あれ? もっと昔だっけ?』
「なんで? なんでここにいるの? 家に来たらよかったじゃん!!」
ララはポポの話を聞かずに言った。
『行こうと思ってた。けど、ずっと飛んでたから――』
言いながらポポはララをやさしく押し返す。
ララが離れるとポポは顔を上げ、巨体を起こした。
『お腹減って。ここで人間食べてた』
「あ、ここにある死体って、そうなんだねえ」
『散らかした』
「いいっていいって。誰か掃除するよ、多分」
ララはポポを見上げる。
「じゃ、家に来る? それともどっか狩りに行こうか」
『訪ねて行って、食い散らかすのは良くない。街まで、狩りに行こう』
「うひ、久しぶりだなあ。背中乗せて」
『わかった』
ポポはバキバキと音を立てながら四本の太い足で立ち上がり、それから前足の翼を何度か振った。
「でけー」
『もう栗鼠じゃない』
ポポは喉を鳴らして答える。
離れていてもララはポポの主なので、感心されたり褒められたりするとくすぐったいのだ。
と、ポポは何かを見つけた。
『あれ? そいつ、なんだ?』
ララの傍に何か小さい生き物がいるのに気がついたポポは、ララに尋ねる。
「あ、これ?」
『ちょ、ララ! 尻尾掴まないで!』
ブランと宙吊りにされたオコジョは悲鳴を上げる。
『あー、はは。はじめまして?』
『? おまえ、誰だ?』
『えーっと。ララと一緒に暮らしてる、小動物です』
『――ララ。オレの代わりに、こんなのと暮らしてるのか?』
不機嫌そうにポポはララに訊く。
「代わり?」
ララは首をかしげた。
『……。ララ、オレ、お腹減った。それ頂戴』
「いいよ」
『えぇ!? ちょっ、ララ! 冗談でし――』
ぽい。
ぱく。
ばりばり。
「おいしい?」
『美味しいけど、小さい。足りない』
「なら、早速狩りに行こう!!」
ララは元気よく言った。
ほのぼの系?