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14 小さな冒険者。(4)


 エアが小屋を出て、居間にはララとリュンナだけが残る。

 オコジョはエアについて行った。


「リュンナ、エアにちゃんと言っておいてよ。山に冒険者を沢山連れてくるんだ」


 ララの言葉を聞き、リュンナは小さくため息をついた。


 ララの言うことはわかる。

 山に宝石がない今の状態では、ララを倒しにやってくる冒険者たちの持つ宝石がララ唯一の食事だ。エアには彼らをララの元まで連れてくるという役目を期待したのだろうし、そのためにエアを助けたのだろう。

 ただ、それならそういう風にエアに接しなければならなかった。


 例えば、ララに対する復讐心なり憎しみがエアの心でくすぶるように。


 しかしララのしたことは真逆だ。

 必死に慣れない世話をしたし、エアを助けるために『使い魔契約』まで行使した。 

 それこそがララの本性なのだが、しかし気まぐれと言えばそれまでだ。

 はたしてエアがどう受け取ったか。

 実際に、ある種の心変わりをしてしまったようでもある。


「ララ様――エアは、奴隷出身のようです」

「ん?」

「エアの世話をしていて気がつきました。背中に奴隷の焼き印があります」


 背中を拭いてやっている時、リュンナはそれに気がついた。

 エアがどうしても見せるのを嫌がり、リュンナが察してからは誰にも言わないでくれと頼まれたものだ。

 しかしララだけは知るべきである。


「おそらくエアの魔法の才能が、冒険者に買われたのでしょう」


 エアがどのように扱われたかと想像するだけでリュンナはエアへの哀れさが募って泣きそうになる。

 焼き印の他にもエアの体には無数の傷があった。同年代に比べ、エアはやせ細っている様にも見える。

 あれほど小さいのに、一体どれだけの苦労を重ねてきたのか。女の子であるエアはきっと、死んだ方がマシだというような目にも遭わされたに違いない。


 そんなエアがララのような絶対強者に慈しむように扱われたのだから、急な心変りもなんとなく理解できるというものだ。


「ふーん」


 と、リュンナの言葉にララは何の感慨も感じない返事をした。

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。冒険者だよ。もっと言えば、宝石だよ」

「――ララ様、エアをリュンナに預からせてくださいな。エアはまだ小さく、処世の術を身につけなければララ様のご期待に添える様な働きは出来ないでしょう。私が教育し、きっとララ様が満足いくように育てますから」

「――」


 ララは黙った。


「10年、お待ちいただけませんか。その間の宝石は何とか手配します。なのでエアに関しては気長にお待ちいただけませんか」

「……で?」


 ララはリュンナを睨みつけた。

 すさまじいプレッシャーだが、リュンナはそれがすぐに過ぎ去ることがわかっている。ララをなだめる方法は幾つも心得ているし、そもそもララの怒りは性格的に長続きしないのだ。


「待ってれば、絶対にエアは冒険者を連れてくるの? ワタシが待つだけの価値があるの?」

「ええ、必ず。――例えるなら、エアは金剛石ダイヤモンドの原石です。待っていただけるなら、綺麗に磨き上げて見せます。お預けを喰らったと言うより、好物の宝石をあとあとまで取って置いていると考えてください」

「おおー。じゃ、いいよ」


 笑いながらララは言った。


金剛石ダイヤモンドは大好物だよ。持ってるだけでうれしくなる」  

「たとえ、ですからね。エアを食べる様な事はしないでくださいね」


 ララの笑みに、リュンナは冷や汗を掻きながら言った。




 ▽




『エア。そんな気落ちしないでよ』

 

 リュンナを待っている間、エアは小屋の階段に腰掛けて落ち込んでいた。

 隣にちょこんと座っているオコジョが、エアの顔を窺いながら言ってくる。


「君はいいよ。ララの傍にいられるんだもん」

『まあね。同じ穴のムジナだから、その気持ちはわかるよ』

「オコジョでしょ」

『まあ、あいつらよりはキュートだよね。ボク』



 使い魔契約は、使い魔を縛る。


 例えば、人間が行使する使い魔契約の多くは、使い魔が主に絶対に逆らわないよう強制力のある『服従の呪い』が含まれている。

 契約の恩恵によって意思疎通が出来るようになるとはいえ、異種族を使役することにどうしても恐怖があるからだろう。それは例え、存在の『格』が劣っていたとしても変わらない。


 しかし、ララが行使したものは人間の魔法とは性質が異なった。


 ララに異種族に対する恐怖心があるはずがないし、ララに反抗できる存在などほとんど無いからだ。

 まあ、一番大きな理由は人間の魔法の様式など知ったこっちゃないということだったが、それはエアにはわからない。 


 ともあれ、


 ララが使い魔を縛るのものは『愛情』に似ていた。

 何か、優しく大きなモノに包まれているという安心感。

 離れると『切なさ』と『親しみ』、そして『不安』が募る。



「もしかして、ララに嫌われてるのかな?」

『そんなことないさ。ララは気まぐれなんだよ』


 オコジョが髭を揺らしながら言った。


『それに振り回されるのが、ボクらの仕事さ。ボクらだけの特権、って考えればいい』

「特権?」

『そう。――感じるでしょ? ララとのつながりが』


 エアは胸に手を当てた。

 かつては感じたことのない、ともすれば暴れさせてしまいそうなほどの魔力の奔流を感じ取ることが出来る。

 眠っている内にララから受け取ったものだ。


『どこにいても、どんなに離れても、ボクらは繋がっているのさ。ボクらだけが、こんなにも繋がっている』

「……」

『頑張りなよ。ララのために、遠くに離れていないと出来ないことがきっとある。それは多分、ボクには出来ないことなんだ』


 オコジョが言った。

 その言葉には、エアにはまだわからない感情が込められていた。


 なんとなく、近くにいる辛さもあるのだ、とエアは思った。


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