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1 山のモンスター。(1)

 

 大陸を南北で分断するようにそびえる山々。

 帝国は『北嶺山脈』と呼び、王国は『天壁ブリッグズ』と呼ぶ山脈のどこかに、あるモンスターが住み着いている。


 最強系ヒト型モンスター『ララリウム』


 太古の昔から山に棲む暴君として、周辺諸国にその名前を轟かせていた。



 ララリウム自身は序列では言えば『精霊』に属する存在ではあったが、人間は自分たちを害するなら総じてモンスターと呼び、厳密な区分にはこだわらない。

 中でも強力な「モンスター」であるララリウムは帝国や王国が正式に討伐軍を組織するほどの存在だった。

 個体でそれほどまでに危険視されるのは、『冥主』スカルン、『魔王』ハイドア、『水棲霊獣王』レーヴァティン、『神代竜』プルトー、『古精』ララリウムくらいである。

 


 とはいえ、ララリウム本人にはあまり関係がない。

 人間社会とは隔絶した場所に住んでいるし、そもそも興味がない。第一そんな話は聞いたことがなかった。

 人間たちが自身で作り上げたララリウムの幻想におびえる中(もっとも、勝手な幻想と言うわけではないのだが)、今日も今日とてララリウムは日々の糧を求めて山々を歩きまわっている。




 ▽




「ここも、大分少なくなったなあ」


 北嶺山脈――あるいは天壁ブリッグズのとある山。

 そのある場所を流れる涸れ川の川底にしゃがみ込みながら、ララは言った。

 半日探し回りやっと見つけたのが、土に汚れた石英クォーツ一つ。宝石を食べるララにとってはかなりみすぼらしい成果である。


 ララ――ララリウムは、ヒト型の精霊だ。



 精霊はこの世界に満ちる『マナ』と、生命の『アーキタイプ』によって形作られる。

 マナとは『マナ』の総称であり、アーキタイプとは全ての『原型アーキタイプ』である。

 単一属性マナの集合体に偶発的に生命のアーキタイプが加わることで精霊が生まれる。

 マナとアーキタイプの組み合わせで妖精や竜が発生し、そうやって生まれたものを『原種オリジン』と呼ぶ。

 

 ララもそうやって発生した精霊であり、人間の、それも女性のアーキタイプが元になっているのでその外見は女性に近い。

 ただ『人間』発生以降、進化という選別を経て洗練化され現在に至っている人間とは違って、精霊であるララはアーキタイプをそのまま反映していた。

 似ているのはシルエットだけで、細部と中身は似ていない。

 古くは女神と呼ばれた理由であり、今はモンスターと呼ばれている理由だった。



『でも、近くの川の宝石は全部取りつくしちゃったよ』


 ララの隣に寝そべっていたオコジョが言った。

 これはララが山を散歩しているときに拾ったもので、真っ白で柔らかな毛並みの小動物だ。名前はないらしいので、ララは種族名の『オコジョ』と呼んでいる。


「今日のご飯はこれだけかー。……どうしよう」 

『地面を掘ってみれば?』

「やだよ。食い意地はってるみたいじゃん」

『じゃあ、どうするの』


 オコジョはそう訊いてきたが、ララにもわからない。

 わからないまま、先ほど見つけた石英クォーツを齧った。


『いっつも思うんだけど、よくそんなの食べるよね』

「美味しいのに、石。これは美味しくないけど」


 ララの主食は鉱物で、主には宝石だ。

 宝石はマナをとどめる性質があるので、体がマナそのもので出来ているララにとって不可欠なエネルギー源である。


「あーあ。3週間連続で石英クォーツだよ。久しぶりに水晶クリスタル食べたい」


 ポリポリ。


紫水晶アメシストとか、食べたいなあ」

『ララが食べ尽くしたんじゃん』

黄水晶シトリンとか、もうずっと食べてないよ。ごちそうだよ」

『それもララが食べつくした。だから今そんなのしか食べられないんでしょ』


 ガリガリ……。


「ぺっ、まっず」


 ララは食べていた石英クォーツを吐き出し、まだ残っていたものも捨てた。


 宝石といっても貯め込むマナの量と質に違いがあり、それがララの好みを分ける。

 重量が多いほど貯め込む量も多いのだが、宝石の種類と純度によって貯め込むマナの質は変わってくる。綺麗な結晶なら単一マナを取り込むし、不純物が混じれば属性を帯びたマナ――これは魔力と呼ばれる――を取り込む。

 体が単一マナで構成されているララは当然結晶状の宝石を好み、不純物が多く混じった、例えば石英クォーツの原石そのものなどは好きじゃない。


「混じりものの石英クォーツとか、もう食べてらんない――街に行こう」

『はあ!?』

「宝石がないのは、人間のせいだよ。人間が山を掘り返して、宝石とかを集めてるんだ」

『そうなの?』


 たしかに人間はそういったことをしていた。

 ただ最近は、この山では見かけない。

 なぜならララがいるからだ。

 なのでこの山に宝石がないのはララが長い時間をかけて食べつくした所為なのだが、自分ではそう思っていなかった。

 ララにしてみれば山には無限の宝石があるように思えていたし、その無限の宝石が無いということは無くなってしまうような途方もない原因があるのだ。

 人間が宝石を集めていることを知識として知っていたララは、その原因がつまり人間だと思い込んだ。

 

『――で? 街に行って、どうするのさ?』

「人間に貰おう。街に行って、いっぱい持ってる人に分けてもらう」

『えー? 集めてるんだよ? 分けてくれるの?』

「くれなきゃ殺す。そんで採る」

『……ちなみに言うけど、ボクは持ってないから。持ってたら真っ先にララに渡してるし』

 

 そう言ったオコジョにララは頷き、平たい形状のベルトのような器官――ヒラヒラの触手だ――を伸ばした。

 オコジョを器用に掴み、自分の首に巻く。


『ぐええ……』

「あったか」

『優しく! 優しくして! 全力で包むから! 全力で包むから優しく扱って!』

「うるっさいマフラーだなぁ。捨てるよ」

『いっそ捨てて!』

「――と思ったけど、代わりのヤツがないから我慢しよう。どうにもうるさくなったら、尻尾を引きちぎって黙らせるかもしれない」

『……』


 オコジョが黙る。

 ララはそれに満足して、山を下り始めた。

 人間が持っているだろう宝石の事を想像しながら。


「よだれ出てきた」

『食いしん坊』


ほのぼの系を目指します。

落ち込んでいるときなんかに、楽しんでいただけたら幸いです。


ちなみに不定期投稿。

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