第4話「で、どうやって落とすの?」
「で、どうやって落とすの?」
翌日の昼休み。
莉央にそう聞かれて、美玲は箸を止めた。
「どうやってって?」
莉央が呆れたように言う。
「昨日、宣言したじゃん。絶対落とすって」
「言ったわよ」
「だから、何するの?」
美玲は少し考えた。
男の人を振り向かせる。
今まで、そんなことを考えたことがなかった。
告白されたことは何度もある。
連絡先を聞かれたことも。
遊びに誘われたことも。
でも、自分から誰かを振り向かせようとしたことは――。
「……デート?」
「なんで疑問形なの」
「だって、まずデートするんじゃないの?」
「まあ、普通はそうかもね」
「じゃあデートね」
美玲はあっさり決めた。
「海斗と?」
「他に誰がいるのよ」
「誘うの?」
「うん」
「断られそう」
「なんでよ」
「昨日あれだけ喧嘩してたから」
美玲はふん、と鼻を鳴らした。
「誘ってみなきゃ分かんないでしょ」
「すごい自信」
「だってデートよ?」
美玲は自分を指さした。
「私と」
「はいはい」
「何よ、その反応」
そのとき。
「何の話?」
声に振り向くと、朔が立っていた。
その隣には海斗もいる。
ちょうどいい。
美玲は立ち上がった。
「海斗、私とデートしよ」
一瞬。
海斗が黙った。
莉央も朔も黙っている。
美玲は少し首を傾げる。
「ね?」
普段より少しだけ声を甘くする。
ついでに、にっこり笑ってみた。
海斗はそんな美玲を数秒見た。
「嫌だ」
「えー!」
美玲の声が食堂に響いた。
「行かないの?」
「なんで行くと思ったんだよ」
「私とデートよ?」
「だから何」
「普通、行くでしょ!」
「行かない」
即答だった。
美玲は海斗を睨む。
「ほんっと可愛くないわね」
「お前に言われたくない」
「私は可愛いわよ!」
「そういう意味じゃねえよ」
隣で莉央が笑いを堪えている。
「ちょっと莉央。笑わないでよ」
「だって……」
莉央が口元を押さえる。
「本当に断られた」
「まだ終わってないわよ」
美玲はもう一度、海斗を見る。
二人きりが嫌なら――。
「あ、じゃあ四人でデートは?」
「は?」
今度は海斗だけではなく、朔まで声を出した。
「四人で?」
「そう」
美玲は莉央と朔を指さした。
「私と海斗と、莉央と朔」
「それ、デートなの?」
朔が笑う。
「ダブルデート」
「誰と誰がカップルなのよ」
莉央が言う。
「そんなのどうでもいいじゃん」
「よくないと思うけど」
「私はいいよ」
「え?」
今度は美玲が莉央を見る。
莉央は楽しそうに笑った。
「四人で遊ぶんでしょ? 面白そうじゃん」
「でしょ?」
美玲はすぐに朔を見る。
「朔は?」
「俺もいいよ」
「ほら!」
三人の視線が、最後の一人に集まった。
海斗が嫌そうな顔をする。
「……なんで俺まで」
「グループの親睦会も兼ねて」
莉央が言う。
「昨日組んだばっかりだろ」
「だからじゃん」
朔も頷く。
「課題もこれから一緒にやるんだし、いいんじゃない?」
海斗は黙った。
美玲はじっと海斗を見る。
「三対一ね」
「多数決で決めることじゃないだろ」
「じゃあ決まり」
「まだ行くって言ってない」
「行かないの?」
「……」
「莉央も朔も行くって」
「……分かったよ」
美玲の顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
「四人だからな」
「分かってるわよ」
美玲は満足して椅子に座った。
まずは一歩。
デートにさえ連れ出せれば、こっちのものだ。
「で、どこ行く?」
莉央がスマホを取り出す。
「映画とか?」
「四人で映画って、喋れなくない?」
朔が言う。
「じゃあ水族館?」
「いいね」
「待って」
美玲が口を挟む。
「もっとデートっぽいところがいい」
海斗が眉を寄せる。
「親睦会じゃなかったのかよ」
「親睦を深めるデートよ」
「意味分かんねえ」
「遊園地は?」
莉央の一言に、美玲が振り向いた。
「遊園地?」
「四人なら楽しそうじゃない?」
「いいじゃん」
朔も乗ってくる。
「俺、久しぶりに行きたい」
美玲は少し考える。
遊園地。
一緒に歩いて。
乗り物に乗って。
ご飯を食べて。
――いかにもデートっぽい。
「それにする!」
「決定早いな」
海斗が言う。
「海斗は何乗りたい?」
「別に何でも」
「じゃあジェットコースターね」
「なんでそうなる」
「観覧車も乗ろう」
「勝手に決めんな」
「あと、お化け屋敷!」
その瞬間。
美玲の声が、ほんの少しだけ止まった。
「……お化け屋敷?」
莉央が美玲を見る。
「美玲、苦手だっけ?」
「別に」
「今、間があったけど」
「ないわよ」
「怖いんだ?」
「怖くない!」
美玲は即答した。
作り物のお化けなんて、怖いわけがない。
――たぶん。
「じゃあ決まりね」
莉央が笑う。
「今度の休み、四人で遊園地」
「楽しみだね」
朔も笑っている。
海斗だけが、面倒くさそうにため息をついた。
美玲はそんな海斗を見る。
興味がない。
昨日、そう言った。
だったら。
その言葉を撤回させればいい。
遊園地から帰る頃には、少しくらい自分を意識しているかもしれない。
美玲は小さく笑った。
――絶対、私を撮りたいって言わせるんだから。




