甲羅を背負った女
恋の記憶はいつも自分の都合の良いように書き換えられる
第一話【甲羅を背負った女】
最近は四六時中、ずっとコタツに入っている。
パソコン、コーヒー、ティッシュ、ノート、ペン。ぜんぶ手の届く範囲に置いて、ぬくぬく寝転がって。お腹すいたなぁ、て思っても外寒いし・・・。
コピーいかなきゃ、でも外寒いし。掃除しなきゃ、明日にしよう。
あたたかい足先は次第にラグと一体化し、なめくじみたいにべっちょりと溶け、赤いコタツ布団は身体にピッタリとはりつき、髪の毛の先まで真っ赤に染めていく。
机は固くて頑丈な甲羅。もし雨が降っても首を引っ込めれば大丈夫。
さぁ。
べっちょりした身体を引きずり、のろのろと進む先は、あなたが収容されているケイサツショ。
第二話【カレが捕まった】
「殴ったら、警察呼ぶわよ」
思いのほか読みが 大当たり!
110番を押し、カレが逮捕された。
「右ストレートの衝撃ってこんな感じなんだ」
ボクサーでもない女は
ここがリング上かと錯覚するぐらいに
真っ直ぐにそのパンチを頬にうけた。
少しの意識の中でタオルを掲げるかの如く
冷静な判断で通報した。
あの日から女はとてつもなく重いものを背負っている。
留置所から届く手紙には謝罪の言葉が連なり、通報した自分が悪人になったようで、それはそれは後悔しかない。
いや、でもDVしたカレが悪いんだけど・・・
ノロノロと進める道中、春一番に追い抜かされ、
ジメジメとした季節を過ぎれば、初夏の香りにカレが居なくなった夜を重ねる。
コタツの中では、ダラダラと汗がしたたり。
あの日の冷や汗、ケンカの原因。とにかく会いたい。
檻から出してあげたい。
だから
「面会にきました。」
第三話【真実】
「面会にきました。」
「その方なら3年ほど前・・・すぐに釈放されましたよ」
婦人警官が眉一つ動かさず、無愛想に答えた。
3年前の夏・・確かカレに好きな人が出来たって。
別れる?それなら、とカレにナイフをつきつけたんだっけ。私。
やめろ!と殴りかかってきたカレ。
右ストレートを受けて転がったナイフ。
110するワタシ。
警察に手を引かれたカレは
「これでおあいこな」って。
ズルいなぁ。
謝罪と共に「愛してるから取り下げてほしい」と綴られた手紙。
やっぱりズルいなぁ。
固く、がんじがらめに繋がれた鎖。
「いつになったらアナタから釈放されるの?」
そう呟くと、女は自らコタツを背負い直し
のろのろと、もと来た檻へと帰っていった。




