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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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短編

有能令嬢ですが、真実の愛(物理!)には勝てませんでした。

作者: マンムート
掲載日:2026/05/11


 昔。昔。あるところにラブという王太子がおりました。



 金髪の見事な髪はキューティクルでキラキラしていたし、青い目は美しかったのですが、頭は空っぽでした。


 もちろん他も空っぽ。


 顔以外何のとりえもありませんでした。


 王太子という地位に魅力を感じる方もいらっしゃるでしょうが、その王家の財政は火の車。



 このままでは無能な一粒種が継いだら、いや、継ぐ前に破産。


 破産した王家なんて、どうしようもありません。



 そこで、王様は、有能な伯爵令嬢ユーノーをラブの嫁に指名。


 ユーノーは、噂通りの有能さで、王家の財政はもりもりと回復していきました。



 ラブとユーノーのあいだには、なんの愛も生まれませんでしたが、政略とはそういうものです。



 ですが。


 ラブは、ある日、舞踏会で、男爵令嬢ロマンと会ってしまったのです。


 ロマンは、ピンク髪の庇護欲モリモリ爆上げするタイプの少女。


 それまでは、男をひっかけて上昇する志向ばかりが強い女だったのですが。



 ふたりは一目見て、びびっと来てしまったのです。


「あの人が!」


「あの人が!」


 ふたりのあいだには視線が行き交い。


 そのあいだの空気までがキラキラときらめき放電しました。



 ラブとロマンは悟りました。


「「これぞ真実の愛!」」



 破滅的な災難の始まりでした。



 周りが何も見えなくなったふたりは。


「ああ、ロマン」


「ああ……ラブ様」


 最初はおずおずと。


 ですが一ヶ月も経たないうちに大胆に、人前もはばからず、桃色の空気に包まれるようになりました。


「ああ、愛しいロマン! キミと会えない時間は永遠みたいにつらいよ!」


「ああ、わたしの運命の方! 会えない時間は世界から色が全て消え失せるようです!」


 まわりが、ひきつった笑いを浮かべざるをえないほどのあまったるいオーラがふたりの周りには充満していました。



 当然。


 ふたりの関係は、あっというまに話題になってしまいます。



 ですが、有能とは程遠いがまともである王家は、ラブとユーノーの婚約解消を認めません。


 ユーノーの実家も、王様が首を縦にふらなければ、婚約解消など認めることができるはずもありません。


 ユーノー本人も、ラブには何も期待していなかったので精神的にはノーダメージ。


 それどころか、ロマンが愛妾になるなら、自分は子作りから解放されて大助かり。


 そもそも彼女には、お花畑にかまけている暇はなく、王宮の財政再建計画の進捗、諸外国との外交案件、貿易協定、果ては夜会用のテーブルクロスの柄の指定まで、王国の隅から隅までの目配りで大忙し。


 ぶっちゃけ、ユーノー=王国だったのです。



 そのあいだにも。


「ああ、ロマン! ドレスを着ているキミも美しいが、なにも着ていないキミもうつくしい!」


「ああ、ラブ様。わたしの唯一! あなたもどんな姿をしていても、美しいです!」


 と、いくところまでいって。


 その先は、めくるめく18禁の世界を大展開してしまうのです。


 いったん歯止めがはずれてしまえば若さゆえのお盛んさ。


 庭園で、生け垣の陰で、舞踏会の控室で、互いの寝所で、毎日毎日大運動会となってしまいました!



 いろいろと多方面に燃え上がった炎は、ふたりの心身を燃やし大炎上してしまいます。



 ついには。


 ある夜会で大花火がうちあがったのです!


「伯爵令嬢ユーノー! お前との婚約は破棄する! ボクはここにいる男爵令嬢ロマンとの真実の愛に生きる!」


「ユーノー様! わたしとラブ様のあいだには真実の愛があるのです! お許しください!」


 という典型的な婚約破棄騒動になってしまいました。



 真実の愛(笑)ですよね。



「わかりました。ラブ様がそう仰るなら、私は従います」


 と、ユーノーはあっさりと言うと、婚約締結時に用意されていた書類にサイン。


 一応は3年続いた婚約で、「ああ、やっと終わった」などと思うところはありましたけど、それを見事に押し隠し。



 笑いも泣きもせず、さっさと退出していきました。



 彼女は知っていたのです。


 なんせ彼女の実家である伯爵家には、「我が家の娘の婚約相手が真実の愛に落ちた時、国は亡びる」という予言があったのですから。



 もちろん真実の愛のふたりは、激しく熱く見つめあうばかりで、去っていくユーノーを気にもせず。


「ああ、ロマン! これでボクらは結婚できる! こんなしあわせなことはない!」


「ああ、ラブ様! うれしいです! このためにわたしは生まれて来た気がします!」


 周りの軽蔑のまなざしも。


 その先にある滅びの予感も。


 眼中にあるはずがなかったのです。



 お花畑どころか山も野原も全て花だらけのラブとロマンは知りもしなかったし、気に掛けもしなかったのですが。


 あの書類には、めちゃくちゃすごい違約金が書いてあったのです。


 回復し始めていたとはいえ、それでもちょーっと黒字が出た程度の王家がまとめて1ダースはふっとぶ金額でした。



 ラブとロマンのふたりは、すぐさま、王宮に召喚され、手に手をとって王様の御前にまかりこさせられると、当然ながら、王様から雷が落ちました。


「ラブ! お前はなんということをしてくれたんだ!」


 王宮に残っているのは、王様ただ一人でもぬけのから。


 なんと王家の使用人は、ユーノーの実家が雇っていたので全員辞めてしまったのです。


 そのうえ、彼女が差配していた事業や下していた判断は全部ストップ。



 このままでは王家はおしまい。


 というかすでに終わっていたのが、無理やりな延命措置で生きていたようなもの。


 いやいや、死体をヒモで操って動かしていた、というほうが的確。




 ですが、激しく燃え上がり愛し合うふたりは、全く堪えません。


「大丈夫です父上! ボクとロマンの間には真実の愛があるのです!」


「そうです陛下! わたしとラブ様の間には、真実の愛があるんですもの!」


「ああ、ロマン! いとしいひと!」


「ああ、ラブ様! わたしの運命の人!」


 熱く視線を絡め合うふたりのあいだには、またも濃厚なピンクの雲が湧き出してきます!



 ぶちん、という派手な音とともに、王様はキレキレにおキレになって、


「なら、その真実の愛とやらで、仕事を片付けて見ろ!」


 ふたりは書斎へ放り込まれました!


 ですが。ラブもロマンも書類仕事には無縁!


 当然ながら、書類も帳簿もなんにもわかりません。



 ああ、もう遅い! ざまぁ!



「おお! ロマン! わかるぞ!」


「ああ、ラブ様! わたしもわかります! 数字さん達が楽しそうにしているのが」


 お花畑の彼らの目には、書類に並んだ細かい文字や記号や数字が、優雅なワルツを踊っているように見えたのです。


 そのなんという美しさ! 妙なる調べ!


「きれいだ……そうか、帳簿とか書類の世界は、こんなにもうつくしかったのか」


「ああ、ラブ様。みんな真実の愛のおかげですね……」


「ああ、ロマン。もうボクらは結婚してるも同じなのだから、ラブと呼んでくれ」


「ああ、ラブ! ああラブ! なんてステキな響きでしょうか!」



 湧き出すピンクの雲は、ぴかぴかと光り、ふたりを愛の賛歌で祝福します。



「おお、見えるかいロマン! ボクには見える! 文字や数字や記号が何を求めているか全てが!」


「ああ、ラブ! わたしも見えます! 彼らが喜ぶにはどうしたらいいか! 伝わってきます!」


 なんと!


 数字さんや文字さんや記号さんを喜ばせるように書くだけで。


 まばたきするより早く書類仕事は終ってしまったのです。


「これもあれも、みんな愛だ!」


「ああ、世界には愛があふれているんですね!」


「「ああ、これが真実の愛の力」」



 父である王様は驚愕。


「ば、ばかな! ししし真実の愛で書類が片付くはずが……か、片付いてる!」


 泡吹いて卒倒しましたとさ。



 こうしてあっさりとユーノーがしていた書類仕事を片付けてしまった彼らですが。


 真実の愛の試練はまだ続きます。


 莫大な賠償金や、各方面の支払いはまったなしなのですから!



 もう遅い! ざまぁ!



「おお! ロマン! わかるぞ! 全てが祝福してくれてるのが!」


「ああ、ラブ! わたしもわかりますわ! 世界が喜んでくれているのが!」


「お金がなければ!」


「喜びと祝福を素直に受け取ればいいんですね!」


 ふたりが、ピンクの雲の中へ手を伸ばすと、そこからは金貨がざっくざく!


 そのうち、わざわざ掴まなくても、彼らが必要なだけ、いや、必要以上にざっくざく湧いてくるように!



 金貨はたちまち書斎をあふれ、廊下をあふれ、階段を流れ落ち、ふたりはそれに波乗りしながらワルツを踊ります。



「「ああ、これが真実の愛の力♪」」



 翌朝。


 金貨を山のように積んだ馬車がつらなって、ユーノーの伯爵家へと向かいます。


 あまりの金貨の多さに、馬車が揺れる度にあちこちからこぼれて。ちゃりんちゃりん。


 貧民、市民、農民、庶民が一枚でも拾おうと群がって、お祭りのような行列となりました。




 近づく馬車の音は、ユーノーの実家にも届きます。


「あら、予想より早かったですね」


「おそらく陛下自ら謝りにきたのだろう。陛下はバカではないからな」


「ということはおふたりは」


「廃太子のうえで、除籍、断種、修道院か鉱山か娼館行きだろう」


「ですが、再婚約などはいたしませんよ」


「当たり前だ。こぼれた水は返らん」


 と、話し合っていた伯爵親娘だったのですが。



「約束通り、違約金を払いに来た!」


「全額、いえ、迷惑料としてその3倍を払います!」



 ピンクの輝く雲に包まれたラブとロマンと。


 金貨がびっしりと詰まった箱が、玄関ホールに所狭しと並べられているのを見て、口をあんぶりしてしまいました。



「ば、ばかな」


「こんなお金……王家にあるはずが。どんなアコギな金貸しだってあそこには金を貸すはずがないのに……さては贋金ですか! それ以外考えられません!」


 ユーノーは、ちらばる金貨を一枚拾って鑑定してみたけれど、まごうことなき本物なのです。


 何枚鑑定しても鑑定しても、すべて本物。


 ユーノーの震える指先から、金貨がぽろりと落ちました。


「あ、ありえない……」


 ひざから崩れ落ちるユーノーに、真実の愛のふたりは高らかに告げるのでした。


「「これぞ真実の愛の力!」」



 王家が賠償金全額を伯爵家に払い込んだという話に王都中は驚愕!


 しかも、ただ単に払ったのではなく、即日かつ3倍返し!


 いやそれどころか、金貨の数を数えるだけで、伯爵家の奉公人が全員がかりで三日経ってもまだ終わらないという始末。



 ざまぁというのは成功すればこそざまぁ。


 婚約破棄返しも相手が破滅するからこその盛り上がるもの。


 もう遅いも同様です。



 あっさりと返されてしまっては立つ瀬がありません。



 王家、いや、ラブとロマンの真実の愛の評判は、


「これぞ本当の真実の愛!」


「真実の愛は実在したのか!」


「なんという物理!」


 とうなぎ上り。


 一方、ユーノーの伯爵家は「真実の愛にあっけなく敗れた惨めな令嬢の家」として、社交界での立場をあっさりと失い。


 一週間たたぬうちに、全財産をもって隣国へ逃走するはめになってしまいました。



 一月後、ラブは戴冠式!


 同時にラブとロマンは盛大な結婚式!


 大聖堂での、結婚式!


 王都中の人々が出席し、いくらでも食事も酒もでるという歴史に残る大結婚式!、


「ふたりは愛を」


「「永遠の真実の愛を誓います!」」


 王都は一週間に渡る祝祭に包まれました!


 もちろんその一切の手配を滞りなくしたのは、ラブとロマン。


 しかも、用意もしていないのに、青空には花が舞い、白いハトが無数に飛び交い、麒麟やユニコーンまでが現れてそこらじゅうを走り回るという浮かれまくりの祝祭!


「「これが真実の愛の力だ!」」



 はっぴーえんど!



 とはなりません。


 話はこれで終わっていなかったのです。



 金はもっているけれど、すっかり名声を喪ったユーノーの一族が辿り着いた隣国で。


「ユーノー嬢。貴女の仕事はすべて見ていた。数字の向こうに貴女がいたのを」


 マジメなイケメンが、ユーノー嬢に大接近してきたのです。


 隣国は強大な帝国。


 イケメンはその皇太子、デキル皇太子だったのです!


「わたしの仕事を見ていた方が……」


 今まで報われていなかったユーノー嬢が、ころりとほだされるのもムリはありません。



 イケメンはユーノーに、ずばり断言します。


「真実の愛(笑)などまやかし。どんなカラクリがあるか、暴いてしまいましょう」


「そうですね。書類も数字もウソはつきません。まやかしは必ず痕跡を残すもの」


「貴女とわたしとで」


「必ずや」



 ユーノー嬢は、帝国の財政顧問として雇われ、たちまち頭角を現します。


 皇太子の庇護のもと、次々と全てを効率化し、人事を改め、停滞を打破。



 ただでさえ強大な帝国はますます強大に!



 なるはずでした。



「なぜだ! なぜ、王国からこんなにも大量の金が!」


「そ、それが、無尽蔵に湧き出してくるそうで……」


 ユーノーの母国は、ラブとロマンの真実の愛の力で無尽蔵に湧き出してくる金の力で、帝国や周辺諸国の事業を次々と買収していきます。


 それであふれかえった金貨で、周辺諸国は狂乱インフレにおちいりました。


 ですが、ラブとロマンにはインフレなんかわかりません。


「ああ、ロマン! ボクはこの真実の愛のすばらしさを全ての人々にわけあたえたい!」


「ああラブ! わたしもそう思っておりました」


「「真実の愛の力で、税金はただ!」」



 税金がただとなれば、大陸中の民が、ラブとロマンの王国へ殺到。


 しかも、金があふれかえって大陸中の国がめちゃんこなインフレしてるから人の流れが加速するばかり!



 ですが、それを冷ややかな目で見ている者がふたり。


 彼らには、ラブとロマンに待ち受ける、落とし穴がしっかりと見えていたのです。


 王宮の一角で、ほくそえむのは、デキル皇太子とユーノー嬢でした。


「ふ。真実の愛(笑)とやらもこれまでだな……いくら、金が溢れていても、それでモノが買えなければ民は飢えて死ぬ」


「その強大な力故に、真実の愛(笑)は墓穴を掘ってしまいましたね」


「キミの提言のおかげで、我が帝国は物々交換経済に切り替えたから最小限の被害で済んだ」


「殿下が陛下を動かしたおかげです」


「食べられなくなった民草が、真実の愛(笑)とやらをいつまでほめそやすのか」


「我々は暴くまでもなく、見ているだけでいいですね」


「真実の愛(笑)のおかげで、帝国以外の経済は壊滅する。そのあと王者として乗り込めばいい」


「大陸は、平和裏に、帝国のものになるでしょう」


 皇太子とユーノーは、にんまりと笑いあいました。



 ですが、そうやって笑っているふたりを傍から見ると、物語の悪役令嬢と悪人の顔になっていました。


 でも、勝てばいいのです。勝てば。



 もう遅い! 華麗なるざまぁ炸裂。



 実際ラブとユーノーは大ピンチでした。


 ふたりが真実の愛の力で、素晴らしい勢いかつ正確さで書類を書き上げ続けても。


 尽きることなく金貨を湧き出させ続けても。


 ひとのお腹は、書類と金貨では満たせないのですから。



 ふたりだけの寝室で、


「ああ、ロマン! ボクらの愛の力はここまでなのか! インフレとか知らなかった!」


 がっくりと膝をつくラブ。


「ああ、ラブ! しっかりして! わたしたちの愛はこんなものでないわ! 真実の愛なんですもの!」


 それを後ろから抱きしめてなぐさめるロマン。


 もちろんふたりは全裸!


 全裸は『真実の愛』のフォーマルウェアですからね。


「「真実の愛の力、充填!」」 


 ラブは、がばり、と起き上がり、ロマンをひしと抱きしめて、


「そうだな! 今、ちらとでも疑いかけたボクを力いっぱい殴ってくれ! そうでなければ、ボクはキミとの愛に罪悪感をひきずってしまう!」


「そんな! ラブ! あなたを殴るなんてできないわ! それに、わたしも、ちょっとだけ真実の愛を疑いそうになってしまったもの! 同罪よ!」


「ああ、ロマン! なんて愛しい人! 絶対に離さないよ!」


「ああ、ラブ様! わたしたちは最後まで真実の愛に生きるのよ!」


 18禁するふたり!



 ですが、状況は日に日に悪化していきます


 王国では、民草に対する食料の割り当ては日を追うごとに少なくなるばかり。


 不満が溜まりにたまった時を見透かして、帝国はデキル皇太子とユーノーの計略を発動します。



 日々の食に飢えた人々に食料を大放出!


 そして『人の腹を満たせない真実の愛は、真実と言えるのか!?』という宣伝文句をばらまきます。


 お腹を満たせない愛よりも、お腹を満たせる計画が上と、人々の流れが逆流をはじめました。



 王国にはからっぽの愛しかない!


 帝国へ行けばパンがある!


 人々は金貨を道端に捨てて身軽になって、草木もなびくよ帝国へ!


 一旦は崩壊しかけていた帝国は立ち直り、その軍隊がついに牙を剥く時が来たのです。



 逆に、真実の愛に頼り切っていた王国の運命は風前の灯でした。


 経済はインフレで崩壊、愛以外何ももたない役立たずへの憎しみが燃え上がり始めます。



 やはり、最後は真実の愛のいつわりに有能が勝つ!



 はずでした。



 ですが、帝国軍が準備万端整えて迎えた秋。


 いよいよ宣戦布告した翌週。


 ラブとロマンがいる国は、真実の愛の力で、豊作につぐ大豊作! 


 荒地では種もまいていないのに、そこもまた大豊作!


 それどころか、建物の屋根や、道、城壁までもが豊かな実りに覆われます!


 川と海には魚が溢れ、廃鉱山からさえも鉱物資源がざっくざく。


 あふれるほど流れ込んで来る人々を養ってなおあまりある豊かさがてんこもりです。


 そして、全ての穀物や魚には、ちいさなハートマークが刻まれていたのです。


「「これぞ真実の愛の恵み!」」



 ラブとロマンの国は、果てしなき大繁栄をむかえたのです!



 それにひきかえ周りの国は疫病や不作で疲弊。


 さらに追い打ちで、備蓄食料は大量に湧いたネズミに喰われ、あるいはどこにでも生えるカビが大繁殖して消滅。


 しかも。


 ラブとロマンの国以外の全てを食べ尽くそうとするネズミたちの背中には、もれなくピンクのハートマークが。全てを腐らせていくカビは、ハート型の模様で辺りを埋め尽くしていくのです。


「「これが真実の愛の底力だ!」」


 

「ばかな!」


「ありえません!」


 と歯噛みするデキル皇太子とユーノーでしたが、帝国は急速に傾いてしまいます。


 ふたりの計略のために食料備蓄を放出したうえに、大軍を整えたため、国庫は空っぽ。


 物々交換経済さえも崩壊してしまったのです。


 集結していた軍隊も、突然出現したハート形の沼地に阻まれ進撃が停止していた間に、給金が払えなくなり、食料も配れず、暴動を起こした末に崩壊してしまったとさ。



 食わせられない有能なら、食わせてくれる真実の愛のほうがいいと、人はなびくよ愛の国へ!



 皇宮に務めていた人間達ですら、王国の豊かさに引き寄せられ、哀れ帝国はほぼ無人。


 取り残されたユーノーとデキル皇太子は。たった二人。


 人がいなくなり、ハートマーク付きのネズミがそこらじゅうで駆けまわる広大な王宮で、呆然とするばかりでした。



「なぜだ……真実の愛(笑)になんの裏もないなんてありえない……」


 帝国の総力をあげて、真実の愛のからくりを調査してはいたのです。


 なのに、ラブとロマンの間には真実の愛以外なにもなかったのです。


 最終手段として暗殺も試みたのですが、真実の愛のピンクの雲が、どんな刃も銃弾も止めてしまうのです。


 毒すらも、ふたりにとっては「ちょっとスパイシーな飲み物」にしかなりません。



 しかも暗殺者の9割は、ラブとロマンの『真実の愛』に感動して、全自白してしまう始末でした。



「わからない……わたしたちが判らないなんて……あの予言はなんだったの……」


 デキル皇太子は、ついに、あははあはは、と笑い続けるようになり、最後には城壁から身を投げてしまい。


 最後の言葉は、


「ネズミを食べるのには飽きたんだ!」でした。


 ユーノー嬢は、ゆくあてもなく皇宮からでていってしまいました。


 ネズミ以外のものが食べたかったのかもしれません。


 ふたりの姿が皇宮から消えてすぐ。



 帝国は、しごくあっさりとラブとロマンの王国に併合されてしまいました。


 なんせ無人だったので。


 しかも併合された途端、荒れ果てていた国の全ての場所で大豊作!


 一夜にしてネズミもカビも消え!


 産業はみるみるうちに復興!


 帝国が併合されると、無人となっていた他の国も、全て併合。



 こうして大陸はあっけなく統一されてしまったのです。


 いたるところに、ラブとロマンの真実の愛の像が乱立!


 町中に愛の賛歌が流れ、ラブとロマンのポスターが張られ、空の雲は全てハートのかたちでピンク。


 あっちにもラブとロマン! こっちにもラブとロマン!




「ああ、ロマン! 世界で一番いとしいひと! これでみんなしあわせだね!」


「ええラブ! わたし達の愛は、すべてをしあわせにする愛!」


「「これが真実の愛の力!」」



 もはやラブとロマンの真実の愛の力を知らないものはいなくなりましたとさ。




 大陸の有力者が全て集まり開催された議会で。


 ふたりは、満場一致で、大陸統一帝国の皇帝とそのお妃に指名されたのでした。


「「ここに! 真実の愛の真実の愛による真実の愛のための国を建国する!」」



 史上空前の大帝国が成立したのです!



 ラブとロマンは、亡くなるまでずっとずーっとしあわせで。


 国民も、野も山も海も空もみんなしあわせ。



 ふたりが亡くなると同時に、天からまばゆい光がふりそそぎ、ふたりは死から目覚め、互いを見つめてうっとりとほほえみあい、イチャイチャと抱き合いながら天へのぼっていきました。



「この者らの愛。まこと、まっこと真実の愛である!」


 という神々しい声と共に……。



 ふたりの真実の愛は、永遠に語り継がれることになったのです。



 めでたしめでたし。




      ※      ※     ※     ※



「でも、ばあちゃん。おれ、そんな像みたことないんだけど」


 貧しくやせ衰えた畑から、小指の先くらいしかない芋を掘り返していた子供が問えば。


 やせ衰え、這いつくばるようにして芋を集めていた老女が。

 

「ああそれはね。お騒がせなラブとロマンのふたりが同時に亡くなっちまった途端。金も像もぜーんぶ消えちまったのさ」


「ええっ!?」


「しかも、大豊作も大豊漁も大産出もみんなパー。真実の愛が生みだしたもんは全部パー。あとには貧しく疲れ切った大地と海が残るばかり。たちまち大帝国は大崩壊」


「そうか……結局、予言通りになっちゃたんだ……」


「そういうこった」


「だから、みんな貧しいんだ……」


「そうさ……わかったろう? 真実の愛なんて、思い込みならロクでもないし、ほんとうでも……ロクでもないものなのさ。ただ」


「ただ?」



 年老いた女、かつての伯爵令嬢ユーノーは、どこか遠い目をしてつぶやきました。



「そんな計算さえも吹き飛ばす愛ってやつを……一度くらいは経験してみたかったね……」




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
ラスト平民になったユーノーと皇帝の孫かな。 真実の愛で本人達は幸せでも存命中だけの特殊能力なら子孫や親戚も巻き添えだしやっぱろくなもんでないような。
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