第080話 あ、中止ですね
イレーネと受付で待っていると、女将さんがダリアと共に戻ってくる。
「お疲れ様です」
ダリアも苦笑いだ。
「すごい雨になったな」
「ええ。幸い、買い付けは午前中で済んだのですが、商業ギルドにいたので大変でしたよ」
砂糖は買ったらしい。
「俺達は森だったからひどい目に遭った」
「お疲れ様です」
ホントにな。
主にリーエだけど。
「それで明日なんだが……」
「行ける?」
俺達は外を見る。
勢いはまったく落ちていない。
「明日になってみないとわかりませんね。通り雨なら良いんですけど」
気象には詳しくないが、停滞前線だったらヤバいな。
「じゃあ、明日の朝、状況を見て、話し合う?」
「そうですね……まずキャラバンが出るかどうかです。その辺は商業ギルドに相談してみます。多少の雨なら行くんですけど、最悪は道がぬかるみ、馬車の足を取られて、立ち往生してしまうことです」
それは確かに嫌だな。
「じゃあ、明日な」
「あ、夕食を一緒に食べませんか? その時までに雨が弱まっているかもしれませんし」
それもそうだな。
「じゃあ、16時半か?」
「はい。それでまた相談しましょう」
「わかった」
俺達は2階に上がり、部屋に入ると、暖炉に当たりながらソファーに腰かける。
すると、寝巻き姿のリーエが風呂場から出てきた。
「お先です。イレーネさんとヴェルナー様もどうぞ。あ、服と外套は暖炉の前で乾かしますので置いておいてください」
いつもの無表情リーエだ。
さっきまでのあわわリーエの姿はない。
「イレーネ、先に入ってくれ」
「うん。ありがと」
イレーネがリーエの代わりに風呂場に向かった。
リーエは外套と自分の服を暖炉の前に干していく。
「すっきりしたか?」
「ええ。雨の日は外に出るもんじゃないですね。あ、ダリアさんは?」
「とりあえず、雨の状況を見ようってことになった。16時半に一緒に夕食だ」
「今は15時半ですか……1時間もあれば乾きますね」
寝巻きで1階に下りるわけにはいかないからな。
主にイレーネだけど。
そのまま暖炉に当たりながら待っていると、イレーネが上がってきたので俺もシャワーを浴びる。
外套を羽織っていたとはいえ、冷たい雨に当たっていたので温かいシャワーが心地良かった。
そして、風呂から上がると、服を暖炉の前に置き、イレーネの隣に腰かける。
「全然、止む気配がないわね」
雨は衰えておらず、今も窓に雨が当たり、かなりの音がしていた。
「これ、雨が止んでも無理じゃないか?」
「そんな気がするわね……道がダメそう」
うーん……
焚火の前で温まりながら待っていると、時間になったので乾いた服に着替え、1階に下りる。
すると、ダリアが待っていたので一緒に夕食を食べることにした。
「止みませんね……」
ダリアが外を見て、つぶやいたので俺達も見るが、雨は止むどころかまったく勢いが落ちていない。
「これ、マズくないか?」
「災害が起きそうよね……」
「女将さん、この町の近くに川はありますか?」
リーエが受付で頬杖をついている女将さんに聞く。
「あるけど、この町はちょっと高いところにあるから水害は大丈夫だよ。ただ、道は難しいかもね。あんたらは南部のグラードに行くんだろ? そこに行くには山越えだからねぇ……」
山……
「ちょっと厳しい気がしますね……」
「うーん……何もなければ良いんだけど」
どうだろ……
「ダリア、どうする?」
「明日の出発予定は6時です。明日の朝、ギルドに確認してきます。それで行けるなら行きましょう。ダメなら翌日ですね」
仕方がないか。
天災はどうしようもない。
「わかった。俺達も早起きして、準備をしておく」
「お願いします」
ダリアが微妙な顔で頷く。
すると、入口の扉が開く音がした。
「ひどい目に遭ったよー。うえーん」
知ってる声だなと思って、振り向くと濡れた2人の男女が入ってきた。
ベッキーと教授である。
「よう」
「あ、ヴェルナーさん一家だ」
「ん? あー、君達もいたのか」
教授がそう言って、眼鏡を拭く。
「いつ来たんだよ?」
「さっきです。昨日の朝にラティルナを出たんですけど、この雨のせいでひどい目に遭っちゃいましたよ」
俺達と一日遅れで出たのか。
「お疲れさん」
「大変だったわね」
「早くシャワーを浴びた方が良いですよ」
こいつら、外套も持ってないようでびしょ濡れだ。
「そうするー、女将さん、個室を2部屋おねがーい」
「わかったからちょっと待ってな。タオルを持ってくる」
女将さんが奥に引っ込んでいった。
「教授、この雨をどう思う? 明日、ここを出て、グラードに行こうと思っているんだが」
詳しそうな人に聞いてみる。
「気象の専門というわけではないんだがね……でもまあ、明日は無理だろう。たとえ今すぐに雨が止んでもこれだけ降った後の山越えは危険すぎる。君らが勝手に行く分は知らないが、キャラバンを組織している商業ギルドはまず行かないな」
そうじゃないかなーと思っていた。
「やっぱりダメか」
「土砂崩れが怖い。土砂崩れというのは簡単に言うと、土砂に水が含まれることにより重くなったことで起きる現象だ。雨が止もうと水がすぐになくなるわけじゃないから非常に危険なのだ。あの道は整備されているし、そんなに険しくないが、まあ、無理だな。もう商業ギルドでもそういう結論が出ていてもおかしくない。もし、私のところに相談に来たら『死にたいなら行け』と答える。そのレベルだ」
ダメだ。
「ダリア、無理そうだわ。どこぞの教授さんがこう言っている」
「すみません。ちょっとこれから商業ギルドに行ってみます。商業ギルドがどういう結論出すのかはまだわかりませんが、どちらにせよ、私達はキャンセルです。明日は様子を見ましょう」
それが良さそうだ。
「頼むわ」
「はい。先生、ありがとうございます」
ダリアが教授に礼を言う。
「見解を言ったに過ぎん。商業ギルドが悩んでいるようならさっきの言葉を伝えろ。責任問題になるし、上層部の何人かは首が飛ぶ」
これでキャラバンの中止も決定だ。
商業ギルドもこれで出すバカじゃないだろう。
「わかりました」
ダリアは夕食を食べると、一度、部屋に戻り、宿屋から出ていった。
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