第005話 逢引きみたいです
「魔法と言われてもね……やはり冒険者かしら?」
冒険者?
「何だそれ?」
「あなた達の世界がどうかはわからないけど、この世界には魔物がいるのよ。そういうのを倒したりする何でも屋ってところね」
「ハンターか。ウチの世界もいた。素材を取ってきてくれるパシリだ」
「ね? ポンコツでしょ? 第一声で職業差別です」
わ、悪かったよ。
「そんなつもりはない。いつも感謝している」
ありがとう、ハンターの人達。
でも、ちゃんと採取しろ。
やり方が下手くそすぎるんだよ。
頼むから指示通りに動いてくれ。
「あなた達の関係性がわかってきたわ」
「ご主人様想いの従順ホムンクルスです」
リーエが得意の無表情ダブルピースをする。
「セシリア、俺達にその冒険者をやれってことか?」
話を戻す。
「ええ。それが一番手っ取り早いと思う。魔法が得意なら魔物も倒せるでしょ?」
「まあ、どのぐらい強いのかはわからんが、問題ないだろうな」
俺はただのデスクワーカーじゃないのだ。
戦闘用の魔法も使えるし、10代の苦労人時代は戦場にだって出たことがある。
というか、そこで功を作り、王都のエリート街道に乗ったのだ。
「リーエ、どう思う?」
「良いと思います。そういうのをして、日銭を稼ぎながらこの世界のことを勉強していきましょう。今後のことはそれからです」
ふむ……それが良さそうだな。
「セシリア、冒険者はどうすればなれるんだ?」
「冒険者ギルドに行って、登録すれば良いだけよ。犯罪者でもない限り、誰でもなれるわ」
「じゃあ、ヴェルナー様はダメですね」
誰が犯罪者だ。
「まだこの世界では不法侵入だけだ」
「女性の屋敷ですよ? アウトでは?」
アウトだな。
しかし、被害者がいないのだからセーフだ。
「セシリアもオラースも人間ができているからそういうことはしない。これはちょっとした事故なんだ」
「しないけど……」
ほら。
「よし。そういうわけでギルドにでも行ってくるか。ついでに町を見てこよう」
そう言って立ち上がる。
「ちょっと待って」
セシリアも立ち上がり、止めてきた。
「何だ?」
「ちょっと来てちょうだい」
セシリアがそう言って、窓の方に向かったのでリーエと共についていく。
そして、窓の外を覗いたのだが、窓の方は先程の池があった方向とは逆のようで門があった。
しかも、槍を持った兵士が2人おり、番をしていた。
「門番ですね。このまま出ると、ヴェルナー様が不審者として捕まってしまいます」
お前もな。
「あれがあるから出るならバレないように出てほしいわけ。私も都合的によろしくない」
貴族令嬢と密会する怪しい男だもんな。
セシリアの名に傷がつく。
「わかった。俺は第一級魔導士だし、あれくらいはどうにでもなる」
「殺さないでね」
「それこそ大問題になる。ちゃんと上手くやるから安心しろ」
「お願い。それとあなた達、今日はどこに泊まるの?」
どこ……
「金がないし、橋の下か?」
昨日まで無駄にでかいベッドで寝ていた俺が……
「甲斐性のないご主人様」
昨日まで俺よりでかいベッドで寝ていたくせに。
「仕方がないだろ。太陽の位置から見てももう昼は過ぎている。今日で宿代を稼ぐのは厳しい」
地動説だよね?
「まあ、そうですね。賢い女は甲斐性がなくなった男を捨てますが、忠義の臣は自分の上着を主にかけるものです」
はいはい。
「待ちなさい。王都は治安が良いけど、今の時期は冷えるわ。1泊くらいなら泊めてあげるわよ」
ほう?
「さすがにそれは気が引ける。セシリアは未婚の女性だろう」
「そうですよ。ヴェルナー様は紳士な方なので何かをするということはありませんが、やはり良くないと思います」
うむ。
紳士と書いてチキンって聞こえたぞ。
「バレなきゃいいのよ。それに私も異世界の話が聞きたいわ。こんな機会ないもの」
頻繁にあったら困るがな。
「リーエ、どう思う?」
「こう言っておられるわけですし、お言葉に甘えては? せっかくのご厚意ですし」
ふーむ……
「すまない。お言葉に甘えてもいいだろうか。リーエは身体が弱くてな」
「ごほっ、ごほっ」
「そんなしょうもない猿芝居はいいわよ。その子、めちゃくちゃ強そうじゃないの」
まあ、ホムンクルスだし。
「感謝する。この恩は必ず返そう」
「ありがとうございます」
「別に一泊くらい構わないわ。それと町を見てくるのはいいけど、ギルドは翌日以降が良いと思うわよ。もう15時を過ぎているし、人が多くなるから」
セシリアが壁にかけられている時計を見た。
確かに15時のようだ。
「わかった。1、2時間で帰ると思う」
「目立ったり、問題を起こすのだけは避けてちょうだいね」
「わかっている。じゃあ、行ってくる」
俺達はオラースと共に部屋を出ると、1階に下りた。
「ヴェルナー殿、門番はどうやって突破されるのですか?」
オラースが聞いてくる。
「まあ、こういうのはシンプルな魔法が良いだろう。ミスディレクションだ」
「ミス……失礼。どういうものでしょう?」
「認識をずらす魔法だな。例えば目の前にものすごく美人でスタイルの良い女性があられもない姿でいたとすると、その横にいる何の特徴もない男性は意識に入らないだろ? そういう感じで認識を誤魔化すんだ。まず見破られないし、普通に歩いても注目もされない。透明人間になるようなものだ」
まあ、これも術者の力量で強弱があるのだが。
「なるほど。言いたいことはわかりました。そういう魔法があるのですね?」
「ああ。それで外に出てくる」
「わかりました。お気を付けて」
俺達は池のある裏口から外に出る。
そして、魔法を使うと、表に回り、何食わぬ顔で門を抜けた。
当然、兵士達は俺とリーエに気付くこともなかった。
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