第037話 泥棒気分です
「高いですね」
「下を見てみ? 何も見えないぞ」
真っ暗なのだ。
「こういう時に下を見てはいけません。上です」
「怖いのか?」
「そんなわけないでしょう。海なら怖いですけど、このくらいなら落下しても死にません」
へー……その割には俺の服を掴んでるぞ。
「あと少しだ。頑張れ」
「恐くないって言ってるじゃないですか」
はいはい。
俺達は数分かけて上昇すると、崖上までやってきたのでそーっと覗いてみた。
すると、目の前には塀があり、屋敷からは見えなかったので登り切る。
「ふう……ちょっと怖かったな」
「ちょっとだけですけどね」
やっぱり。
「この塀の向こうが屋敷だな」
「ええ。2メートルもありません。転落防止用の塀でしょう」
何もなかったら危ないもんな。
「魔力は?」
「感じません。そーっと覗いてみますか」
「そーっとだぞ」
俺達はフライを使ってちょっとだけ上昇し、敷地の中を覗いてみる。
すると、屋敷の灯りはすべて消えていたし、庭にも特に人影はなかった。
「いませんね」
「ここまで人が来ることを想定していないのかもな」
「ここまで来たら防衛的にはアウトですもんね。行きますか?」
「ああ。あそこの窓まで行くぞ」
屋敷の1階に窓が見えている。
「わかりました」
俺達は一気に上昇し、塀を越えると、庭に降り立ち、走って屋敷まで向かう。
そして、屋敷までやってくると、窓の下でしゃがむ。
「中は?」
「見てみます」
リーエが窓から中を覗く。
その間に俺は周囲の観察だ。
「どうだ?」
「応接室のようです。中には誰もいません」
「鍵は?」
「かかっています」
まあ、さすがにそれはするか。
「開けたら警報が鳴る魔道具とかないよな?」
「どうでしょう……でも、魔力は感じません」
じゃあ、大丈夫だ。
「鍵の仕組みは?」
「中からかけるタイプのものです。簡単な仕組みです」
だったら魔法で開けられるな。
内から力をかけて、鍵を回せばいいだけだ。
「よし。開けろ」
「はい……開きました」
リーエが窓を開けたのでフライの魔法で中に入る。
「魔力は感じないか」
「そのようですね」
リーエも中に入ってきて、窓を閉めた。
「ここは1階か。イレーネはどこだ?」
「捕らわれの女性は最上階と相場が決まっております」
まあ、そんな気はする。
少なくとも、あいつの膨大な魔力を感じないし、1階にはいないだろうな。
「5階建てだったか……中から行くか? 外から行くか?」
「外からフライで上がると目立ちます。兵士がどこにいるかわかりませんが、少なくとも、坂にはいますし、屋敷の敷地に入る門にもいると思います。そこから見える可能性が高いかと」
中の方が安全か。
「よし、階段を探すぞ」
「了解です」
俺達は扉の方まで行くと、魔力を探る。
「何も感じないよな?」
「怖いのは魔力を持ってない人が兵士になっていることですよね」
ないこともないんだよな。
夕方に港で見た演習帰りの兵士達の中にも魔力を持ってない者はいた。
「静かに仕留めるぞ」
「わかりました」
俺達はそーっと扉を開けると、外を覗く。
部屋の外は廊下のようで右の方に続いていた。
「いないな?」
「ええ」
「よし、行くぞ」
俺達は廊下に出ると、慎重に進んでいく。
すると、前方から微弱だが、魔力を感じた。
しかも、足音が聞こえている。
『リーエ、どっかに入るぞ!』
『はい』
俺達は念話で話し、近くにあった扉を音を出さずに開け、中に入った。
そして、息を殺して、扉に耳をやる。
コツコツという音が聞こえたのだが、この部屋を通り過ぎていった。
『俺達が来た方向に行った。行き止まりだからすぐに戻ってくるぞ』
『え、ええ……ヴェルナー様、絶対に反応せずに部屋の中を見てください』
そう言われたので扉から離れ、部屋の中を見る。
『おー……』
思わず反応しそうになった。
理由はこの部屋にはベッドがあり、そこには若い女性がスヤスヤと寝ていたからだ。
しかも、壁にはメイド服がかけられている。
『イレーネじゃないな』
『この屋敷のメイドさんでしょう。起きていたら危なかったですね』
魔力を持っていない女性のようでまったくわからなかった。
『客観的に見て、俺達は不審者以外の何者でもないな』
『主に男性のヴェルナー様ですね。兵士が行ったら早めに出ましょう』
俺達は息を殺して、その場で待つ。
すると、左の方に行った兵士が戻ってきて、またこの部屋の前を通っていった。
『また来るんじゃないか?』
巡回するルートが決まっているかもしれない。
『その可能性もありますね。いっそ眠らせますか。殺したらいけませんよ。見つかったら騒ぎになります』
寝ていたらまあ、そこまでの騒ぎにならないか。
貧血で倒れたと思ってくれるかもしれないし。
『よし』
俺達はそーっと、扉を開け、外に出る。
右の方に俺達に背を向けて歩いている兵士の姿が見えたのでそーっと近づいていた。
『私が魔法を使います』
『任せた』
『スリープ!』
リーエが魔法を使うと、兵士がガクッと崩れ落ちそうになったので慌てて支える。
そして、音が出ないようにゆっくりとうつ伏せに寝かせた。
『見事だ』
『パーフェクトホムンクルスなのです!』
はいはい。
可愛い、可愛い。
『行くぞ』
『はい』
俺達はさらに廊下を進んでいく。
すると、上がり階段を見つけた。
『やっぱり上か?』
『だと思います。捕らわれのお姫様云々は置いておいても逃げた前科があるイレーネさんは上だと思います』
なるほど。
『行こう』
『そーっとですよ』
俺達は上を確認しながら慎重に階段を上っていった。
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