第035話 お姫様救出大作戦です
「どうやら商人さんのせいでミスディレクションの効果が弱まってしまったようですね」
「そのようだな。まあ、商人が悪いわけじゃないんだが」
イレーネは昔と比べると、髪が伸びたり、身体つきが成長しているから昔の知り合いに会っても大丈夫と言っていたが、まさか昨日の知り合いに会ってしまうとは……
「今後は考えた方が良いですね」
「ああ。少なくとも、この国にいる間は単独行動を避け、3人で固まっているべきだ」
そうすれば、さっきの商人もイレーネではなく、俺に声をかけていたし、兵士も俺と商人しか目に入らないからイレーネが見つかることはなかった。
「しかし、あのイレーネさんがあっさり捕まったんですね」
「話を聞く限りは手際がかなり良さそうだった。おそらく、父親の方から元Bランク冒険者のじゃじゃ馬って聞いているんだろ」
それにしてももっと暴れても良さそうだし、対処できそうなものだが。
「家出までしてますしね……あの商人さんは大丈夫ですか?」
口止めがいるかってことだな。
「物騒なことを言うな。それに大丈夫だよ。俺達が捕まったらあいつも共犯者って言う。向こうも同じだ。お互いにスルーしようってことだな」
「私達はスルーしませんけどね」
イレーネを救いに行くわけだからな。
「救った後ならいくら報告されても問題ない。もっとも、あいつにとってはメリットもないし、変に疑われるのも嫌だから軍や貴族にチクったりしないだろ」
変なトラブルに巻き込まれるだけだ。
それがわからない人間でもないだろう。
「それもそうですね。では、商人さんはスルーで」
「ああ。馬車に乗せてくれて、1万ソルもくれた恩人だ」
「わかりました。それでは缶詰を買いに行きましょう」
俺達も路地裏から出ると、奥にある缶詰を売っている店を探す。
すると、青い屋根の店を見つけたので中に入った。
中は様々な缶詰が棚に並んでおり、専門店のようだった。
「缶詰がいっぱいあるな」
「ちょっとわくわくしますね」
俺達は缶詰を見ていく。
「おい、オーク肉とかあるぞ」
「あれを食べるんですか。ちょっと勇気がいりますね」
しかも、1万ソルもする。
完全に珍味枠だろ。
「魚が多いような気がするな」
「港町ですからね。見ていて楽しいですが、残念ながら私達は貧乏人です。手頃なのを探しましょう」
「そうするか」
俺達は安い缶詰を探し、買い物かごに入れていく。
当然、珍しい缶詰なんかは高いので結局は鶏肉や豚肉、安い魚のオイル漬けや果物なんかになる。
「ダークドラゴンフィッシュを食べてみたいんだがな」
「3万ソルですよ? 舐めてます」
だから気になるんだがな。
「リーエは何が良い?」
「ヘブンバードです」
5万ソル……
「早く金持ちに戻りたいな」
「ええ。いつか珍しい缶詰パーティーでもしましょう」
そうするか。
トランプをしながらワインでも飲むとしよう。
俺達は安い缶詰を10日分くらい買い、店を出る。
「テントとか買うか?」
「今はやめておきましょう。買うとしてもイレーネさんに聞いてからの方が良いです」
俺達は魔道具のことを知らないし、そうした方が良いか。
「それもそうだな。じゃあ、準備は終わりだな」
「どこかで時間を潰しますか」
「そうするか」
俺達は町中を歩いていき、時間を潰す。
町を見て回ったり、魔道具を売っている店を見たりし、適当な広場とかにあるベンチに腰かけてひたすら時間が流れるのを待った。
そして、徐々に日が沈みだすタイミングで港の方に向かい、2人で海を見る。
「海ですね」
「キラキラしているな」
夕日によりキラキラと輝いている。
「ロマンチックです。イレーネさんと見れば仲がぐっと縮まりますよ」
良いかもな。
「イレーネもあそこから見てるんじゃないか?」
丘の上の屋敷ね。
さぞ眺めが良いのだろう。
「同じ景色でも全然違うように見えるでしょうね」
違うだろうな。
俺達がぼーっと海を見ていると、沖合にいる軍船が港に近づいてくる。
そして、次々と停泊すると、海兵達が降りてきた。
「やはり夕方で終わりのようだな」
「夜は暗いから危ないんでしょう」
兵士達は俺達の前を通っていき、町に帰っていく。
疲れた様子の兵もいれば、同僚と盛り上がっている兵士もおり、そこまでの緊張感はなかった。
「演習か」
「特別な任務といった感じではありませんでしたね。これから酒場にでも繰り出すんでしょうか?」
「かもな」
しかし、港を閉鎖しているし、町の人から反感を買いそうだな。
俺達は兵士が去った後も海を見続けた。
辺りが暗くなり始めると、窓口があった建物の明かりも落ちる。
そして、完全に暗くなった時には周囲から人の気配がなくなった。
「夜になれば人がまったくいなくなるな」
釣り人すらいない。
「暗いですし、好都合ですね。ただ、屋敷は明るいです」
この辺りはわずかな灯りしかなく、暗いのだが、屋敷の中は灯りがついているうえに建物の外にも灯りがあるようでかなり目立っている。
「おそらく、灯台の役割もあるんだろう」
「なるほど。自己顕示欲のためではないんですね」
いや、半分はそれだと思う。
もっとも、今の当主はそうじゃないかもしれないが。
「あそこから飛んで、ここに着陸しても目立たないよな?」
「ええ。これだけ暗いですし、人の気配もありません。まず目撃者はいないと思います。それにあそこから兵を出してもあの坂を下り、町を抜けないといけないのでかなりの時間がかかります」
よし。
「行くか」
「ええ。西の森に行きましょう」
俺達は立ち上がると、少し冷える港をあとにし、町に戻った。
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