第031話 はいはい
「ねえねえ、船って風で進むの?」
リーエが可愛い声を出しながら漁師に聞く。
「うん? そうだぞ。帆船は風の力を使って進むんだ。そんなことを知ってて偉いな」
強面の漁師が満面の笑みだ。
さすがは可愛いと評判のウチのホムンクルス。
「勉強した!」
「そうか、そうか。他にオールで漕いで進む櫂船とかあるんだぞ。といってもここにはないが……最近は魔導船が多くなったからな」
ほう?
「魔導船?」
リーエが可愛く首を傾げる。
可愛いと思うが、ちょっとわざとらしすぎないか?
「魔石を動力にした最新の船だよ。従来の船と違って、速度の管理や操縦が楽なんだ。ペダルを踏むだけで進むし、素人でも操縦できるんだよ」
良いことを聞いた。
車と同じと思えばいいわけだ。
「おじさんの船も?」
「いや、魔導船は高いからな。使ってるのは軍か商人だよ」
親切なおじさんの船を奪わなくて済んで良かったよ。
「リーエ、そろそろ行こう。邪魔をしたら悪い」
「うん」
「教えてくれて助かった」
漁師に礼を言う。
「いいってことよ。じゃあ、楽しんでくれ」
漁師が梯子を上っていったので俺達はさらに歩きながら船を観察していく。
「魔導船を狙いましょう」
リーエがいつもの無表情に戻った。
「そうだな。そこそこあるし、逃げた際に適当に選ぼう」
「ええ。足の確保の目途はつきましたね」
そうなるな。
「西の森に行ってみるか」
「ええ。ついでにお金でも貯めましょうか」
「ああ。もう5000ソルしかない」
宿代として2万ソルをイレーネに渡したのだ。
というか、イレーネの40万ソルは没収されてないよな?
「宿代にもなりませんね」
「飯代だけだな」
「悲しいことです。行きましょう」
「ああ」
俺達は港を離れると、逆の方向に向かう。
すると、道中にパン屋があったので昼食のパンを買った。
「ちょっと北の方を見てみませんか?」
ふむ……
「そうするか」
俺達は町の真ん中くらいで右に曲がる。
そして、そのまま歩いていくと、広場に出た。
「ほー……」
「すごいな……」
広場の奥には高い塀が左右にずーっと伸びているのだが、正面には門があり、そこから先は坂道となっている。
そして、その上に例の屋敷が見えているのだが、ここから見ると、本当に高い位置にあるし、坂もかなり急だった。
「あそこに屋敷を建てた人間は相当な自己顕示欲ですね」
「貴族だしな……」
俺は絶対に建てない。
「警備は万全ですね」
門の前には当然、門番がいるし、門も閉じられている。
広場にも兵士がいるうえに門から屋敷の間にも巡回をしている兵士が見えていた。
「イレーネがいるからか?」
「その可能性もありますね。しかし、あの巡回の兵士の仕事はしたくありません」
つまらないし、疲れる。
苦行そのものだな。
「俺なら2日で辞めそうだ」
「ですよね。西に行きますか」
「ああ。せっかくだから塀沿いに歩こう」
俺達は左の通りを進み、塀に沿って進んでいく。
「この辺は人通りが少ないですね」
「だな。まあ、端っこだし、そんなものだろ」
そのまま進んでいくと、塀が左に曲がるところまでやってきた。
おそらく、ここが町の北西の角だ。
「門が見えます」
左の方は通りになっており、遠目だが、門が見えた。
「だいたいわかった。俺達がこの町に入ったのは南の門。東が海で、北が領主の屋敷がある岩山、そして、あれが西の森に繋がる西門だな」
ようやくこの町と周辺の地理がわかった。
「行きますか。あとは屋敷の西側がどうなっているかです」
「ああ」
俺達は左に曲がり、門まで歩いていく。
そして、門まで来たのだが、門番の兵士がいるものの、特に止められることもなく、通り抜けることができた。
「検問も終わってますね」
「もう必要ないからな。もっとも、また始まるがな」
明日か明後日にでも。
「悪い魔法使いが攫いに行きますもんね」
「ナイト様がお姫様を救いに行くんだよ」
全然、違う。
「ヴェルナー様がご主人様で誇りに思いますね。さて、森ですね」
俺達の前方には森が広がっている。
森まで数百メートルは離れているが、左右がずーっと森になっていた。
ただ、右側には岩山がある。
「あっちだな」
「ええ。とはいえ、少し距離を取りませんと全貌が見えません」
「確かにな」
俺達は斜め右を進んでいく。
「魔物が出ますかね?」
「出てこないと困るな。そういえば、この世界に来て、初めての魔物との戦闘になるな」
俺が戦った相手は盗賊だけだ。
「というか、ヴェルナー様って魔物と戦ったことがあるんですか? いつも職場か家にいましたし、私を作られてから帝都の外に出ることなんてほとんどなかったですよね?」
そこまで上に行ったということだ。
手柄を立てれば立てるほど、功績を積み重ねれば積み重ねるほど、実戦や現場からは離れていくのが役職なのだ。
「魔物を倒したのは軍属だった時とその後に素材を採りに行った時以来だな。まあ、問題ない。敵の魔法使いや魔法対策をしている戦士の方がよっぽど恐ろしい」
人は考えて、戦う。
一方で魔物なんか力任せで何も考えていないから俺の力の前には赤子同然なのだ。
「では、稼ぎまくりますか。イレーネさんを救出したら御二人が好きなワインで乾杯してください。私は早めに寝ますので」
それは良いな。
また自慢話を聞かせてやろう。
エリケンドリヒの戦いで大賢者と呼ばれた爺さんを退けた話なんか秀逸だぞ。
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