第025話 好きになりましたね
待っていると、焼き魚定食がやってきたので食べだす。
魚は白身魚のようで淡白な味わいだが、脂が乗っており、非常に美味しい。
「美味しいです」
「良かったな」
「美味しいけど、ワインが欲しいわね。白い方」
確かにな。
「ワインも頼めない貧乏人で悪いな」
「私もよ。さっさと稼ぎたいわ」
俺達はしみじみ言いながら定食を食べると、店を出て、宿屋に戻る。
エントランスの食堂はいまだに騒がしかったので絡まれる前に階段を上がり、5号室に入った。
「アルベンの町の宿屋とそんなに変わらないですね」
ベッドが3つあり、テーブルもあるのは一緒だ。
ただ、ちょっと狭い。
「こんなものよ。値段もほぼ一緒だったでしょ」
「確かにそうですね。私としてはベッドがあるだけで満足なので文句は言いません」
「あなた、結構言うけどね。それよりもお風呂というかシャワーを浴びましょうよ」
それが良いな。
「イレーネ、先に入ってくれ」
「悪いわね」
イレーネが風呂場の方に向かった。
「ヴェルナー様、所持金はどうですか?」
「2万5000くらいだ」
「あと2泊か3泊くらいですか……」
「明日、出航できれば良いんだがな」
向こうに着いてからのことを考えると、余裕は本当にない。
「いっそ俺の剣を売るか?」
あんまり使わないし。
「それもやめた方が良いと思います。女性と子供連れですし、唯一の男性が剣を持っているか持っていないかは重要です。トラブル回避ですね」
それもそうか。
俺達が話をしていると、髪を下ろし、寝巻きに着替えたイレーネが出てくる。
「お先でした。あ、最後の人はまた乾燥機付き洗濯機のスイッチをよろしくー」
「ああ。リーエ、入ってこい」
「わかりました」
リーエが風呂場に向かうと、イレーネが席につく。
「ふう……やっぱり部屋の中は良いわね。落ち着くわ」
「そうだな。なあ、冒険者の時の仲間とかいないのか?」
「あー……たまに一緒になる人とかはいたわね。ただ、私自身はソロよ。大きい仕事とか、遠征で一緒になることがある程度よ」
ふーん……
「そんなものか。俺達の世界ではハンターと呼んでいたが、やはりパーティーを組んでいる人間が多かった気がするぞ」
「冒険者にも色んなスタンスがあるのよ。仲良しでパーティーを組んだり、人と関わるのが苦手だからソロだったりね」
「イレーネは人と関わるのが苦手ってことはないだろ」
陽キャだもん。
陰キャにも優しい一軍女子って感じ。
「自慢だけど、私は有望株だったから周りと足並みを揃えるのが難しかったりするの。そうなると、揉めたり、険悪になっちゃうのよ。適度な距離間で楽しくやっている方が良いわけ」
そういえば、二つ名持ちのBランクだったな。
「あと美人だからか?」
「そうそう。男女問題で揉めたりもするわね」
嬉しそうな顔をするな……
「そんなものか」
「まあ、パーティーを組む方が安定するけどね。あとこういう時に一人だとつまらないわ」
イレーネがトランプを取り出し、シャッフルする。
「貸してみ」
そう言って、手を出すと、イレーネがトランプを渡してくれたのでトランプに魔力を込める。
すると、トランプがバラバラに宙に浮き、不規則に動きだした。
「おー……! すごい!」
「これが魔法だ」
トランプは完璧にシャッフルされると、一枚ずつテーブルに重なっていった。
「本当にすごいわね……」
イレーネがトランプを取る。
「カードを見てみ?」
「んー……おー、揃っている!」
カードは1から順番になっているはずだ。
「すごいだろ。トランプを作ったけど、やる相手がいなかったからこういう遊びをしていたんだ」
家で……一人で……
「ふーん……ねえ、あなたって本当に友達とか親しい人がいないの?」
「いないな」
はっきりと頷ける。
「彼女とか良い人は?」
「いない」
「モテそうだけどねー……あなたって自信家じゃない? 自信があって、前を向いている男性に惹かれる女性って多いわよ」
そうなの?
「ふーん……まあ、その自信も魔法に関してだけだからな。俺という人間は魔法の才能という張りぼてで生きている愚者にすぎない」
「そんなことはないんじゃない?」
そうなんだなー。
「俺は誇れるものが何もなかった。頭も良くなかったし、運動も苦手だった。そして何よりも努力が嫌いだった。人付き合いも面倒としか思わなかったし、特に目標のない人生を送っていたわけだ」
「え? そうなの? エリートだったんでしょ」
それは今世の話。
今話しているのは思い出そうにもロクな思い出がない前世の話だ。
「そういうつまらない人間だったんだよ。ただ、ある日、転機が来た。自分に魔法の才能があるということを気付けたことだ」
今世の幼少期。
「それで?」
「俺はこれにすがった。自分で選んで空っぽの人生を歩んでいた俺だったが、それに満足したわけでもないし、何ならそんな自分が嫌いだった。だからこそ、魔法で一番を目指したんだ」
俺も元々は魔法のない世界の生まれだったから魔法が楽しかったのだ。
「それで勲章をいっぱいもらった大魔導士様になったんだ」
何も考えずにひたすら突き進んだらそうなった。
「ああ。俺は魔法に自信を持っているし、これを生きがいにしている。一方でその魔法がなければ空っぽな人間だ。リーエがいなければ朝起きることもできない。料理も洗濯もできない。お前と出会って数日だが、多分、リーエや死んだ家族以外で一番長く話している記録を更新しているな。俺の中で一番親しい人がイレーネだ」
それほどまでに人付き合いをしてこなかった。
人と仲良くなるのが好きじゃないから……いや、今ならわかる。
嫌われるのが怖いからだ。
ひたすらリスクを取らないようにしたら周りに誰もいなかったんだ。
「ふーん……良いんじゃない? 昔はそうでも今は人生を賭けてやりたいことがあるんでしょ? それは素晴らしいことだし、尊敬できることよ」
「あまり俺に優しくするな。好きになるだろ」
「好きなだけ好きになりなさいよ。それも仕方がないことだから」
イレーネが足を組み、キメ顔で髪を払った。
「……イレーネは目標とかないのか?」
「昔はAランクになることだった。数日前は逃げ出すことだった。今はどうかな……まあ、名前も変わったし、また考えるわ。あ、でも、魔法は教えてよ」
「そうだな。いくらでも教えてやるよ……風呂に行ってくる」
そう言って立ち上がると、風呂場に向かい、扉を開ける。
そして、すでに寝巻きに着替え、ニヤニヤして見上げているリーエを外に出し、風呂に入った。
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