第021話 負けられないのです!
「そういや宿屋のおっさんに何かあったって聞いたな」
「俺も聞いたよ。その関係だろうな。すまないが、ちょっと待ってくれ。検問自体はすぐなんだが、この数の馬車だとね……ぱぱっと動けないんだよ」
動かしているのは馬だからな。
「わかった」
頷くと、荷台に戻った。
「何だった?」
イレーネが聞いてくる。
「検問だとよ」
「そこまでするのね……大丈夫よね?」
「ミスディレクションがあるから問題ない。見られても男と女と子供がいるって思うだけだ」
「変に隠れようとしないでくださいね。意識されると効果が落ちますので」
堂々とするのが大事だ。
「わかったわ」
イレーネが頷くと、馬車が動き出した。
そして、ゆっくりと進んでいくと、馬車が止まる。
「来ますね」
リーエがそう言うと、商人と共に2人の兵士が荷台を覗いてきた。
「何か用か?」
「検問だ。3人か……」
「客だよ」
商人が答える。
「家族で海を見に行くんだよ。ウチの子は海を見たことがなくてな」
実際、リーエは海を見たことがない。
「そうか……荷は?」
兵士が商人に確認する。
「果物だよ。それを向こうで売って、魚を買って帰るんだ」
「ふむ……人が隠れられそうなところはなさそうだな……」
「大丈夫だろ。協力に感謝する。行ってくれ」
「どうも」
商人と兵士達が離れていく。
「本当にバレないのね……がっつり目が合ったのに」
「魔力のかけらも持ってない奴に俺やリーエの魔法を破れるわけがない」
「その通りです」
すごいんだぞ。
「あなた達、その気になれば世紀の大犯罪者にでもなれそうよね」
「英雄、英雄」
「勲章持ちですよ」
「そうね。あ、動き出した」
馬車が動き出し、門を抜けた。
そして、ゆっくりと街道を進んでいき、町から離れていく。
俺達の馬車の後ろに馬車がおり、列を成して進んでいた。
「キャラバンか……これだけ集まれば襲われにくいと考えるか、逆に襲われやすいと考えるか」
「平時なら問題ないのでは? これだけの数ですと、大盗賊団じゃないと無理ですよ」
戦時だったら良い獲物だな。
「怖いことを言わない。それよりも明日の夕方まで暇ね。ヴェルナー、自慢話でもしてよ」
「聞きたいなら聞かせてやろうと思うが、その前に魔力操作だ」
まずはそっち。
「大丈夫? 目立たない?」
「魔法を使うわけじゃないから大丈夫だ。それに馬車での旅だから身体を動かせないし、また魔力障害で苦しくなるぞ」
イレーネの魔力だと、定期的にやらないとすぐにきつくなるだろう。
「それは嫌ね。魔力操作ってどうやるの?」
「リーエ、教えてやれ」
リーエに投げる。
「お任せを。イレーネさん、魔力というのは体内にあるものです。魔法はこれを動かしたり、外に放出したりして発動します」
「なんとなくわかる」
ホントかね?
「ええ。イレーネさんは無意識とはいえ、強化魔法を使っておられます。大事なのは集中することです。森の中での歩き方を思い出してください」
「足を意識して歩いたら楽になったわね」
「同じ要領です。御自分の手を見てください」
リーエがそう言うと、イレーネが自分の右手を見る。
「意識してグーパーしてください」
イレーネが手を閉じたり、開いたりする。
「意識っていうのがよくわかんないんだけど……手をにぎにぎしてるだけだし」
「ご安心ください。ちゃんと動いております」
「わずかだが、動いているな」
微弱だが、確かに動いている。
「え? 本当?」
「ああ。リーエ、やはりイレーネは身体を動かす方向が良いと思う。それで魔力というものを認識させよう」
「それが良さそうですね。魔力は目に見えませんから慣れている方向でいきましょう。イレーネさん、トランプをしましょう」
リーエが俺が作ったトランプを取り出した。
なお、若い頃に前世の知識を思い出して作ったものだが、やる相手がおらず、作ってから10年後にホムンクルスと2人でやっているといういわくつきのものだ。
「トランプって?」
「カードゲームです。スピードをやりましょう」
なるほど。
手の速さと動体視力がものを言うゲームだから良いかもしれない。
「スピード?」
「ルールを説明しましょう」
リーエがゆっくりだが、実際にやって見せながら説明した。
「ふーん……楽しそう。暇つぶしには持って来いね」
なんとなくだが、イレーネが好きそうだと思う。
「では、やってみましょう。最初はゆっくりでいいですから意識してやってください」
2人がスピードを始めたのでそれを眺める。
言っていたように最初はゆっくりだが、徐々にスピードが上がっていくし、イレーネの魔力は手をにぎにぎしていた時よりも遥かに動いていた。
「イレーネ、良いぞ」
「え? そう? 負けちゃったけど?」
目的を忘れてる……
「魔力操作の方だ」
「あ、そっちか。動いてた?」
「ああ。集中するのが良いんだろうな。引き続き、頑張ってくれ」
「よし。もう一戦」
まあ、楽しみながらやるのが一番だろうな。
『リーエ、たまには負けてやれ』
『ホムンクルスに敗北はありません』
こいつも熱中している……
「ほどほどになー」
その後も2人はひたすらスピードをしていった。
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