第002話 ウチにもこんなお風呂があればなぁ……
視界が晴れると、さっきまでは夜だったのに昼間になっていた。
しかし、それはどうでもよく、なんか異様な浮遊感があった。
「あれ?」
「キャッ!」
俺達は宙に浮いていたようで落ちていく。
そして、水飛沫が舞い、とてつもなく冷たい水が俺達を襲った。
「み、水!? う、嘘だろ!? 俺、泳げないんだ!」
「私もです! 助けてー!」
「お、溺れるー!」
「誰かー! こら、離せ! 私だけでも助かるんだー!」
抱えているリーエが俺の顔を押してきた。
「本性が出たな、性悪ホムンクルス! そういう奴だと思ってたわ!」
「作った人に似たんですよ! それにさっき私だけでも逃がしてくれるって言ったじゃないですか!」
リーエが何とか俺を引き離そうとしている。
「いや、そこ、足付くわよ」
女性の声が聞こえたのではっとなり、俺とリーエが暴れるのを止める。
「普通に立てるな……」
「そのようですね……」
というか、ただの池のようだ。
水深は1メートルもない。
「寒いな……」
そうつぶやくと、リーエが岸まで歩いていく。
そして、陸に上がると、手を差し伸べてきた。
「ささ、ヴェルナー様」
ものすごい慈愛の笑みだ。
「ありがとうよ」
俺も岸まで行き、手を掴むと、池から出る。
「申し訳ございません。少し動揺したようです」
「それは俺もだ。すまなかったな」
急だったからびっくりして、お互いに思ってもいないことを言ってしまったようだ。
「転移は成功ですか?」
「うーむ……転移したのは確かだ」
理由はわかりやすく2つ。
家の中にいたのに外にいることと、さっきまで夜だったのに昼になっていること。
特に後者は次元転移し、別の世界に来たと思っても良いだろう。
「そうですか……」
リーエがチラッと後ろを見たので俺も見る。
後ろにはテーブルについてお茶を飲んでいる若い女性とその横に控える執事服を着た初老の男性がいた。
若い女性は長い銀髪であり、顔も整っているし、座っていてもスタイルが良いことがわかる。
さらには高そうなドレスを着ているし、ぱっと見は貴族令嬢のお茶会といった感じだ。
「どちらさま?」
貴族令嬢が呆れた顔で聞いてくる。
「昼のお茶会を邪魔して申し訳ない。俺達はのっぴきならない事情で転移してきたんだが、ここはどうだろうか?」
一礼し、確認する。
「て、転移? ここはリーフェル王国の王都よ」
聞いたことがなかったのでリーエを見たのだが、首を横に振った。
リーエも知らないらしい。
「次元転移は成功したようだな」
「ここが日本ですか?」
「いや、絶対に違うと思う」
ここは貴族の屋敷の庭だと思う。
そばにある2階建ての建物は洋風だし、貴族の屋敷と考えると少し小さい気もするが、無駄に豪華だ。
まず日本にはない。
「じゃあ、失敗じゃないですか」
そんなことはない。
「俺達の目的はあの場から逃げることだ。そういう観点から見れば成功している」
「ヴェルナー様はそういう非を認めないところがありますよね。そういうのも嫌われた要因じゃないですか?」
知らん。
そもそも俺はそんなに嫌われていたとも思っていない。
親しい人がいなかっただけだ。
「成功した俺を褒めんか」
「さすご主ー」
うんうん。
「何の話をしているかはわからないけど、あなた達は本当に何?」
貴族令嬢がジト目になる。
「失礼。説明をしたいのだが、こちらも現状把握ができていないので説明が難しいのだ。とはいえ、自己紹介くらいはできる。俺はヴェルナー・ランゲンバッハ。ネブラ・マギカ魔導帝国所属の第一級魔導士だ。こちらはホムンクルスのリーエ」
「アンネリーエ・ランゲンバッハです」
リーエが一礼する。
「……この人達は何を言っているのかしら?」
貴族令嬢が呆れた様子で執事を見る。
「さて? しかし、お嬢様。客かどうかはわかりませんが、御二人は池に落ち、濡れております。この時期に水浴びは厳しいですし、シャワーを貸すくらいはしてあげるべきでは?」
執事さん、良い人。
ほれ、リーエ。
子供の演技だ。
「寒いです……」
リーエが自分の身体を抱き、震えだした。
「無表情で言われてもね……まあ、そのくらいは良いでしょう。オラース、案内して差し上げて。私も部屋に戻るわ」
貴族令嬢が立ち上がり、建物の中に入っていった。
「それではヴェルナー殿、アンネリーエ殿、こちらです」
執事が促してくれたので俺達も建物の方に向かい、中に入る。
中は白を基調としており、かなり清潔感があった。
ただ、調度品は少なく、少し質素に感じた。
「暖かいな」
「そうですね」
暖炉は見えないが。
「朝晩は冷えますからね。暖房を使っております」
暖房?
「ふーん……」
「こちらです」
奥に向かうと、執事が扉を開けた。
中は脱衣所のようだが、ここは6畳くらいはあり、ちょっと広い。
そして、奥には半透明の扉が2つ並んでいた。
「濡れた衣服はこちらの乾燥機をお使いください。中に入れ、スイッチを押せば30分少々で乾きます」
乾燥機……
「わかった。感謝する」
「いえ、それではこれで……」
執事が一礼し、扉を閉めた。
「乾燥機は服を乾かすものという認識でよろしいですかね?」
2人きりになると、リーエが聞いてくる。
俺達がいた世界にそんなものはないのだ。
「ああ。どうやら俺達がいた世界よりも発展してそうだな」
「暖炉がないのに暖房。それに部屋がかなり明るかったです」
電気が通っているのかはわからないが、電灯らしきものがあった。
「その辺も探らないとな」
「はい。でも、その前にお風呂です。風邪を引いちゃいますよ」
「そうだな」
俺達は奥にある2つの扉を開ける。
中は当然、風呂場なのだが、広い浴槽が目につく。
リーエが開けた方も覗いてみるが、そちらも同じだった。
「屋敷の大きさ自体はそこまでですが、水回りは広いですし、かなり綺麗ですね」
屋敷の大きさ自体は俺達が住んでいた屋敷とそう変わらない。
ただ、脱衣所も含めてだが、風呂場はウチの数倍は大きい。
令嬢がいる貴族の家はこんなものかもしれないな。
まあ、ウチにもいるけどさ。
「男女で分かれているっぽいな。入るか」
「そうですね」
俺達は服を脱ぎ、乾燥機に突っ込むと、スイッチを押す。
すると、乾燥機が起動し始めたのでそれぞれ風呂に入った。
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