第011話 さようなら
「あの人、死んだんじゃないの? だから私が……」
セシリアに動揺が見える。
「死んでおりません。確かに流行り病にかかりましたが、公爵の家には優秀な医者がいますし、特注のポーションがございます」
この世界にもポーションがあるのか……
しかし、それで魔法がないっていうのも……あ、いや、今はそこじゃない。
「じゃあ、なんで?」
「結婚をお約束している相手方があまり良い評判ではないのです」
「そういうこと……」
身代わりか。
「私はその事実を知っていましたが、言えませんでした……」
「いや、あなたはそうでしょうよ。というか、最後まで隠しなさいよ」
「すみません……お嬢様、お逃げください。先程はあまり良い評判じゃないと言いましたが、訂正します。かなり評判が悪いです。領地貴族の長男なのですが、領地の若い娘が何人も行方不明になっているとか……」
いや、そんな奴、処刑しろ。
「私も同じ目に遭うと?」
「それはわかりません。ですが、そうならなくても王家の耳に入り、その男が捕まったら連座されます」
あ、処刑されるのか。
一族ごと……
「セシリアさん、考えた方が良いですよ。失礼な言い方をしますが、たかが執事程度が知っているということはかなり噂が広まっていますし、王家の耳に入るのはそう遠くないと思います」
俺もそう思う。
「ヴェルナー、あなたはどう思う?」
俺?
「ちょっと頭に浮かんだのはなんちゃら姫かな? とある権力者が処刑されたんだが、その男に嫁ぐ予定だっただけの全然関係ない若いお姫様も連座されたやつ。悲劇として語られている」
日本のやつね。
「なるほど。父はそれを考えて、私にしたわけだ。何かあっても庶子だから関係ないっていうために……」
そうかもな。
「お嬢様、お逃げください」
「あなたはどうするの?」
「私は問題ありません」
「そう……でも、逃げるって言われてもね……」
難しいだろうか?
「ふっふっふ。セシリアさん、この御方をどなたと心得る。天才という称号ですら足りないパーフェクトマジシャンですよ」
え?
あ、いや、そうするべきか。
「セシリア、逃げる手伝いはできる。夕食の時に言った認識阻害の魔法があるし、この国に魔法の対策なんかないだろうから余裕だ」
「いや、そんなことしたらあなたもお尋ね者よ?」
元々、お尋ね者なんだけどな。
だからこの世界に逃げたわけだし。
「問題ない。さっさとこの国を出れば良いだけだ。俺は別にこの国にいる必要もない」
今日来たばっかりで何も知らないもん。
「いや、でも……さすがにそこまで世話になるわけには……」
『ほら、かっこいいセリフ!』
かっこいい、かっこいい……
「誰かを助けるのに理由がいるか?」
パ、パクッてないぞ!
「そ、そう……」
決まった?
『決まりました。今のは素晴らしかったです。センス◎』
いやー……
「お嬢様、力を貸していただきましょう」
「……ええ。ヴェルナー、お願いするわ」
セシリアが頷く。
「構わない。魔力コントロールを教えないといけないし、俺達的にも助かる」
この世界のことを何も知らないから詳しそうな同行人がいるのは俺達的にもメリットだ。
「お嬢様、そうと決まれば早い方が良いです。できればすぐにでも」
「夜よ?」
「だからこそです。昼は私がおります。夜のうちに逃げてください。私は立場上、明日の朝にはお嬢様を確認しなければなりません。そして、いなくなったとなればそれを報告せねばなりません」
あ、昼に逃げると、オラースに責任がいくのか。
「セシリア、これ以上はオラースに迷惑をかけられない」
「そうね。すぐにでも逃げましょう」
「お嬢様、こちらへ。準備を致しましょう」
「わかったわ。ヴェルナー、ちょっと待ってちょうだい」
寝巻きで逃げるのはないか。
「わかった。俺達も着替えがあるし、準備をしておく」
「ええ」
セシリアは立ち上がると、オラースと共に部屋から出ていった。
「これで良いよな?」
2人きりになると、リーエに確認する。
「もちろんです。恩には報いるべきですし、何も知らない私達としても冒険者だったセシリアさんがいてくれるのは助かります。それに何より、ヴェルナー様はセシリアさんを見捨てられますか?」
いや、無理だろう。
「では、全力を以て助けるとしようか」
「それがよろしいかと思います。さあ、私達も着替えましょう」
「ああ」
俺達は急いでオラースに買ってもらった服に着替えた。
そして、腰の剣を抜き、眺める。
「オラースはこのために恩を売ったんだろうか?」
この明らかに安物じゃない剣と服はあの金貨で買えたのか怪しい。
「そのような気がしますね」
だから立ち聞きか……
「オラースは大丈夫か?」
「おそらくは……責任はどちらかというと門番の方でしょうし」
それはそれですまなかったと思うしかないな。
「逃げたと思ったら今度は逃亡の手助けか」
「それも人生です。それにナイトの役目じゃないですか。役得です」
なるほどな。
そのまま待っていると、ノックの音が聞こえてくる。
「どうぞ」
そう答えると、扉が開かれ、オラースと共にセシリアが戻ってきた。
セシリアはドレス姿ではなく、軽装の冒険者っぽい服を着ている。
体のラインがよく出る服装であり、足も出ている。
さすがに良いスタイルだなと思うし、ポニーテールが似合っていた。
さらには白いカバンと弓を肩にかけており、腰には剣がある。
「冒険者をやっていた時の服か?」
「捨ててなかったからね」
「似合ってるぞ」
言うんだよね?
『言うんです』
よし。
「ありがとう」
「武器は剣と弓か?」
「どっちも使える。ブランクがあるから練習がいるけどね」
2年くらいはやってないわけだしな。
まあ、その辺は追々だろう。
「逃げるとなるが、どこに向かうんだ? 俺達はまったくわからない」
「考えてあるわ。そういう想像だけはいつもしてたから」
当然だが、セシリア的にも良く思っていなかったんだな。
「ヴェルナー殿、この時間は町の門も閉まっております。そこの突破もできますか?」
オラースが聞いてくる。
「昼間に確認した。町を囲う壁は10メートルもないし、それくらいなら飛べる」
まあ、100メートルあっても飛べるけど。
「でしたら王都の外に出てください。もし、お嬢様が逃げたということが判明しても夜に王都を出るのは無理だと思うでしょうから、まずは町中を捜索します。その時間でなるべく距離を取ってください」
それが良さそうだな。
「セシリア、いいな?」
「ええ。案内するわ」
よし。
「行こう」
「ええ……オラース、2年もの間、ありがとう」
セシリアがオラースに頭を下げる。
「いえ……お嬢様にお仕えできて光栄でした。自分の人生を進み、幸せになってください」
「ありがとう……ヴェルナー、リーエ、行きましょう」
セシリアが決意を秘めた目で俺達を見てくる。
「ああ。オラース、世話になった」
「ありがとうございました」
リーエがぺこりと頭を下げた。
「いえ、お嬢様をお願いします」
「大丈夫だ。俺に任せておけば何も問題ない」
「すごいんですよ」
そうそう。
「御二人もお気を付けて」
「ああ」
俺達はオラースと別れ、部屋を出た。
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