第010話 最初からそこにいることは気付いてました!
「頼むわ」
「はい。それではセシリアさん、どこからでもかかってきてください。見た目は気にしなくていいですよ」
リーエが立ち上がった。
「え? 本当にやるの?」
セシリアが困惑した様子で聞いてくる。
「軽くでいいんだ。やってくれ」
「えっと、じゃあ……体術はそんなに得意じゃないけど……」
セシリアが立ち上がり、リーエと対峙する。
セシリアは腰を低く落としており、素人のようには見えなかった。
「リーエ、強いぞ」
「わかってます。それでは参りましょう」
リーエの姿がぶれる。
すると、リーエがセシリアの横に現れ、掌底を放った。
しかし、セシリアはその掌底を肘で受け、そのまま回転し、裏拳を返す。
「おー、すごいです」
リーエは着地して裏拳を余裕で躱し、足を払った。
体勢を崩されたセシリアだったが、右手を床につき、後転する。
その際にひらひらのワンピースネグリジェがふわっと広がり、綺麗な足でけん制したのでリーエが追撃できなかった。
「見事なものだ」
「確かに綺麗なおみ足でしたね」
「そっちじゃない」
そっちもだけど。
「強いわね……面白くなってきた」
セシリアが笑った。
「本気になったところ悪い。もういい」
そう言うと、リーエが席につき、ぶどうジュースを飲みだした。
「え? これからじゃあ……」
「もうわかったからいい。ほら、飲め」
セシリアのグラスにワインを注ぐと、セシリアが席についた。
「何だったの?」
セシリアがワインを飲みながら聞いてくる。
「確認。話を最初に戻すが、最近、身体に不調がないか?」
「あるわね。身体が異様に重くなったり、寝ていると胸が苦しくなったりする。しまいには腹痛で倒れたこともあるわ」
だろうな。
「それは魔力蓄積による魔力障害だ。はっきり言おう。セシリアの魔力量や質から考えて、放っておけば死ぬぞ」
「そ、そう……でも、なんで今さら……」
やはりショックのようだ。
「それの確認のためにリーエと戦ってもらった」
「どういうこと?」
「魔法というのはこういうわかりやすいものだけじゃないんだ」
そう言って、昼にも見せた火魔法を使う。
「すごいわね……」
「たいした魔法じゃない。魔法というのはもっと深いし、多岐に渡るんだ。その1つが強化魔法になる。今、お前が使っていたやつだな」
見事だった。
「え? 私、魔法を使ったの?」
やはり無意識か。
「ああ。使っていた。昼に町を見て回ったが、冒険者っぽい連中のほとんどが大小あるが、魔力を持っていた。そこで気付いたんだ。こいつら、意識せずに強化魔法を使っているな、と」
魔法のない世界と聞いたが、魔力を持っている奴はそこそこいた。
それにあれだけの魔道具があるということを考えてもこの世界は魔力がない世界ではなく、魔法を使う知識だけが喪失した世界だろう。
「冒険者が魔力を……」
「少し考えればわかることだ。強化魔法を使っているから肉体が強化される。だから周りと比べて強いから魔物退治なんか危ない仕事を選ぶわけだな。セシリアもそうだろ?」
強化魔法を使えば常人ができない動きができる。
先程のリーエやセシリアの動きがまさにそれだ。
「確かにそうかも……」
「つまりだ、セシリアは冒険者現役中、魔力を使っていた。だから何も問題はなかった。しかし、今の生活では魔力を使うことなんてないから魔力障害が起きているんだよ」
これだけの魔力だときつかろう。
「そ、そう……じゃあ、魔力を使えば治まるの?」
「そうだな。それで大丈夫だ」
「そっか……魔力を使う……え? どうやって?」
問題はそこになるな。
「さっきのような模擬戦をすればいい」
「誰と? 私、どこぞの貴族に嫁ぐんだけど?」
旦那さんと……無理か。
「魔力操作を教えるという方法もある。要は動かしたり、放出すればいいのだからそういう魔力を動かす技術があるんだ」
というか、これができないと魔法は使えない。
「いいの?」
「俺達はセシリア達のおかげで初手を間違わずに済んだ」
それに服とか色々としてくれたし。
「ありがとう」
「いや……すまん。簡単に言ったが、一朝一夕で身につく技術じゃないんだ」
「時間がかかるの?」
「普通でもひと月から1年はかかる。俺達がいた帝国には魔法学校があるのだが、1年生はまずそこから始め、本格的な魔法は2年からになる。そして、良いか悪いか、セシリアは普通じゃない」
魔力が大きすぎるのだ。
「1年……そんなに猶予があるかしら?」
知らない。
「リーエ」
「はい」
リーエは立ち上がると、扉の方に向かう。
そして、勢い良く扉を開けると、そこには執事のオラースが立っており、驚いた顔になった。
「オラース……」
「お嬢様、申し訳ございません。聞き耳を立てていました」
オラースが頭を下げる。
「オラース、来てくれ」
オラースがリーエと共にこちらにやってきた。
「何故、わかったのでしょう?」
「夕食の時に散々、自慢しただろう。あれは嘘じゃないぞ。俺は本当に英雄だし、いくつもの勲章を手にした大魔導士なんだ。外に誰がいるくらいはわかる」
「私のご主人様なんですよ」
すごかろう?
「さようですか……申し訳ございません」
オラースが俺達にも頭を下げた。
「いい。それよりも猶予の話だ。聞いていただろ?」
「オラース、時間はあるの?」
セシリアもオラースに聞く。
「お嬢様……申し訳ございません」
オラースがまたもや頭を下げた。
「ど、どうしたの?」
「話はすべて聞きました。お嬢様がそのように苦しんでいるとはまったく知りませんでした」
「いや、言ってないしね……」
そういうことじゃないぞ。
使用人というには主人の体調管理も仕事の一つなんだ。
ウチのリーエなんかすごく優秀。
「お嬢様、こうなったら私も覚悟を決めます」
「う、うん……」
「実はアレット様は亡くなっておりません」
「え?」
誰?
あ、いや……お姉さんか……
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