第001話 逃げちゃいましょう!
新作です。
2階にある自室からカーテンをわずかに空け、外を見る。
すると、家の周りにはかがり火が焚かれており、外には10人以上の馬に乗った兵士がこちらを見ていた。
『ヴェルナー! 大人しく投降しろ! さすれば弁護人をつけてやるぞ!』
俺は禁忌の魔法に手を出したというまったく身に覚えのない罪で捕まりかけていた。
「くっ!」
何が弁護人だ。
そんなものに何も意味はないだろ。
「ヴェルナー様、いかがしますか?」
カーテンを閉めると、10歳くらいの黒髪の少女が聞いてくる。
「もうダメだ。裏にも兵がいるだろうし、相手は騎兵隊。後ろにも魔力反応があったし、魔導兵もいる。要は完全に囲まれているし、風前の灯火だ」
一言で言えば詰み。
「だから言ったではありませんか……謙虚にし、恨みを買うようなことをしてはならないと」
今、苦言を呈すか?
「謙虚にしていたぞ。貴族に逆らわず、ちゃんと相手を立てていた」
「どこがですか……叡智の魔勲章を陛下より頂いた時に散々、はしゃいで騒いでいたじゃないですか。スピーチでも調子に乗り、周りを敵に回していました。正直、私ですらイラっとしたレベルです。本当に27歳ですか?」
う、嬉しかったんだよ……
叡智の魔勲章は最高の魔法使いにのみ贈られる栄誉だし……というか、イラっとしてたのか……
「やはりその件で恨みを買ったか?」
それで謂れもない罪で捕まるのか?
「それだけじゃないと思います。一番は邪魔だからでしょう。ヴェルナー様は庶民のくせに優秀すぎたのです」
ふっ、優秀なのは罪か。
「この状況でドヤ顔を浮かべます? そういうところだと思います」
わかってる。
調子に乗りやすいのが俺の唯一の欠点……
『ヴェルナー! 出てこい!』
おーっと。
「リーエ、俺が捕まってもお前は『何も知らない』と答えろよ」
「それは無理です。私はヴェルナー様が作られたホムンクルスです。国の法律上ではヴェルナー様の所有物。ヴェルナー様が捕まった時点で処分でしょう」
処分……俺が死ぬのは俺の自業自得だ。
それなのにリーエまで巻き込まれるのか。
「すまんな……こうなるなら作るんじゃなかったかもしれん」
「そんなことありません。私は生まれてきて幸せですし、ヴェルナー様のお手伝いができて光栄でした」
おー……リーエ!
「リーエ……なんて可愛い子なんだろう。さすがは俺の最高傑作」
「それ、外では言わないでくださいね。皆さん、裏でヒソヒソされてますよ。特に女性の方は白い目で見ています」
なんで?
いや、それはどうでもいい。
「戦うか。騎兵隊だろうが魔導兵だろうが叡智の魔勲章を持つこの俺の敵ではないだろう」
「さすがはご主人様。略してさすご主。でも、向こうもそれはわかっていると思いますよ」
対策はしているか……
俺を捕まえようとしているわけだし、見える範囲の敵だけじゃないだろうな。
隠れている魔導兵も俺が思っているより多いと思う。
「やるしかない。お前だけでも逃がしてやるよ」
ただでは死なんぞ。
「お待ちください。それは浅慮です」
浅慮……
「浅慮なのはわかっている。しかし、捕まっても俺が助かる道はない。適当な罪状をどんどんつけられ、死刑になるに決まっている」
敵は貴族だ。
庶民の俺を庇ってくれる人間なんていないし、すぐに調子に乗る俺には人望もない。
「そうだと思います。しかし、もう少し考えるべきです。空を飛んで逃げませんか?」
ふむ……矢や魔法が来ると思うが、それは防げる……
「いや、帝都を出てから詰む」
追手を倒していかないといけないが、いつかは俺の魔力が尽きるのだ。
俺は客観的に見ても優秀な魔法使いだと思う。
しかし、魔力が尽きたら魔法使いなんてその辺の子供より弱い。
「それは……わかりました。こうなったら仕方がありません。辱めを受けるくらいなら潔く自害しましょう。介錯は任せてください」
「え?」
リーエが空間魔法からククリナイフを取り出した。
そんなものは買った覚えがないし、多分、自分で作ったやつだ。
「さあ、じっとしててくださいね。すぐに楽にしてあげます。ちゃんとあとを追いますし、死出の旅の案内はこのリーエが致しますのでご安心を」
リーエが殺す気満々で近づいてくる。
「ちょ、ちょっと待て!」
早い! 諦めるのが早い!
「大丈夫です。この戦闘用ホムンクルスにお任せを」
いや、お前はお手伝いさんホムンクルスだ!
仕事の補佐と家事能力皆無の俺を助けてくれるメイドさんホムンクルス!
「待て! 良い方法が浮かんだんだ!」
「何でしょう?」
『ヴェルナー! あと1分で突入するぞ!』
うるせーよ!
外野は黙ってろ!
今、自分が作ったホムンクルスに殺されそうなんだぞ!
「いいからナイフを下ろせ」
そう言うと、リーエがようやくナイフを下ろしてくれた。
「ヴェルナー様、もう時間がありません」
「わかっている。方法は転移魔法で逃げることだ」
「転移? 10メートルも飛べないじゃないですか」
転移魔法はかなりの魔力を使うからそんなに遠くは飛べないのだ。
「それは普通の転移だ。俺が言ってるのは次元転移になる」
「次元……すみません。よくわかりません」
わからないだろうな。
これはリーエにすら言っていない秘匿中の秘匿なんだ。
「時間がないから簡潔に説明する。要はこことは違う世界に行ける魔法だ」
この国で成功した俺だが、いつかはあの世界に帰りたいと思ってこっそり研究していた魔法である。
俺はこの国で生まれたが、その前の記憶もあるのだ。
あそこに戻っても、もう死んでいる俺の居場所なんかないが、最後に納豆ご飯を食べたいと思っていた。
「違う世界って……ヴェルナー様が前世の記憶があるとか世迷言を言っているのは承知していますが……あのー、禁忌の魔法に手を出したって実はそんなに外れてなかったりします?」
「これは禁忌じゃない。何故なら誰も知らないし、禁忌にならないからだ」
知らないのだから国も禁忌設定できない。
「アウトー」
セーフ!
「リーエ、来い。まだ研究途中の魔法だが、仕方がない」
「失敗して次元の狭間かー……」
「怖いことを言うな」
近づいてきたリーエを子供のように抱える。
『ヴェルナー! 時間だ! 逮捕する!』
うるさいなぁ……
「やるぞ」
「はい」
リーエが頷いたので精神を集中させ、魔力を込めていく。
そして、一気に魔法を解き放つと、扉が勢い良く開かれ、兵士が流れ込んでくると同時に視界が真っ暗になった。
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