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ロマネスの少女  作者: 辻本 結城
第一章 霧深き森

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6/7

霧深き森 その6

「あっ!!」

 そこを、サクラに引き留められた。

「離してよ、サクラ」

「ムグググッ……」

 ルーラの袖口をくわえたサクラの口から、妙な声が漏れる。

 手を貸そうとしたのか、ヴォルンがヨロヨロと立ち上がろうとして、低く呻く。

「ダメだ。まだ動けない……」

 地面にへたり込んだ。打ち身がひどく、まだ当分動けそうにない。

 ルーラ、サクラはどちらも譲らず――しばらく硬直していた。 

 夕暮れになったらしい。辺りに茜色の光が射し込み始め、冷んやりとした風が木々の間を行き過ぎると、乳白色の霧がグラデーションをつけつつ、ゆっくりと晴れ渡る。

「離して、サクラ!!」

 珍しく、ルーラはムキになった。サクラを振り解こうと、腕を力一杯手前に引く。

 ヒヒヒヒィーン!!

「!!」

 馬のいななきに、ルーラの顔が輝いた。 

「あの人だ!!」

「えっ!?」

 ひどく驚いたらしい。サクラが、ついルーラの袖から口を離してしまう。

 その隙に、ルーラは青年のいる方へ走り出した。

 青年はというと、ルーラの様子を馬上から、じっと眺めていた。

「!!あのガキ、やっぱり、まだいたか。しかし、一端逃げ出したと思ったら、またオレの方に戻って来やがって。何を考えているんだか……」

 口汚い言葉で毒気づき、その場に留まった。別段、ルーラが来るのを待っているようではないようだ。ゲオルグたちの奪った金品をマレノスの村の人々に返しに行く途中、たまたま、自分の向かう先からルーラが走って来た。ただそれだけらしい。

 ルーラは、しばらく全速力で走ると、息を切らし、歩を緩めた。

(こんなに走ったのは何年ぶりだろう)

 幼い頃は、良くヴォルンやサクラと追いかけっこをして、城の中だけではなく、城門に囲まれた庭園の端から端へと、日暮れになるまで遊んだ。それも九つか十ぐらいまでである。裾の長いドレスを着るようになってからは、走りにくくなったため、子供じみた遊びをしなくなった。

「小さい頃は、もっと早く走れたのに……」

 ぽつりと呟き、恨めしそうにドレスの裾を見た。

「裾、まくっちゃおうかな」

 『レディらしく』と窘めるしつけ係、やんわりと諭す父は側にはいない。左右に森が佇むだけ。ルーラが好き放題に行動したとしても、せいぜい怒るのはサクラぐらいだ。

「いいよね」

 ルーラは茶目っ気たっぷりに笑むと、ドレスの裾をたくしあげた。

 後ろからそよ風が吹いてきて、ドレスの裾が舞い上がる。

 西から差し込む陽光が、薄紅色の生地を照らした。

 光の反射のせいで、ドレスの色がピンクから白に変わる。

 ルーラは立ち止まり、目を擦った。

 「お父様?……」

 正装用の白い衣服を身につけた父、ジョエル=ロマネスが目の前にいた。困ったような怒ったような、複雑な表情をしている。

 ルーラは目を伏せ、頭を軽く下げた。

「ごめんなさい、お父様」

 『城から出てもレディらしく振る舞いなさい』。そう告げた父の言葉をルーラを破った。申し訳ないと思う、ほんの少しの罪悪感がジョエルの幻を見せたのだろう。

「!!お父様!」

 風が止んで、ドレスの裾がルーラの足元を隠すのと同時に、父の姿は消えた。

「お父様……」

 ルーラは目頭が熱くなるのを感じた。

「やだなー。お父様のこと、思い出しちゃった」

 クスンと鼻を啜ると、ドレスが汚れているのに気が付いた。野犬と戦ったヴォルンを探して、森の中を這いつくばった。それだけならまだしも、ゲオルグを殺した青年から逃げている途中、道に倒れていたヴォルンにつまづき、前のめりに転んだ。

 ドレスには土埃がつき、裾は泥だらけになっている。

(ひどい格好……)

 ルーラは泣きたいのを我慢し、服を手ではたいた。

 土埃が舞い散り、ドレスはやや見栄えが良くなった。

「裾はどうしよう……」

 考えてみたが、方法は一つ。

 ルーラは腰を屈め、身頃にしたのと同じように、裾もはたいた。

「落ちない……」

 グッと胸が詰まり、涙が零れ落ちそうになる。

 地面に茶色い染みが一つ、二つ。

「!!また泣いちゃった」

 慌てて、頬の涙を手で拭う。

「手も汚れてる」

 野犬の血が手についたことを思い出し、それを払おうと手を大袈裟に振る。

 カラカラに乾いた血が落ちて行くのを見、ほっと胸を撫で下ろす。

 と、鋭い視線を感じた。

 ルーラは顔を上げ、怪訝そうな表情の青年と目が合う。

「怒ってるの?それとも、笑ってるの……!!」

 笑われた、と勘違いしたルーラは顔を真っ赤にし、俯いた。

 ドレスのポケットに手を入れ、ハンカチを取り出す。涙と汗まみれになった顔をハンカチで丁寧に拭き取った。そして、再び、ゆるゆると歩き出す。

「着いた……」

 ルーラは青年の前まで来ると、ルーラは胸を押さえ、何度か深呼吸した。

 ブルル

 馬の鼻息が前髪にかかって少しびくついたが、そこをグッと耐えた。

(レディらしく。レディらしくよ、ルーラ)

 ルーラは、ドレスの裾を摘まむと軽く一礼し、できる限りありったけの笑みを浮かべた。

「先ほどは危ないところを助けて頂いて、どうもありがとうございました。それなのに……殺されるだなんて、おかしな事を口走ってしまって申し訳ありませんでした。私は……」

「ルーラ、本名を名乗ってはだめよ」

 いつの間にやら、肩に乗って来たサクラが、耳打ちした。

 ルーラは城内にいた男性以外と、こうして面と向かって話をするのが初めてである。ロマネス、ローランを経てモンペリエに着くまでの間、男性と話をするのは避け、女性とだけ会話を交わしてきた。明確な理由はない。これまで男性と親しく接する機会がなかったのだ。 

「!!」

 ルーラは凍りついた。どう接していいかわからない所へ、青年の鋭い眼差しが追い打ちをかけるように、こちらを凝視している。緊張がピークに達してしまっているせいか、サクラの忠告は右から左へと流れた。

 ルーラは一歩後ずさると、気を取り直すため、何度目かの深呼吸をする。さっきと同じ仕種をした。

「私はロマネス国の王、ジョエル=ロマネスの娘、ルーラ=ロマネスと申します」

「何だと!?今、何て言った!ジョエル=ロマネスの娘!?」

 青年はカッと目を見開くと怒声した。

「!!」

 これにはルーラばかりでなく、サクラも恐怖におののき、身を竦ませる。

「あっ、あの……本当にありがとうございました。それでは、ごきげんよう」

 もっと他に言うべきことがあったはずなのだが、青年にいきなり怒鳴られたルーラは、言わんとしていたセリフをすっぱり忘れてしまい、そのまま逃げ去るようにヴォルンがいる場所へと引き返した。

(また、あの男の人を怒らせちゃった)

 ルーラは後悔の念に苛まれた。

 なぜ彼が怒ったのか、その原因は定かではないが、ルーラにとっては怒られた方のことが記憶に強く残ったらしい。

 ルーラはヴォルンに駆け寄り、顔を青ざめさせた。

「ヴォルン!」

 彼女の肩から下りたサクラが焦った声を出す。

「ヴォルン!!」

「……あっ、ああ……二人共、どこに行ってたんだ……?霧が晴れたからって安全だって言いきれないんだ。むやみに動き回らない方がいい」

 訳もわからず一人取り残されたヴォルンは、馬車に引かれるのを恐れたのか、道の端に避難していた。二人がいないのをいいことに、不謹慎にもうたた寝していたらしく、目が虚ろになっている。

 ルーラは惚けるヴォルンを見、道端に座り込んだ。

「ヴォルン、大丈夫?疲れてるの?」

「――?いや、疲れてなんかいないよ」

「本当?」

 ルーラは不思議に思う。

(じゃあ、どうしてヴォルンは、ぼーっとしてるの?)

「寝てたわね、ヴォルン」

「えっ?」

 ピシャリと言ったサクラのそれに、ルーラは呆気に取られた。

「そうなの?」

「……う、うん、まあ……」

 ヴォルンが顔を伏せ、何やら口籠もる。

ルーラの口から安堵のため息が漏れた。

「良かった……」

「良くないわよ。呑気にうたた寝なんかし……」

 サクラの口を塞いで黙らせ、ヴォルンの背を撫でた。

「ヴォルン動くの、まだ無理だよね?宿は……どこにあるの?サクラ、見つけてこれたんでしょう?」

「そ、それがねえ。この先に行ってみたんだけど、森を抜けた向こうには草原しかなくて、マレノスに戻るしかないみたいなのよ」

 サクラが正面に視線を転じ、後ろを振り返る。

 ルーラもまた振り返った。

「マレノス村に戻るんだったら、朝来た道を戻ればいいから、迷うこともないし、そんなに歩かなくても済むよねー」

「そ、そう、ね……」

 同意を求められたサクラが言葉を失う。半日かけてここまで来たというのに、また戻るのだ。彼女にしてみれば気が重いのだろう。

 ルーラはというと、無邪気に喜んだ。マレノス村へ行けば泊まる所も、ドレスの裾の汚れを取ることも、ヴォルンの疲れを癒すことさえできる。いい事づくめだ。

 ヴォルンに背を向け、片膝を立てる。

「ヴォルン、私がおぶってってあげる。ほら、私の背中に乗って。ねっ」

 ルーラは、動けずにいるヴォルンを可哀想に思い、無謀な事を口にした。 

 どう見積もっても、彼女より、人狼のヴォルンの体重の方が勝っているのは明らかなのに。もちろん、それだけではない。先ほどの青年が怒って追いかけてきたら、という懸念もあるのだろう。彼を怒らすようなことをした覚えはルーラにはないのだが、青年は確かに激怒して見えたのだ。

 後方から馬の蹄の音が聞こえた。

 後ろを振り返ったサクラが、両翼を拡げ、右往左往する。

「ルーラ、大変よ!さっきの男の人がこっちに来るわ!!」

「えっ!?」

 ルーラは脅えを露に振り向いた。

 見れば、青年がキツイ眼差しをしつつ、大股で近付いて来た。

 ルーラの顔が強ばる。

(どうしよう……)

 困惑したものの、サクラ、ヴォルンは当てにはできそうもない。

「!!」

 青年の靴先を見て、心臓が止まりかけた。

 そこへ、静穏な声音が注がれる。

「おまえ、『ルーラ』とか言ったな」

 ルーラの肩がビクリと震えた。

 青年には悪気がなかったようだが、今までのインパクトが強すぎた。彼に声をかけられることは、怒られる時だ、とルーラが勘違いしても不思議はないだろう。

 ルーラは俯いたまま、ドレスを摘まみ、丁寧に会釈した。青年の前から早く逃げ出したかった。そのためには詫びる必要がある。

(謝るのよ。謝るだけでいいの。恐いことなんて何もないんだから)

 自身に強く言い聞かせ、おどおどと口にした。

「……さ、先ほどは……ほ……本当に申し訳ありませんでした……どうか、お許し下さい……あなたに殺されるだなんて、二度と言ったりしませんから……」

「オレに殺される、か……」

 青年が苦笑するのが聞こえた。

 反射的に顔を上げたルーラの手から、摘まみ上げていたドレスが落ちる。

 パサッという音が、ルーラの耳に何度も響いた。 

「おかしなガキだな、おまえは……」

 またしても青年が苦笑いを零す。そこには、悪意や殺意は全く感じられない。

 ルーラの顔がほころんだ。

「ふっ……」

 泣き声が漏れそうになるのを、口を手で塞いで、どうにか止める。 

 青年はというと、気づかなかったらしい。そっけなく聞いてきた。

「おまえ、『ジョエル=ロマネスの娘だ』と言ったが、嘘じゃねえな?」

「……」

 ルーラはコクコクと頷いた。

 こちらを凝視していた青年が、前髪を掻き上げた。下を向いているうち、額にかかる髪が邪魔になったのだろう。

「フン。言ってることは本当のようだな」

 鼻で笑って、独りごちる。ルーラの真摯な眼差しを見て、確信したらしい。そして、当然の質問を投げかけた。

「ロマネスの王女が、こんな所で何をしているんだ?」

「はっ、はい……旅をしています……」

「!!観光でなく、旅を?馬車は?侍従の姿が見えねえが――まさか、一人で来ているんじゃねえだろうな」

「いっ、いいえ違います。ヴォルンとサクラと、三人で、です……」

 ルーラはちらりと目配せした。本来なら、きちんと紹介すべきところを、萎縮していたため、うっかり忘れた。

 背丈のすらりとした青年が、ルーラの肩越しに、ヴォルン、サクラを見る。

「ズボンを履いた狼と……!!」

 青年がしかめっ面をした。

「狼じゃねえな、人狼か」

 ズボンを履く狼などアルシュランに存在しない。とすれば、ゲオルグの連れていた獣人のように、ルーラの背後にいる狼らしき生き物にも、人間の血が交じっているのだろう。ズボンを履いているのは、人としての表れだ。

「もう一匹はドラゴンの子供らしいな――しかし、旅をするっていうのに、おめえは何て格好をしてやがるんだ。ロマネス王の常識を疑うぜ」

 ルーラは今にも泣きそうに、唇を強く噛み締めた。

 『城にいた時と何ら変わりない格好をして旅をしなさい』と彼女に命じたのは、他でもないルーラの父、ジョエル=ロマネスである。

 ルーラは、父の言葉に一つの疑問も持たず、彼に命じられるまま、ドレスを着て旅に出た。ローラン、マレノス村と寄ったが、服装について指摘した者は誰一人としていなかった。

 そこが、彼女の不運なところだろう。 

 ルーラは、もっと早く気づいていれば、と後悔した。ドレスを見つめ、青年の前からますます逃げ出したくなる。 

「ドレスを着て旅にな……」

 青年の口から乾いた嘆息が漏れる。何か理由あっての服装か、と推し量ろうとしているのだろう。腕組みした。

 ルーラは、鋭い視線を頭上に感じ、縮こまった。

(ヴォルン、サクラ……)

 後ろにいるだろう二匹に助けを求めた。

 が、二匹も青年に恐れをなしているようだ。こちらに来る様子も、話し声すら聞こえない。

 ルーラは心細くなり、何か頼れるものはないか、と探してみた。

「!!」

 柔らかい感触に、つい声を漏らす。

「お父様……」

 十七の誕生日の祝いにと、父がくれたポシェットを幾度も撫でた。

「……お父様……」

 やがて言葉は途切れ、頬を大粒の涙が伝う。

 彼女の啜り泣く声に驚いたのか、青年が顔をしかめた。

 ルーラはというと、青年に悟られぬよう、額の汗を拭う振りをして涙を拭いた。

 青年に怒鳴られたのが強く印象に残ったらしい。大人しそうなルーラは、どう対処していいかわからず、泣き出した。父王にでさえ、滅多に怒られたこともないのに、初対面の青年にそうされ、ショックを受けるのも当然だろう。

 青年の口から何度目かの嘆息が漏れた。謝るのは苦手なのか、全然関係ない話題を持ち出す。

「これから、どこへ行くつもりだ」

「えっ!?」

 予期せぬ青年の問いかけに、ルーラはびっくりし、弾かれたように顔を上げた。

 そこに、信じられないものを見た。目元を細めた青年が、穏やかに笑んでいた。

 彼なりに気を使ったのだろう。それともルーラから話を聞きたい一心からか、笑うのに慣れていないらしい青年は、口の端をやや引きつらせていた。 

ルーラは心の準備ができていなかったため、恥ずかしそうに頬を赤らめた。青年から視線を逸らし、口籠もる。

「……あっ、あの……炎の湖へ、聖なる騎士様を探しに行きます……」

「炎の湖だと。炎の湖へは、こっから馬で一日はかかる。オレの足でせいぜい五日。おまえの足だと ――早くても七日はかかるな」

「そんなに……」

 ルーラは目眩を覚え、あやうく後ろに倒れかけた。

 焦ったらしい。青年がルーラの腕を掴む。

「!!おい、大丈夫か?」

「……は、はい……ありがとうございました」

 邪気のない顔をする彼女に、青年は少し動揺したのか、急いで手を離す。照れ隠しのためだろう。ルーラから空へ視線を逸らすと、無愛想に言ってのけた。

「聖なる騎士は単なる噂に過ぎねえ。何で、奴が実在するとわかった?それも炎の湖にいるだと。聖なる騎士が炎の湖にいる、という証拠でもあるのか?」

「はい。私、三日前にローランに寄ったんです。聖なる騎士様のお話は、その時、宿の人からお聞きしました。数カ月前に、ローランで一番と謳われていた騎士様がいなくなり、行方を追ったローランの人々や陛下が、騎士様がモンペリエの炎の湖で姿を消したことを突き止めたのだそうです」

「ローラン隋一の騎士か――確か、年は十代後半から二十代前半。数年前、ローランの王が主催する剣術大会で優勝を果たしてから一気に頭角を表し、『聖なる騎士』では、とローランの人間が噂するようになった……奴の手には聖剣エスペランサが握られている、ともな」

「はい、そうです」

 ルーラは大きく頷くと、天を仰ぎ、恍惚の表情を浮かべた。

「その騎士様の髪は、川の水の流れのように滑らかで、朝の目映い光を吸い込んだような金の色をしてらっしゃって……英気と才知を湛えた蒼い瞳は常に未来を見据え、中性的なお顔立ちはローランの若い女性たちの心を魅了し、男性の方々をも引き付けたとか……手にする剣には金色に輝く宝石がついていて、騎士様と対面した人々の汚れた心を澄んだものに変えてしまう……」

 ほうっ、と吐息をついた。

 夢見心地の瞳を、青年に向ける。

「そう、宿の人から、聖なる騎士様のお話をお聞きました」

 ルーラは一つ嘘をついた。聖なる騎士のことについては、ローランの人々から聞く前に、父から少し話を聞いていたのだ。

 ルーラの父、ジョエル=ロマネスは彼に仕える、予見者――未来を見ることのできる力をもつ者――アオン=ダガールから、聖なる騎士の話を聞いた。騎士について最初に話を持ち出したのは、彼女である。

 『自分の名を気軽には名乗ってはならない』との父との約束を、ルーラは破った。青年に怒鳴られることを恐れ、激しく動揺し、口を滑らせた。が、今は違う。冷静さを取り戻しているせいか、もう一つの約束――聖なる騎士について父から聞いた――を破らずに済んだ。

(お父様、私、約束を守ったわ)

 嬉しさのあまり、ニッコリと笑んだ。

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