第9話 魔法を使ってみたい
検証作業も終わったのでシルフィーナと一緒にサブスクでアニメを見ている。今見ているのはかなり昔のロボットアニメでシルフィーナに似た妖精の女の子が出てくる物だった。
「面白かった! わたしもあんなロボットに乗ってみたいわ」
「あっちの世界にはああいうのってないの?」
「ないない。わたしが知っている乗り物は馬車くらいしかないんじゃないかな?」
ついでなので、適当な異世界もののアニメを見ながらシルフィーナの知っているあちらの世界に似ていそうなのはないかと訪ねてみる。
「んーどれも似たようなものだし、わたしも長いあいだ人類種のいる大陸には行っていないから今はどうなっているかわからないかな」
アニメの中では主人公が魔法に目覚める場面が映っている。シルフィーナには魔法が使えるかわからないと言われたけど、どうにかして調べる方法はないのだろうか。
「ねえシルフィーナ、魔法の使い方を調べる方法ってない?」
「んーそうね。このアニメのマネでもしてみる?」
このアニメでは確か、瞑想をしながら魔力回路というものを見つけてってながれだった。
「そうね、このアニメに限らずいろんなアニメのものを参考に調べてみようかな」
「わたしも手伝うわ」
さっそく瞑想をしてみる。うん、わからん。
「次よ次」
次のアニメでは確かそれっぽい呪文を唱えていたかな。
「ファイアー! ウォーター! ウィンドウ!」
だめでした。いや、まだだ、まだストックはある。
「火よ! 炎よ! ファイアーアロー! ストーンバレット! ウィンドストーム! メテオ!!!」
「途中から危なそうな魔法が混じっていたようだけど」
「はぁはぁはぁ。思いつかなかったのよ。というよりもこれもダメね」
他になにかないかな?
「あっ、ねえシルフィーナ。これ、このアニメみたいにあなたの魔力を私に流してもらうことってできるの?」
「試してみる?」
「お願い」
私の手に平にシルフィーナが手を重ねる。
「それじゃあ流すわよ」
「うん」
少しするとシルフィーナとが触れている場所がピリッっとした。目を閉じてそこに意識を集中してみる。
「うっ……」
自然と口から声が漏れていた。最初は小さかった痺れるような痛みが体全体へと広がっていく。あっ、これ多分やばいやつだと思ったところで痛みが消えた。
「ふぅっ──はぁはぁはぁはぁ」
止まっていた呼吸が再開される。
「オトハ大丈夫?」
シルフィーナが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「はぁ、ふぅ。大丈夫」
暑いいや寒い。気がつけば下着どころか着ていた服が汗でビショビショになっている。夏前ということもあり気温は高いけど、流石にこうもびしょ濡れだと風邪をひくかもしれない。
「シャワー浴びてくるわ」
「わかった」
立ち上がろうとして足がふらつく。着替えを用意してからとも思ったけど寝室まで取りに行くのも億劫なのでそのままお風呂場へ行く。衣服を脱いで浴室に入りシャワーを出す。手で温度を確認しながら温かいお湯が出てきたところで頭からシャワーを浴びる。
「はぁ。これが魔力なのかな?」
体の中に今まで感じたことのないなにかが流れている。先ほどシルフィーナから流されていたピリピリとしたものとは別のなにかが感じられるようになった。
「だめだー、頭が回らない。考えるのはあとにしよう」
汗を流し体を洗ったところでお風呂場から出る。タオルで体を拭いたところで着替えを用意していなかったことを思い出した。寝室まで移動して下着を着たところで、この後の予定を考える。
出来合いのものを買うために買い物に行くか、冷蔵庫の中を見て晩ごはんを作るか。夏が近づいているからまだ外は明るい。ただ買い物に行くのもちょっとしんどい。もう今日はこのままでいいかと寝間着を手に取る。
アニメを見ているシルフィーナにひと声かけて台所に行く。冷蔵庫を開けて中身を確認。
「何がいいかな?」
凝ったものを作るのは面倒くさい。豚バラ肉があったので豚丼でいいかな。まずはタレを作る。しょうゆ、みりん、料理酒、砂糖、すりおろしニンニク。それらをボウルに入れて混ぜ合わせる。
フライパンにサラダ油をひいて適当に切った豚バラ肉をいれて焼く。お肉にちゃんと火が通ったのを確認してから、適当な大きさに切った玉ねぎをいれて先程作ったタレを入れる。タレの焼けるいい匂いがただよってくる。
ご飯は冷蔵庫に入っていた冷やご飯。温めるのが面倒くさいのでそのまま出来上がった豚バラ肉を並べて中央に生卵を落とす。スープはインスタントの卵スープをいれて出来上がり。
冷蔵庫から缶ビールを一つ取り出す。シルフィーナの分はどうしようかな。念の為小皿とスプーンをおぼんに乗せて一緒に持っていく。
「シルフィーナご飯にするよ」
「はーい。いい匂いね、美味しそうだわ」
小皿にご飯と卵が絡んだ豚バラ肉を一切れ置く。
「熱くはないと思うけど素手で大丈夫?」
「大丈夫よ。マイフォークとナイフを持っているから」
どこから取り出したのかシルフィーナの手には小さなナイフとフォークが握られていた。
「ビールは飲んでも大丈夫かな?」
「それはなに?」
「麦で作ったお酒なんだけど、少し飲んでみる? ダメそうなら別のものを持ってくるけど。そもそも妖精ってお酒は飲めるのかな?」
プルトップを上げるとプシュっと音がなる。ビールをこぼさないようにゆっくりと傾けてスプーンにいれる。
「これがビールなのね」
シルフィーナは恐る恐るぺろりとビールを舐める。
「不思議な味ね」
そのままごくごくとスプーンに入っていたビールを飲みきった。
「おかわり~」
顔を見ると赤くなっている。もう酔っ払ったのかもしれない。
「後でね。まずはご飯を食べましょ」
「そう? オトハがそういうなら」
シルフィーナはナイフとフォークを使って、器用にお肉を切り分けて食べ始める。それを見て私も食べることにする。まずはビールを一口。苦味が喉を通り体に染み渡る。そういえばお風呂から上がってから何も飲んでいない事に気がついた。あれだけ汗をかいたのだからちゃんと水分をとっておくべきだったと反省。
「いただきます」
手を合わせてから箸を取り豚肉とご飯を一緒に口にいれる。タレがお肉とご飯にしみていて美味しい。そういえば青野菜を用意していなかった。まあ今日はいいか。豚丼を食べてビールを飲む。それを繰り返して最後は卵スープを飲みきった。
「ごちそうさま」
「おとは~おいしかった~」
最初に飲んだビールのせいかシルフィーナはふらふらしている。よそった豚肉とお米は全部食べきったようだ。
「片付けてくるわね」
「は~い」
シルフィーナはテーブルの上に座り込んだかと思えばそのままパタリと倒れた。この感じだとシルフィーナはお酒に弱いのかもしれない。もしくはビールが合わなかった可能性もある。今後はビールを飲ませるのはやめておこう。





