第8話 能力の検証をまとめる
「いやー、流石に無理かー。むしろできなくてホッとしたわ」
私の視線の先には一匹のアリがいる。何をしようとしたのかというとアリを、つまり命を持つものを増やそうとしたわけだ。結果としてはできなかったけど、命の複製まではできないということになる。今回に限ってはできなくて安心した。
「だけど全く干渉できないわけでもないんだよね」
「そうなの?」
「うん、試してみるから見ててね」
私はアリに視線を向けながら倍になるように念じる。
「あっ、動きが早くなった」
「そうよ、身体能力を倍にしてみたわ。多分これなら私自身にも使えると思う。使いこなせれば切り札になると思うし」
「たしかに動きが早ければ逃げるのに便利そうだね」
「単純に手数が増えるだけでも違うと思うわ」
再びアリに視線を向けて念じる。今度はマイナスに倍化する。ちなみに一度倍化したアリを、再び倍化にはできなかった。つまり乗算は無理ということなのだろう。あくまで私のこの倍化の能力は、プラスかマイナスにできるというもののようだ。
ただしそれは数を増やす方は少し事情が違って、コピーしたものに対しては増やすことはできなかったけど元となったオリジナルはいくらでも増やせるというなんともチートな仕様のようだった。
つまり米がひと粒でもあればいくらでも増やせて食費が浮くというものだ。この倍にする能力をうまく使えば、お金を簡単に増やせそうな気がする。それこそプラチナやゴールドのアクセサリーを増やして売ればいいのだから。
問題は大量に持ち込めば目立つだろうから、やるなら少量で毎回売る場所を変えるという手間がかかりそうだ。まあその辺りはおいおいということで。
とりあえず倍化能力の検証は今のところこれくらいでいいかな? そこまで考えたところでふと思いついたことがあった。ただし効果自体を確認するには相応の時間が必要だと思う。なので、効果があればいいなー程度にマイナスの能力を自分の身体に使っておいた。全く違和感も変化も感じられないけど結果は下手をすると数年後にならないとわからないかもしれない。
「検証はこれくらいでいいかな。シルフィーナはなにか気になることある?」
「んー? ないかな?」
「それじゃあ、検証結果をまとめてみるわね」
ノートとペンを用意して検証したことをまとめていく。
「まずは異世界渡りについてね」
異世界渡りの前提条件として、扉などの出口から外へ出る時にこことは違う場所へ行きたいとイメージすることで異世界へ行くことができる。逆に戻ってくるときは入口から入る時か出口から出る時のどちらかで戻りたいとイメージをすれば戻れる。
あとは私が移動した範囲で目視できる場所をイメージして異世界渡りをすると、その場所にたどり着ける。ただし戻れる場所は固定されている。検証できなかった事項になるけど、今回のようにテントを使って異世界渡をした場合にテントを移動されるかたたまれた場合はどうなるかわからない。
もし帰るための入口が無くなった場合、最悪帰れないことになるかもしれない。近い内に同じようなワンタッチテントを異世界に持っていって、異世界から戻れるか検証しようと思う。違う入口から帰ることができるなら、不測の事態に備えて持ち歩くのもいいかもしれない。
ちなみに、テントの場合はテントが丸ごと異世界に現れる。だけど他の扉、例えばトイレの扉を使って異世界渡りをするとトイレの個室だけが異世界に現れていた。これって家の場合はどうなるのだろうか? 玄関ドアを開けて異世界渡りをしたら家が異世界に現れたりするのかもしれない。もしそうなら、それはそれで便利そうではある。
「異世界渡りに関してはこんなものかな? シルフィーナは他になにか気になったこととかある?」
「そうね。あのテントと? あれを使えなくすることならわたしにできるから、そのときは協力するよ」
「テントが壊されたときや、移動させられた時にどうなるかの検証のときはお願いするわ」
とりあえず異世界渡りに関してはこんなものだろう。
「続いて倍化の能力をまとめるわ」
今のところ物の数を倍に増やせる。ただし増やしたものを減らす、つまり消すことはできない。スマホなどの精密機械も増やせるし、大きさを変えることもできる。ただし紙幣などは記番号も同じものになってしまうので使えない。
増やしたいものは手で触れていなくても可能なので、使い勝手はいい。仮に石を投げてそれを増やした場合、慣性までもコピーできるようで同じように飛んでいった。これらの法則を利用したら異世界で危険な魔物に遭遇してもなんとかできるかもしれない。
次に生き物は増やすことができない。生き物に関しては身体能力ならプラスにもマイナスにも倍化できる。これは私自身に使えるかは後々検証が必要。流石に怖いので安全を確認してから試してみるつもりでいる。
あとは検証中のものが一つあるけど、それの結果がでるのは時間が必要なので暫く考えないでおくことにする。
「今のところこんなものかな? この倍化の能力ってはっきり言ってチートだよね」
「アレクシアさまはなんでこんな能力をオトハに渡しちゃったのかな?」
「さすがに制限はされていると思うよ」
制限があるにしても使いようによってはかなりやばい能力のようだ。





