第56話 冬場に増えるのは仕方がないことですよ
「う”……」
私は今恐ろしい現実に苛まれている。自分の目で見たのにその現実が受け入れられない。これもきっと鈴ねえのせいだ。鈴ねえが来てからアースガルズにあまり行けていないし、自転車にも乗れていない。
「オトハなにをしているの?」
私の声が聞こえて気になったのかシルフィーナが飛んできた。
「何その四角い板は? えっと数字が書いてあるのよね。よんじゅう──」
「わーわー声を出していわないで!」
「?」
この数字は朝食を食べたばかりだからだろう。きっとそうだ。私は体重計の上から降りた。表示されている数字が現実を私に突きつける。体重体組成計の電源スイッチを押して数字を消す。
「冬は天敵ね」
寒いので家に引きこもってしまう。それなのに三食きっちり食べる。それに焼き芋や餅など完食をしてしまう。そりゃあ体重が増えるのも仕方がない。まだまだ外は寒いけどなんとか運動の一つでもしないとヤバそう。
さて、お正月は終わったけど鈴ねえはまだ戻ってきていない。荷物は置いたままなので一度は戻ってくるとは思っている。いつ戻ってくるのか予想がつかないので不用意に異世界へ行けないのも困る。
短時間なら問題はないと思うけど、鈴ねえの行動が全く読めないので困る。私が異世界に行っている間に戻ってきたらと思うとなかなか行動に移せない。
「あー、朝晩散歩だけでもしようかな。寒いし面倒だけど」
「散歩は面白そうね。良ければわたしもついていきたいわ」
「それじゃあ神社あたりまで歩いてみよっか。お正月の時は真夜中だったから改めて案内するよ」
往復でだいたい一時間なので、散歩としてはちょうどいいのではないだろうか。外はまだまだ寒いのでダッフルコートを着込んで外に出る。ちなみにグランディーネとウィンティーヌの二人は異世界に戻っているので不在。
「はぁー寒い」
吐き出す息が白い。天気はあいにくの曇り空。いつ雪が降ってもおかしくない。
「天気予報見ておくんだった」
「今日の天気はくもりのちはれみたいだよ」
シルフィーナが自分のスマホで天気予報を確認してくれたようだ。じっとしていても寒いだけなのでとりあえず神社へ向かって歩き出す。たまに車とすれ違うくらいで歩いている人はいない。
もう少し早い時間なら犬の散歩をしている人とすれ違ったり、まだぎりぎり冬休み中なので学生の姿もない。あと何日かして学校が始まれば自転車登校の学生なども見かけるだろう。
冬とはいえ神社にたどり着く頃には体がポカポカしてきた。神社の入口にある階段を登ろうか迷う。
「音羽そんなところで何しているの?」
階段を見上げていると背後から声をかけられた。
「びっくりした。急に後ろから声をかけないでよ巫香子」
振り返るとそこには巫香子がいた。巫女服姿で手にはほうきを持っている。どうやら掃き掃除をしていたようだ。
「その格好寒くないの?」
「そりゃあ寒いけど慣れたわ。で、こんなところで何していたの?」
「散歩かな?」
「何で疑問形なのよ。まあいいわここまで着たのならよっていきなさい、お茶くらいは出すから」
改めて階段に目を向ける。
「はぁ登るか」
「いやそんな気合を入れるほどではないと思うけど」
私は巫香子と並んで階段を上がっていく。三が日は過ぎているのにちらほら参拝客がいるのが見える。階段を登りきり手水舎で書かれている手順に従って手を清める。まずは左手を清め右手を清め口を清める。再度左手を清めて柄杓を洗って元の場所に戻す。
「掃除道具を片付けてくるから少し待ってて」
「うん」
鳥居をくぐり社務所近くで巫香子が戻ってくるのを待つ。
「夜に来た時は人が多くてわからなかったけど、ここってすごく澄んでいて心地が良い場所ね。神域ではないのに不思議ー」
「そういうのがわかるんだ」
「そりゃあわたしはアレクシア様にお仕えしているからね。きっとあれがこの辺りを浄化しているのね」
シルフィーナがこの神社の御神木となっている大きな杉の木に向かって飛んでいく。そんなシルフィーナを追いかけるように私も御神木へと近寄っていく。
「うん、この子から少しだけ精霊の気配がするわ」
「精霊? 妖精とはべつなのよね」
「違うよ。精霊は精霊よ」
私のオタク知識だと精霊って妖精と同じような存在だと思われている気がしていたけど、シルフィーナを見る限り全く違う存在のようだ。
「んーなんていえばいいのかな? あっあれよつくもがみ、あれと似たようなものかな」
「九十九神? 大切にした道具なんかに霊が宿る的なあれのこと?」
「そう、それに近いかもしれないわ。だけど正確には創作物に出てくるような九十九神とは別かな。精霊には意識や自我はないから。精霊はただその場で生まれとどまるだけの存在よ」
「よくわからないけど悪いものではないってことでいいのよね」
「どちらかというといいものよ。実際にこの神社内の空気が澄んでいるのはこの子に宿っている精霊のおかげだから」
私にはわからないけど、特に悪いものでないならいいかな。いや仮に悪いものだったとしても私には何もできないと思うけど。
「音羽お待たせ。って今度はうちのご神木を見上げて何しているのよ」
「なんでもないわ。ただ立派な木だなと思ってね」
「うちに残っている記録が確かなら最低でも千五百年前からあるみたいよ」
いわゆる千年杉とういうやつなのだろう。そりゃあそれだけの年月を生き続けているのなら精霊なんて存在が宿っていてもおかしくないのかな?





