第55話 巫女さんって既婚でもなれるらしい
「えっと……」
誰? そう声に出しそうになったけど、すんでのところで言葉を止めた。なんとなく見覚えがあったというのもある。黒い髪、緋色の袴と完璧な巫女さん。私のことを知っているようなので同級生か同世代。つまり年は三十を超えているのだろう。実際それくらいの年齢に見えなくはない。
「ひっどいんだー、私のこと忘れた?」
「いや、ちょっとまって……、みか、こ? もしかして巫香子?」
「そうよ。それにしてもホント久しぶりね。高校の卒業以来かしらね」
「ほんと必死ぶりね。同窓会とかに参加していないからそうなるかな。それにしても巫香子ふけ──」
「あんだって?」
「なんでもないです」
「はぁ、言いたいことはわかるけどね。三十を超えているのに見た目が高校の時と変わらないあなたからしたらそうでしょうね」
彼女の名前は矢間巫香子。高校時代の友人の一人だった。当時より歳を重ねたため大人びていて一瞬誰だかわからなかった。
「それで巫香子は巫女服を着てこんなところで何をしているの?」
「あれ? 音羽は知らなかった? ここは私の実家だから」
「そうなんだ。ん? そういえばなんかそういう話を昔したような気がする」
「まあそういうことよ」
つまり巫香子は実家の手伝いをしているということなのだろう。
「あれ? でも巫女さんって未婚の女性しか……」
「今はそうでもないけどね。まあ独り身なのはそうだけど」
「そうなんだ。てっきり未婚の若い人しかなれないと思っていたわ」
「若くなくてごめんねー」
「そういう意味じゃないから。それに私も独り身だし」
「音羽の場合は別の意味で大変そうよね」
きっと私の見た目のことを言っているのだろう。いやまあ結婚願望があるのかといわれるとあまりないのだけど。そもそもまともな出会いが……。これ以上はお互いに刺さる。私と巫香子は頷きあって話題を変えることにする。
「えっと、それじゃあ私は帰るね。最近こっちで暮らすようになったからそのうち食事でもしましょう」
「いいわね。それはそうと、もしかして今は峰崎さんの家に住んでいるの?」
「うんそうだよ」
祖父母が亡くなったあとも私が氏子を引き継いでいるのでその事は知っていたのだろう。ただ私が祖父母の家を引き継いで住んでいることは知らなかったようだ。
「ふーんそうなんだ」
「その反応はもしかして巫香子って家の家系に関してなにか知っていたりするの?」
「そういうことじゃないけど」
どうも歯切れが悪い。うちの家系も長いしこの神社や近くにあるお寺に何か記録が残っていてもおかしくはない。
「ごめん、そろそろ社務所に戻らないと。近い内によければ食事にでも行きましょ」
「あ、うん、それじゃあ連絡待っているよ」
「しばらくは忙しいから落ち着いたら連絡するわね」
巫香子が手を降って社務所のある方向へ歩いていった。私はそれを見送り神社の外へ向かって歩いていく。
「んーさっきの彼女、もしかしたらわたしのこと気がついていたかも」
「えっそうなの? そんな素振りは無かった気がするけど」
「音羽が家のことを聞いた時に一瞬だけ視線が私とウィンティーヌたちの方をむいた気がしたのよね。はっきりとは見えていなかったようだけど」
「そうなんだ。さすがは神職の家系ってことになるのかしらね。歯切れが悪かったのはそういうことなのかな?」
「神職?」
「えっとそうね。あちらにいるかはわからないけど、神に仕える神官といえばいいかな」
「神官のことなのね。それにしてはあまり戦いに向いていないように見えたけど」
「戦い? あっちの神官って戦うのが普通なの?」
「それはそうでしょう。神官は神の代行者、つまりアレクシア様から権能を授かった人のことをいうのよ」
どうもあちらの世界の神職はいわゆる戦う神官の事を言うようだ。
「そういう意味でなら、こっちの世界では神様から権能をもらうなんてことはないと思うから戦うなんてことはないんじゃないかな?」
実際はどうなのだろう? 異世界の存在やらあちらにはアレクシア様というれっきとした神様がいる。もしかして地球にも神様は存在するのだろうか? 今となってはそういった非現実的な存在を否定できない。目の前にファンタジーの権化ともいえる妖精がいるわけだし、私自身が魔法まで使えてしまうわけで……。
「まあ考えても仕方がないし、屋台で買い物をして帰りましょうか」
「わったあめわっため」
「わたくしはりんご飴にしますわ~」
「トルネードポテトじゃないんだ」
「そちらも気になりますけど、りんご飴でいいですわ~」
なら私が代わりにトルネードポテトを買えばいいかな。りんご飴は一個丸々の物以外にもカットされているものがあった。少し前にSNSで屋台でりんご飴を買ったら中が腐ってたという投稿を見たけど、カットされているやつなら見分けられて安心できる。
どちらにしようか迷ったけどカット済みのものを買えばみんなで分けられるのでそちらを買うことにした。それにしてもりんご飴なのにいちご味のがあったけどあれは何なのだろうか。
「決めましたわ。あのたこ焼きというものを所望いたしますわ」
「たこ焼きね」
いろいろと粉ものはあるけどウィンティーヌはたこ焼きにしたようだ。とりあえず一通り購入して帰路につく。それにしても綿あめを買う時に、シルフィーナの指定するアニメキャラがプリントされた袋を選んだら「一人で買い物できて偉いね」といわれたのは流石に失礼ではないだろうか?





