第54話 お賽銭といえばこれですよね
クリスマスも終わり、年末は家でダラダラと過ごしている。蔵から運び込んできたストーブの上にはやかんとお餅、それからアルミで包まれたさつまいもが乗っている。私はこたつでぐでーとしながら面白くもないテレビを眺める。
シルフィーナは相変わらずスマホをいじり何かをしている。相変わらずの現代っ子ぶりだ。グランディーネは焼けたさつまいもの皮をむいて、真っ黄色な中身を手でちぎりながら美味しそうに食べている。素手で熱々のさつまいもを持っているのだけど熱くないのだろうか?
ウィンティーヌは私が眺めている年末の定番歌番組を見ている。どうやらお気に入りのアニソンが歌われているようで、歌いながらくるくるふわふわ踊っている。めちゃ可愛くて目の保養になる。
警戒していた鈴ねえは年末に国外へ出たまま戻ってきていない。連絡すら無いのでこのまま戻ってこない可能性も……うん、ないな。とりあえずボロを出さないようにだけ気をつけよう。
「さてと、そろそろ初詣にいきますかね」
「初詣? なにそれー」
「わたくしは知っていますわ〜。この世界の神に金銭を捧げる儀式ですわ~」
「先ほどテレビでいってましたわね。大きな鐘に木を打ち付けるという儀式ですわよね」
「うんまあ、あながち間違っていないような、ぜんぜん違うような」
グランディーネに悪意はないのだろうけど、神社への賽銭をそういうふうに捉えるのはどうかと思う。あとウィンティーヌのそれは除夜の鐘のことでしょうね。場所によっては参拝客も参加できるようだけど、この近辺はどうだったかな?
「一応の確認なんだけど、シルフィーナたちの姿は見えなく出来るのよね?」
「出来るよ。なんなら音羽の姿が周りから見えなくすることも出来るよ」
「いやそれはいいかな。別に私が隠れる必要はないから」
着替えを終えて厚手のコートを着る。テレビを消してストーブも消す。こたつのコンセントも抜いて台所の元栓もチェック。
「それじゃあ行こっか」
「はーい」
「はいですわ~」
「お供いたしますわ」
私を先頭に三人はふわふわと浮きながらついてきている。最初シルフィーナが姿を消したときは私にも姿が見えていなかったのだけど、今はちゃんと姿を消したシルフィーナたちの姿が見えている。
どうも私自身がシルフィーナたち複数の妖精から祝福をもらったことで、あちらの世界に適応し始めているのだとか。実感はまったくないのだけど、実際に姿を消したシルフィーナたちの姿が私にだけ見えているのだからそういうものと納得するしかなかった。
「歩いていくの?」
「まあね。ほらあの山のあたりはすごく明るいでしょ。目的地はあそこなんだけど、近くに車を止められる場所がほとんど無いのよね」
距離からすると歩いて三十分くらいだろうか。向かう先は地元唯一の神社になる。祀られているのは宇迦之御魂神、まあいわゆる稲荷神社というやつだ。規模としてはそこそこの大きさがあるのではないだろうか。
一応家の家系もこの神社の氏子になっている。とはいえ、御存知の通り家の家系は本家以外はほとんどこの地にいつかないので、昔から金銭的な協力しかしていない。金銭的な、といっても大した額ではないので今も続けられている。
山に近づくに連れ神社へ向かう人が増えていく。ちなみにこの地域のお寺は神社の近くに建っている。この中には先にそちらへ行く人もいるのだろう。我が家も檀家ではあるけど、神社同様に金銭的な支援しかしていない。お墓も本家のお墓しか無いので、手入れなどは任せている。
神社もお寺もうちの家系について理解があるようで今まで何かを言われたという話は聞いていない。今の御時世お金さえ貰えればという考えが無くはないのかもしれないけど。
「屋台がいっぱいあるのね」
「美味しそうな匂いがしてきますわ~」
「お祭りというものなのかしら?」
「年越しのお祭りではあるかな」
神社へと続く道の左右にはたくさんの屋台が並んでいる。一方のお寺へ続く道には屋台のたぐいはない。もうすぐ日付が変わる時間なのでそろそろ除夜の鐘が聞こえてくるだろう。この場所での初詣はずいぶんと久しぶりに来たのだけど、思っていたよりも参拝客が多い気がする。
神社とお寺の分岐路にたどり着いたけど、別れていく人はだいたい半々と言ったところだろうか。そして私たちがどちらへ向かうのかというと神社方向への一択しか無かった。
「見るのはいいけど買うのは帰るときね。今買っちゃうとじゃまになるから」
「買っていいの?」
「一人一つね」
私のその言葉にシルフィーナたちはどれを買おうかとキョロキョロしている。
「屋台は色々あるみたいだからゆっくり決めたらいいよ」
あれは何や、あれが美味しそうなどと三人はわいわいしている。ちゃんと私以外の人には姿が見えていないようで騒ぎになっている様子はない。
「わたしはあれがいいわ」
シルフィーナが指さした物は綿菓子だった。それもレインボー綿あめというもののようだ。何かのアニメの柄が描かれた袋がパンパンになるほど詰められているのがわかる。
「わたくしはあれがいいですわ~」
グランディーネが選んだのはトルネードポテトだった。私も食べたことがないのでどういうものなのか気になる。一つでいいので後で分けてもらおうかな。
「ウィンティーヌは何にするの?」
「少しお待ちいただきたいですわ」
「ゆっくりでいいよ」
ウィンティーヌはかなり迷っている。
「焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、うぅ迷いますわね」
確かにどれもソースと油の焼けるいい匂いがしている。
「とりあえずお参りを先に済ませに行くから」
長い階段を上がり大鳥居をくぐり、手水舎で手を清める。流石に冷たい。手水を終えて持ってきていたハンカチで手を拭い参道を進む。思ったよりも人が多いが進めないほどではない。拝殿前にたどり着いた所で参拝の列に並ぶ。
こういう時はいかほどを賽銭したらいいのだろうかと考えながら事前に用意しておいた五円玉を取り出す。よくあるいい御縁がありますようにという意味での五円になる。もうちょっと良い金額を何ならお札をという意見もあるだろうけど、子どもの頃からの習慣で私は五円にしている。
最近は小銭は量外の手数料で困るなんて話も聞くけど、正直いってそんなのしらんがなとしか思っていない。まあ言いたいことはわかるけど。そういえば電子賽銭なるものもあるとは聞いたけど、流石にここの神社には導入されていないようだ。
順番が回ってきたので、お賽銭を入れてガラガラを鳴らす。このガラガラって正式な名前って何なのだろうか? 二礼二拍手をして心のなかで「今年はいい年でありますように」と言葉にして、最後に一礼をしてその場を離れる。
「変わった儀式なのね」
「たぶんこの国独自の作法なんじゃないかな?」
本当の所は知らないけど。
「それじゃあ屋台で買い物をして帰りましょうか」
そう言って来た道を戻り始めた所で、唐突に名前が呼ばれた気がしてそちらへ顔を向ける。
「あっやっぱり音羽だよね」
そこには巫女さんの姿をした一人の女性が立っていた。





