第49話 禁忌を犯した私は欲望に抗えない
「ふおぉー、このお肉すごくおいしいよ」
シルフィーナがすき焼きの肉を食べてその美味しさに悶絶している。
「柔らかいですわ~」
普段はきのこを中心に食べているグランディーネもお肉をおいしそうに食べている。
「これはすごくいいお肉ですわね」
ウィンティーヌはちゃんと野菜もキノコもまんべんなく食べている。そんな私たちの前にはそれぞれすき焼きが一つずつ置かれている。私は今日禁忌を犯した。人として許されない行為かもしれない。だけど高級すき焼き肉という誘惑には抗えなかった。
何をしたのかと言うとそれは……。そう、ついに私は食べ物に倍化を使ってしまったのだ。とはいえいきなり今回の鍋に使ったというわけではない。最初に試したのは飴だった。包装紙ごと倍化をした物を開けてみると全く同じ見た目の飴が出てきた。
試しに舐めてみた所、味も問題ないように思えた。食べてからしばらく待っても体に悪い影響もないようだった。シルフィーナにも食べてもらったけど、倍化をした物を食べても悪影響がないという話だった。
その結果を受けて私はまず一人用の鍋を一つ作りその完成したすき焼きを倍加した。見た目は全く同じ。最初は材料を個別に倍化して一つずつ作ろうとも思ったのだけど、完成品を倍加できるのではないかと思い試してみた。
そもそもスマホのような精密機器を倍化で増やせる事を考えると、料理の完成品を増やすことも可能だろうと思ったわけだ。結果はできてしまった。すき焼き鍋の温度なども倍加したタイミングと同じように見えた。
この倍化の能力は、オリジナルのものならいくらでも増やすことができるというチート仕様になっている。一つ出来たところで人数分倍化で増やした。シルフィーナだけではなくグランディーネとウィンティーヌにも確認してもらった所、まったく問題なく食べることが出来て体に害はないとの答えをもらった。
それでもやっぱり私はあまりこういう口にいれるものを増やすというのは色々と思うところがある。だけど今回は人数分の高級好き焼き肉を用意できないための苦肉の策として倍化を使ってしまった。
そもそも買った覚えのない高級好き焼き肉が冷凍庫に入っていたのかというと、犯人は至って単純なことでやっぱり鈴ねえが買ったものだった。念の為に連絡をしたところ「一緒に食べようと思ったんだけど、音羽が食べちゃっていいよ。帰る時にまた買って帰るから」と言ってくれた。
はっきり言ってパッケージから高級感あふれる肉なんて今まで食べた記憶がない。そんなお肉を目の前にして誘惑に抗えなかった。それにちょうど私の口とお腹がすき焼きしか考えられなくなっていた。
すき焼き肉は化粧箱に入っていて中には大きなスライスされた肉が八枚入っている物だった。その肉なのだけど、一つ一つがシートに包まれている。そして霜降りがすごい。一人四枚と考えるとちょうどいいのかな? そもそも化粧箱に入っている肉なんて食べたことはない。鈴ねえに値段を聞こうかと思ったけど、結局聞けなかった。いったい一枚どれくらいになるのだろうか……。
「うまっ」
口に入れて噛んだだけでとろけるような食感と、そして実際に溶けるように消えたように感じた。流石高いだけのことはある、のか? 高いお肉なんて殆ど食べたことがないのでよくわからない。ただおいしいということだけはわかる。
これはシルフィーナが手放しでおいしいといったり、キノコ好きのグランディーネがキノコそっちのけでおいしいというわけだ。
私が今まで食べていた肉は何だったのかと。煮込んでも固くならないとかあり得るのだろうか。いや、まあ現実に眼の前にあるのだけど。これはじっくり煮込んで味を染み込ませると良さそうだ。
「あーもう無くなっちゃった。ねえオトハ、そのオトハのお肉を倍化で増やして!」
「別に構わないけど」
「わたくしもほしいですわ~」
「私もいいかしら」
私はお肉だけではなく野菜やキノコをまんべんなく食べていたのでまだ肉が残っているけど、シルフィーナたちの鍋には肉が残っていない。
「あれ? 私のお鍋ってオリジナルだったかな?」
「あっ」
「たぶん大丈夫ですわ~」
「そうですわね。最後に食べ始めたのはオトハだからそれがオリジナルですわ」
「まあ試してみればわかるか」
お肉を一枚取り皿に置いて倍化の能力を使う。
「オリジナルだったみたいだね」
増えたお肉を順番にシルフィーナたちのお鍋に入れていく。こっそり私も自分のお鍋に倍化で増やした肉をいれる。いやー、ほんとに倍化ってすごいわ。食べ物に使うことをためらっていたのだけど、おいしい食べ物の誘惑には勝てない。こんなことなら冷凍された箱のまま倍に増やしておくべきだったかな。
「お肉ばかり食べてないでお野菜も食べなさいよ。それとこの後うどんを入れようと思うけど食べる?」
「食べる」
「食べたいですわ~」
「私もいただきますわ」
どうやらこの食いしん坊妖精たちはまだ食べるようだ。本当に何度目かわからないけどあの小さな身体のどこに入るのだろうか。





