第42話 ソロ(独り身)キャンプはやっぱり騒がしい
「かんぱーい」
久しぶりにキャンプをしている。最近は野菜作りと収穫などで忙しくキャンプが出来ていなかった。日本の方は季節が秋に突入したが相変わらずの暑さが続いている。それに対して異世界の拠点周辺は、森も近いことも相まってちょうどいい気温で安定している。
そんな異世界の拠点近くで今私たちはBBQをしている。参加者は私とシルフィーナ、グランディーネ、ウィンティーヌ、ミケさん、ノム爺の六人。他のノームたちはここにはおらず別の場所で楽しんでもらっている。流石に百人以上のノームの食事を用意できない。お金は野菜とカレーの元をミケさんに売ったものから出している。
食材に関してはミケさんにこちらの世界で食べられている物を売ってもらった。お酒も何種類か持ってきてもらって試飲したけどあまり美味しいと思えなかった。ただし野菜は地産地消ではないけど、自分たちで作ったものを使っている。
そんな私の眼の前でミケさんが焼いているのは、いわゆるマンガ肉と呼ばれるあれだ。でかい、本当にでかい。私の胴体くらいの太さがあるのではないだろうか。そんなマンガ肉をミケさんが手回しでグルグル回して焼いている。滲み出ている肉汁が滴り炎で焼かれて何とも食欲がそそられる匂いが漂ってくる。
この肉はキングエレファモスという名前の動物からとられた肉で、人類種の間ではよく食べられているようだ。とはいえマンガ肉のようにして食べるのは一般的ではないらしい。まあ、この大きさの肉を普通は一人では食べられないよね。
「そろそろいいにゃ」
「おぉ、夢に見たマンガ肉」
「マンガ肉にゃ?」
「そうよ。あっちの世界ではこういう感じの肉をマンガ肉といっているのよ」
流石に私の体くらいの大きさがある肉にかぶりつくわけにはいかないので切り分けてもらう。まずは何もつけずに食べてみる。噛むとあつあつの肉汁が口の中に広がる。肉は思っていたよりも柔らかい。
続いて塩を少しつけて食べると、更に甘さが際立ちおいしい。他にもワサビと一緒に食べたり焼肉のたれをつけて色々と試した。気に入った食べ方はレモンを垂らしたものが美味しかった。それにしてもビールが進む。
全員で食べた割にはまだ半分近く残っている。途中でミニトマトをつまんだり、レタスで巻いて食べたりもしたけどなかなか減らない。食べているのはそれだけではなく、網の方ではコケトリスの串焼きが焼かれている。
コケトリスというのは、シルフィーナたちがコケコケと言っていた魔物から魔核が抜かれて動物になり、それが家畜化した動物の名前らしい。今更ながらシルフィーナたちが呼んでいた魔物の名前は正式なものではなかった。そりゃあそうだよね。
ノム爺たちノームのおかげで異世界での野菜作りは順調に進んでいる。どうも異世界で一般的に作られている野菜よりも、私が持ち込んだ種や苗で作ったもののほうがおいしいらしい。
ちなみに日本から持ち込んだ種は全てがF一品種なので、出来た作物から種をとっても同じものは出来なく少しできが悪いものになる。とはいえ、形が悪いだけなので、味は殆ど変わらないらしい。ただし世代が進めばその限りではなく、病気になりやすくなったりするようだ。
種や苗が日本のものを使ったということもあるけど、グランディーネが耕したことで土に栄養も行き渡っているのだとか。それとウィンティーヌが水を蒔くことで病気や虫の被害がなくなりいいものができているようだ。
そういうこともあり、ミケさんが高値で買ってくれる。種は私の持ち出しだけど作るのはノム爺たちノームがやって、売るのはミケさんがやってくれる。これってこの異世界で生活するのなら、お金の心配は全くしなくても良くなるのではないだろうか。
「お腹いっぱい」
「わたしも今日はたべすぎたよ」
「まだたべられますわ~」
「食事はもういいですわね」
グランディーネ以外は食べるのをやめてお酒を飲みだす。私はつまみの袋をテーブルの上に並べてビールと一緒に食べる。食後のおつまみは別腹なのは常識でしょう。後でカップラーメンでも作って食べようかな。
「にゃーもお腹いっぱいにゃ」
「そうだノム爺。余った食事を他所で食べているノームたちに持って行く?」
「あやつらはええじゃろう。じゃが今回参加できなかった者たちの差し入れとしてもらってもよいじゃろうか?」
「いいですよ。持っていってください」
「それでは少し席を外しますじゃ」
ノム爺は余った食事を木製の大きなお皿に乗せて妖精の小道を使ったのか一瞬でその場から姿を消した。
「もう少し食べたかったですわ~」
「ほらつまみもお酒もあるからこれで我慢して」
「わかりましたわ~」
グランディーネがほわほわしながら枝豆とビールを飲み始める。お酒の弱いシルフィーナは最近ノンアル系にはまっている。ジュースじゃだめなのと聞いたら「あれはね。お砂糖がいっぱい入っていて危険なのよ」と言っていた。何がどう危険なのかは教えてもらえなかったけど、確かに体に良いものではないので何とも言えない。
ウィンティーヌはどうせアルコールを飲んでも意味がないと思っていたのだけど、なんだか焼酎の水割りがお気に入りのようだ。自分で出した水で割ったのが一番美味しいと言っていた。一度飲ませてもらったけど、確かにおいしいような気がした。まあ、ふだんは焼酎を飲まないのでどれくらい変わったのかはわからなかったけど。
そして私は相変わらずビールを飲んでいる。ミケさんがこちらの世界で作られたエールを持ってきてくれたけど、やっぱり日本産のビールがおいしい。
「もどりましたじゃ」
「ノム爺おかえり」
ノム爺は並べられているお酒の中からブランデーを選んで飲み始めた。
「くぅ効くのう」
それぞれが好きな物を飲んでつまみ片手に取り留めない会話をしている。そんな彼らを見て私はなんだか感慨深い気持ちになった。
一人で始めた異世界でのキャンプだけど、気がつけばシルフィーナが現れ、グランディーネが混ざり、ウィンティーヌが増えた。そして今ではミケさんとノム爺が加わった。
私の次の目的である妖精の小道を使えるようにするためには、火と光と闇の妖精から祝福をもらわないといけない。そしてシルフィーナたちがいうには、祝福をもらえたのならその妖精も私たちと共に行動するだろうと言っていた。
まずは所在が大体わかっているという火の精霊を探しに南へ向かうことになる。再びマウンテンバイクとキャンプの旅が始まる。その事を考えると心が沸き立ってくる。そしてきっと私の体重と脂肪を減らしてくれるだろう。
少し前に届いた身体検査の結果を思い浮かべながら私は物思いにふける。





