第4話 異世界渡り
満天の星空。星の配置は日本では見たことのないもので、ここが地球とは異なる世界だというのがわかる。そもそも月の色が青いので余計にそう思える。
焚き火台の上にはシルフィーナと一緒に集めてきた枯れ枝がパチパチと音を鳴らしながら燃えている。ソロバーナーで沸かしたお湯でコーヒーを入れてちびちびと飲む。
「オトハ、それはなに?」
「コーヒーよ。シルフィーナも少し飲んでみる?」
とはいえ十六センチ程度の大きさしか無いシルフィーナに適した食器がない。
「あなたの飲んでいるのを一口もらうわ」
止める間もなくシルフィーナはローテーブルの上に乗っているタンブラーに顔をいれた。
「にがーーい、なにこれ? オトハはこんなのが美味しいの?」
「ブラックコーヒーだからね」
何かいいものはあったかなとローチェアから立ち上がりバックパックを漁る。計量スプーンがあった。今日くらいはいいかと思い、タンブラーにスティックのお砂糖とミルクを入れてスティクスプーンで混ぜる。一口飲んで味を確かめた後に、計量スプーンで掬ってシルフィーナの前に置く。
「飲んでみて」
「さっきは黒かったのに不思議ね。うん、さっきよりはマシね。わたしはもっと甘いほうが好みだわ」
シルフィーナはそう言いつつも全部飲みきってお代わりまで要求してきた。
「ねえ、妖精って普段どういった物を食べているの? さっきもお肉とか食べていたけど大丈夫なの?」
「わたしは何でも食べるわよ。だけど妖精の中でも花の蜜しか食べない子や、虫を好んで食べる子もいるわね」
雑食という言い方でいいのだろうか? 大体は人間と食性は変わらないようだ。ただ料理をするという習慣はないみたいだった。
「オトハの作った料理というものは今まで食べた何よりも美味しかったよ。特にあのチーズっていうの? アツアツだけどびよーんって伸びて面白いわね」
「それは良かったよ」
今日作った晩御飯はレトルトのコンソメスープとチーズディップだった。鶏肉と野菜をホットサンドメーカーに入れて焼き肉のタレで味付けしたあとに、それらを横に寄せて空けたスペースにチーズを入れて蓋をして加熱したものになる。鶏肉や野菜を溶けたチーズに絡めて食べたのだけど、初めてにしてはうまくできたようで美味しかった。
シルフィーナと食後のコーヒーを飲みながら、星空を見上げてまったりと過ごす。
◆
「それじゃあ私は寝るけどシルフィーナはどうする?」
火の始末と食器類を洗って片付けたあと今日は寝ることにする。時間を確認すると日付が変わるところだった。そして時間を確認したことでふと頭に浮かぶことがあった。それは私がどうやってこの場所に来たのかということだ。
色々と検証が必要だけど今回に関しては地球からこの世界に来たタイミングがこの世界と同じ時間に連動しているのではということだ。どういうことかと簡単に言うと、地球と同じ緯度や経度の場所に来ることができるのかもしれないということだ。
もしそうなら、この大陸の裏側にある大陸にいくなら、地球の日本の裏側から世界を渡れば済むのではないだろうか? ただ日本の裏側って沖縄以外は確か大西洋上のはずだから簡単にはいかないだろう。この辺りのことは明日にでも検証してみることにする。
アレクシア様には好きにしていいとは言われているけど、私自身も異世界の国というものに興味がある。ただ、もしも同一の座標に世界を渡ってしまうのなら色々と不都合がある。といろいろと考えてみたけど、大丈夫だという確信はある。
なぜかと言うと──。
「オトハ、オトハってば」
「あっ、ごめん考え事をしていたわ」
「もう、急に黙っちゃうんだから何事かと思ったよ」
「えっと私はそろそろ戻って寝ようと思うのだけど、シルフィーナはどうする?」
「どうしようかしら。オトハはあちらの世界に帰るの?」
「そのつもりよ。この世界って魔物がいるんでしょ? それなら帰って寝たほうが安全よね」
「わたしが魔法で結界を張ってもいいけど。それよりもわたしはオトハの世界が気になる。わたしもオトハの世界に行くことってできるのかな?」
「たぶん行けるとは思うけど、行っても大丈夫なものなの?」
私の異界を渡る力、異界渡りとでも名付けようかな。その異界渡りの条件的にシルフィーナを連れて行くことは可能だと思う。ただし気軽にこの世界の住人を連れて行ってもいいのかがわからない。
「アレクシアさまは問題ないっていってるわ」
「気軽に確認できるものなのね……。まあ問題ないなら時間ももう遅いし戻って寝ましょうか」
片付けた荷物を少しずつテントの中に入れていく。最後にローチェアとローテーブルをいれて。もう一度火の始末を確認。
「それじゃあシルフィーナも入って」
「ここに入ればいいのね」
テントの入口をめくるとシルフィーナが中に入る。私もそれに続いてテントの中に入ると、入口のファスナーを閉める。そして家に帰りたいとイメージしながらファスナーを開ける。
テントから外に出ると先程まであった草原から土がむき出しになっている我が家の庭に出てきた。テントの方を振り向くとテントの後ろには木造平屋の古い我が家が見えた。この家は私が祖父母から譲り受けた家になる。
「ここがオトハの世界なのね」
テントの中からシルフィーナが出てきて辺りをキョロキョロと見回している。





