第36話 海を渡る以外の方法
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「おいしそうだけどこれ本当に食べても大丈夫?」
網の上には牡蠣とハマグリに似た貝が所狭しと並んでいる。
「大丈夫ですわよ」
「おいしいわ~」
「あっ、それわたしが狙っていたのに」
私が食べるのをためらっていると、食いしん坊たちが先に食べ始めた。先程から溢れ出た汁が炭火に落ちていい香りを漂わせている。このまま食べずにいたら全部食べられる。
覚悟を決めてまずは牡蠣を食べる。
「あふあふ、んーおいしい!」
熱いけどおいしい。それに今まで見たことのない大きさの身はプリプリしていて味が濃厚。最初は何もつけずに食べたけど、今度は醤油を少し垂らす。
「あーわたしのにもお願い」
「はいはい」
シルフィーナに言われるまま醤油を垂らす。
「こちらもおいしいですわ~」
グランディーネがバター醤油で味付けされたホタテを食べている。すごくおいしそうだ。私もホタテを食べようかな。ホタテを一つ食べてみる。こちらも日本では見たことのない大きさをしている。大きいので食べごたえがあるし、味も濃い気がする。
こんなことならもっと調味料を用意しておくべきだったかな。ポン酢に味噌、それにレモンやカボスなんかも良さそうだ。牡蠣なんかは準備が面倒くさかったけど、それが報われる美味しさだ。
「おっと魚もそろそろ焼けたみたかな」
一瞬刺し身として食べようと思ったけど、寄生虫なんかがいたら嫌なのでやめておいた。その代わり、一度はやってみたいと思っていたあれをやってみた。それは何かというと、魚の口から串を刺して焼くあれだ。
大きな魚は流石に出来ないので、切り身にしてお味噌汁にしたり、ホイル焼きにしている。そういうわけで比較的小さめの魚を串焼きにしている。
砂浜を少しだけほりそこに薪を入れて火を付ける。そしてその周りに串でさした魚を並べる。一度やってみたかったんだよねこれ。ちゃんと焼けているかを確認をしてから軽く噛んでみる。結構塩をふったのだけどちょうどいい感じに出来ている。
「魚も出来ているから貝ばかり食べてないでそっちも食べなさい」
「はーい」
「いただきますわ~」
「魚って焼くとおいしいですわね」
ウィンティーヌがなにやら不穏な発言をした気がしたけど、そういえば妖精って料理をやっているイメージが沸かない。よくよく考えてみても、ご飯って全部私が用意しているような……。
ビールを飲みながら貝や魚を堪能した。ウィンティーヌが言うには魔物ではない小さいサイズのカニやエビ、それからウニなんかもいるらしいので、今度捕まえてきてもらおうと思う。
今回はクラーケンとザラタンの怪獣大決戦が繰り広げられたために、決着がついた後は魚が一切釣れなかった。ウニの見た目を説明してみた所「あれって食べられますのね」と言っていたので、そのうちウニもとってみたい。
ただ魚は美味しいのだけど下ごしらえがかなり面倒くさく感じた。魚をさばき慣れていなかったこともあり結構時間を使った。これならスーパーなどで買ったほうが楽だなと思ってしまう。
だれか私の代わりに料理をしてくれる人はいないかしらね。チラチラとシルフィーナたちを見てみるけど、私の無言の訴えは通じなかったようで食事を続けている。まあ、もともと期待はしていないのでいいのだけど。
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海を目指すという当初の目的は果たすことが出来た。それじゃあこの後はどうしようかとなったので、三人と相談しながら決めようと思う。
ちなみに本日の朝食は、あさりに似た貝であさり汁とご飯に、昨日の魚で大きめなものを塩焼きにしたものにした。あさりはちゃんと一晩砂抜きをしたものを使い、塩焼きは一度家に戻ってから焼いた。二日酔いではないけど、朝に食べるあさり汁は身にしみるようで美味しかった。
「さてと、今後どうするかの会議を始めます」
「今後?」
「そう、今後よ。そもそも旅をしていたのはこの大陸の反対側にある人類種が住んでいる大陸へ向かう方法を探すためというものだったわ」
「そうだったの?」
「そうよ。決して好き勝手マウンテンバイクで旅をしながら、キャンプを楽しんでいたわけではないからね」
おいそこの三人「マジで言ってるの?」みたいな表情をしない。そうなのよ、遊んでいただけじゃないのよ。いやまあ、キャンプメシを食べてビールを飲んで好き勝手過ごしていたと言われればそうなんだけど。
「あなた達が私をどういう目で見ていたのかわかったわ」
「あ、あはは、えっとそれでオトハはどうしたいの?」
「とりあえず海を渡ることは諦めたわ」
どう考えてもクラーケンやザラタンのような巨大生物がいるところを超えていくなんて無理。お金さえ気にしなければ船でも買ってどうにかとも思ったりはしたけど、そもそも船舶免許をもっていないので本当に小型のものしか買えない。
ワンチャン、ヨットという手もなくはないけど、私はヨットに乗ったことないのでまあ無理ですね。そういった諸々のことを考慮した結果、海を超えるというのはどだい無理ということだ。
「そういうわけで、シルフィーナ、グランディーネ、ウェインティーヌ。なにか手はないかなという相談をしたかったのよ」
アレクシア様からは好きにしていいというお墨付きはもらっている。だからといって何もしないというのはね。それに人類種に会ってみたいとも思う。
「オトハは人類種のいる大陸に行きたかったの?」
「せっかく異世界に来ているのだから、こっちの世界の文化なんかを感じてみたいと思ってね」
三人は顔を寄せて何か相談をしている。内緒話をされている気分になるけど私に言えないことでもあるのだろうと、相談が終わるのを待つことにした。
「方法はなくはないよ」
「その方法を聞いても?」
「妖精の小道を使えば、この世界のどこへでも自由に行くことはできるかな? だけど妖精の小道を使えるのは、名前の通り妖精だけなのよ」
「つまり私は普通なら妖精の小道を使うことが出来ないってことよね。そのうえで教えてくれたってことは、条件さえ揃えば私にも利用ができるってことかな」
無理なら無理と言えばいいだけなのに、あえて私に妖精の小道のことを教えてくれたということはそういうことなのだろう。
「オトハの言う通りよ。だけどあまりおすすめしたくないのよ」
「ということは何かデメリットがあるってことよね」
「デメリットと言えなくもないのかな?」
なにはともあれ、条件を聞かないことには始まらない。
「条件を教えてもらえるかな?」
どんな条件が飛び出してくるのか覚悟を決める。





