第34話 夏だ! 海だ! 焼きそばだ! ビールもあるよ
「うっみだーー」
ずっと続いていた草原が途切れたところで、眼の前に小高い丘が現れた。丘は左右に広がっているようで、この丘を超えないと先には進めそうにない。覚悟を決めてマウンテンバイクを漕いで丘を登る。このときほど電動アシスタントがついていることに感謝したことはないかもしれない。
そしてなんとか丘の頂上へたどり着き、その先に目をやった時に叫んだ言葉が先程の「うっみだーー」になる。そう、私たちはついに海にたどり着いたのだ。
「ほんと長かった」
仕事でもないのに二ヶ月もかけての自転車での旅。地図があるわけでもなくいつたどり着けるかも正確にわからないそんな旅だった。
そんな旅だったけど、きっと一人だったら途中で放りだしていたかもしれない。シルフィーナたちがいてくれたからこそ、ここまでこれたと思っている。
仕事でもないのに毎日のようにマウンテンバイクで草原を走り。休みの日は休みの日で買い物にでたり、家の掃除や片付けをしたり。それに毎回大食いたちの三食を作りをしたりと、これが本当に無職の生活なのかと思いたくなる。
そんな日々も当初の海を目指すという目的を達成したことで嬉しくもあり寂しくも……ん? この思考って社畜根性的なものでは? まあいいでしょう、今後のことは後ほどゆっくりと考えることにしましょう。
砂浜の手前でマウンテンバイクから降りて海辺へ向かって歩く。きれいな砂浜だ。あたり前だけどゴミの一つも落ちていない。
「このあたりに魔物はいないよね?」
念のために確認をする。今更ながら砂の中や海の中から魔物が飛び出して来る可能性に思い至り立ち止まる。
「いないよ」
「いませんわ~」
「近くにはいませんわ」
三人の返答を聞いて再び歩き出す。寄せては返す波。真っ青な海。遥か遠くに見える地平線。波打ち際までたどり着き海水に手を付ける。
「ここだけ見ると、異世界も地球となんら変わらないように見えるね」
海水がしょっぱいのも変わりなかった。
「さてと、海にたどり着くという目標は達成したけど、ここから海を渡って裏側にある大陸まで行く方法なんてないよね」
「だねー」
結局海まで来てみたものの、船が用意できるわけでもない。手がないわけではないけど、現実的ではない。どういう方法を思いついたのかというと、日本で船を買って異世界渡りを使い無理やりこちらの世界に持ってくるというものだ。
だけど私は船の操船ができるわけでもないし、燃料の問題もある。そもそも船を買うのにどれくらいのお金が必要なのかもわからない。仮に船を用意できたとしても、海の上で魔物に襲われたら海の藻屑になるのが容易に想像ができる。
「ま、今日はあそこにテントを立てるかな」
マウンテンバイクのところに戻り移動する。暫く進むと砂浜と草原を遮るように松林が広がっている。本当に松の木かどうかはわからないけど、それっぽい木々が並んでいる。
日陰のあるところにワンタッチテントを張りハンモックを組み立てる。いつもの焚き火台とローチェアとローテーブルを置いていく。日が暮れるまではまだ時間があるけど、晩御飯の準備を始める。
ここの海って魚が釣れたり貝とかとれたりするのかな? そもそもこの世界の魚は食べても大丈夫なのだろうか。魚は魔物なのかも気になる。
「この世界の魚って魔物だったりするの?」
「んー魚の魔物もいるけど、殆どの魚は魔物じゃないかな」
「今度魚釣りでもしてみようかな。まあそれにはまずは釣り竿とかかわないといけないけど」
一応魚をさばくことはできるので、食べられる魚なら一度チャレンジしてみたい。それに海産物が手に入るなら、海産物でBBQをやってみるのもいいかな。まあ日本で買って持ち込んだほうが早いけど。
「さて本日の晩御飯は、海といえばこれしかないでしょうということで、焼きそばを作ります」
「焼きそば! 海の家の定番ね」
「よく知っているわね」
「アニメで見たわ」
あーうん、そうだと思った。
「鉄板を温めてまずは目玉焼きを人数分作って」
ささっと目玉焼きを作りお皿に取り出しておく。鉄板に油をひいてキャベツ、もやし、ピーマン、にんじんを炒める。続いて豚バラ肉を入れて塩こしょうで味を整えてからこちらも別の皿に取り出す。
再度鉄板に油をひいて焼きそばの袋麺をいれる。水をさっといれるとジューっと油が跳ね上がるがそのまま麺をほぐす。麺がほぐれたら先程取り出した野菜と豚肉をいれてその上からソースをかけて麺と具材を混ぜ合わせる。
「いいにおいですわ~」
「おいしそうですわね」
ソースが焼ける匂いがあたりに広がっていく。その匂いを嗅いだグランディーネとウィンティーヌがよだれを垂らしそうな勢いで焼きそばを見ている。
「そろそろいいかな?」
かつお粉をふって混ぜ合わせてお皿に盛り付ける。その上に紅しょうがと青のり、そして最初に作っておいた目玉焼きを上に乗せて完成。夏の海、そして焼きそばとくればビール一択。
「いただきます」
シルフィーナたちのいただきますという声を聞きながらまっさきにビールを喉に流し込む。ゴクゴクと喉をならして飲む。
「ぷはぁー、ビールがおいしい」
ビールの缶を置いて焼きそばを食べる。海を見ながらの焼きそばとビールは最高だ。ソースが良く絡んでいて焼きそばもおいしい。
「ビールがすすみますわ~」
グランディーネは紅しょうがをさかなにしてビールをごくごく飲んでいる。少し前に妖精のサイズにあうコップを買った。少し大きい気もしたけど問題なく使えているようだ。
今日のシルフィーナはビールを飲んでいる。最近は酎ハイの元をジュースで割ったものを好んで飲んでいたけど、今日は周りに合わせてビールを飲んでいる。ただしいつものごとく一口飲んだだけでふらふらしている。相変わらずビールに弱いみたいだ。
ウィンティーヌもビールを飲んでいるが、まったく酔った様子もなく焼きそばを食べている。ウィンティーヌはビールも水と変わらないように飲むので、一缶飲んだ後は水を飲んでもらう。特に文句はないようで自分で水を生み出してそれを飲んでいる。
気がつけば四袋分作った焼きそばが無くなった。少し食べたりない気もするけど鉄板の代わりに網を乗せて、その上にスルメを乗せて軽くあぶる。
「この世界の海にもイカっているのかな」
「いますわよ。人種族からはクラーケンと呼ばれている巨大な生物ですわ」
「クラーケンってやっぱりいるのね。生物ってことは魔物じゃないの?」
「魔物のクラーケンもいますし魔物ではないクラーケンもいますわ」
「それってどういうこと?」
海の魔物について詳しく聞いてみた所、海に生息する生物は色々とややこしいらしい。海の魔物はどの魔物も巨体というのは変わらない。ただし、魔物でない海棲生物も魔物と変わらず巨大なものがいるようだ。
ではどうややこしいのかというと、魔物と魔物でない海棲生物の姿がほとんど変わらないためだ。大きさも見た目も殆ど変わらないものを見分けるには魔核があるかないかだけ。そうなると、巨大生物の体の何処かにある魔核を探し出して魔物かどうかを判断するよりも、いっそのこと魔物だろうが海棲生物だろうが廃棄したほうが早いとなる。魔核を見逃して食べてしまったら大惨事になるからね。
クラーケンも魔物とまものじゃないのがいるので、その例に習って討伐されてもそのまま海に沈められる。
ちなみに人魚のようなのはいるのかと聞いた所、人類種として存在はしているのだとか。上は人間体で下半身が魚の姿をしているようで、人の姿にも自由自在になれるらしい。
その他にも下半身が蛇の姿のものや、背中に翼を生やしているものなども人類種に含まれているらしい。結構人類種って思っていたよりも幅広いようだ。結局人類種と魔物の違いは、魔核があるかどうかなのだろう。
話を海の魔物に戻すけど、海の魔物はやはり大型の物が多い。逆に考えると小さい普通サイズの魚などは魔物ではないので食べることができる。つまり、釣りで釣った魚は食べることができるというわけだ。他にも蟹やらエビやらも普通サイズのをとることができるらしい。
それにしても海にいる魔物ってちゃんと名前があるんだなと、妙な感心をしてしまった。





